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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第3章 経営難と世界危機

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気まぐれロマンスカーと野性味

 迷い森から出て二日目の夜。草原の道から少し逸れて、大きな岩の陰に入るような場所でテントを張っていた。


「なんだ。リーダーがこんな所で油を売ってていいのか?あのままだと料理が…ただの水になるぞ。せめて味見してくれ。俺らのために。」


 大きな岩を背もたれにして焚き火に薪を焚べていると、隣に白衣を着たゴリラ「モノ」が座った。


「いいんだよ。ここで俺が全部やっちまうと、みんなの練習にならないからな。」

「…そういえば元自衛官だったな。いい指導法だな。見てみろ。野営の呑み込みが早いのか、もうまともな形になっているぞ。焚き火とかは。」


 2度目ともなれば野営の準備に手慣れた雰囲気が出ている。獣族の子供は協力し合ってテントを張り、ポコはそれを見守りながら食事を作っている。

 そんな光景を眺めながらモノは感想を述べる。


「単なる工程になってないのがいい。お互い声を掛け合って工夫し、補い合っている。このコミュニティの仲間として鼻が高い。」

「馬鹿言ってんじゃないよゴリラ____でも、そのとおりだよ。」


 なんとなく横目に見たモノの表情は、なんというか何時もより柔らかい気がする。

 炎の影でそう見えているだけなのかもしれない。ゴリラの横顔なんて気にもした事がないからわからないが。


「なぁマサヨシ。あの日、諦めなくてよかったろ?」


 頭に浮かんできたのは痛ましいポコの姿だ。だが眼前にいる元気に子供とじゃれ合うポコの姿は重ならない。


(時間は進んでるんだな。俺が考えてるよりも。)


 変わっていく現実が、みんなが向けてくれる笑顔が、俺がここに居ていいって教えてくれる。だから自分を許せるくらいに、時間が進んでほしい。


「あの日か…。もうどれくらい経ったのか覚えてないよ。」

「長い旅をしたのは事実だ。今じゃ、立派なコミュニティだと私は思う。街から奴隷にされた子供を救い、食いっぱぐれないよう自活の方法を教え、仕事まで立ち上げた。良くやっているよ。火付け役として喜ばしい。」

「なにしおらしい事言ってんだ。」

「…なぁ、マサヨシ。聞かせてくれ。お前はどうやってこっちに来たんだ。」


 記憶の奥底に眠る怨嗟。それは全て、俺の物だ。だけどモノになら、全て受け入れてここまでついてきてくれたコイツになら話していいと思える。


「ブラック企業に務めてたんだよ。パワハラあり、別れ有り、自殺ありの哀しい話さ。」

「…まぁ色々あるんだろうな。転生者なんだし。」

「そういうモノはどうしてこっちに来たんだ。」

「私か。そうだなぁ…詳しい話をすると世界観を壊しかねないし。」

「なんだよそれ。」


 いつもながらユーモアがあるなと思い、笑いながらツッコミを入れる。だが本人はどうやら本気のようで、ツッコミをスルーして話を続けた。


「…私は実験動物だったのだ。ブレインと呼ばれる秘薬を使って脳が特化させ、会話可能なゴリラになったわけだが、その秘薬は人間の魂と脳で出来ている。私のこの人格は、私ともう1人の人間のミックスなのだ。」

「結構重ためだな。」

「色々掻い摘んで話すと、私は島を統治していたんだなこれが。」

「森の賢者が島の王。かっこいいじゃないか。」

「そうだろうそうだろう。ユートピアと呼ばれる私のような実験動物が住まう島。その王だったんだよ。子供だっていたんだぞ!この私にだ!」


 この悠長に話すゴリラが他にもいて、島で暮らしていると考えたら何か面白みがある。


「それで私はある研究をしていた。時間旅行の研究でな。時間を操るにはまず次元の壁を超えないといけないと思い、次元跳躍からアプローチしていた。」

「なんでそんな事をしようって思ったんだ。」

「…まぁ複雑なんだが、まとめて言えば友達が消えたんだ。だが私の作ったマザーサテライトボールは、たまたま次元を超えて作用する仕様だったんでな。友達が何処か別の時間に飛んだことがわかった。」

「それで助けに行こうとタイムトラベルしようとしたら…」

「この世界に来たって訳だ。」


 成る程と言った感じだ。モノはどうしようもない程優しい奴で、最初にあった時から俺を守ろうとしてくれていたのは、ダイスケと被るからだったんだなと理解した。

 そんな事を考えていると、モノは突然涙を流し始めた。


「ほんとに…ほんとに見つかって良かった…。」

「…。」

「なんだ?ゴリラは泣かないが私は半分人間みたいなもんだし泣くときはあるんだぞ。因みに悲しくて泣くのは人間くら_____」

「帰るつもりなのか。元の世界に。」


 その言葉を聞いた途端、モノは太くてゴツくて毛深い指で涙を拭うのを止めた。動画の一時停止のようなモーションが図星の表現なら、人間のミックスと言うのは本当なんだと思う。


「ぁ…その…なんと言えばいいか…。」

「そうか。そうなんだな。」


 きっと優しくて言い出せないでいたために、それを感じ取って欲しかったのだ。

 まだまだ俺達はやる事がある。助けもいる。そんな時に家族と呼んでいるような友人を見つけてしまったが故に、言い出せないでいるのだ。

 彼が背中を押してくれたから、今の俺がいる。だったら逆も然りだ。


「そのーいつ言い出せばいいのかわからなくてな!あーだからその_____」


 俺は言い訳にならないめちゃくちゃな作文を作っているモノの背中に手を置いた。毛深くて温かみがあって、頼りになる背中を忘れないように。


「ありがとうな。いつも。ちゃんと見送ってやるから_____だから_____」


 ミコチが死んだときはとは違う感情だ。悲しみには違いなくても、鼻をツンと刺すような感覚でも、根本は希望を持っている。

 だからこれは今の別れを悲しんで、次また会える事への希望だ。


「_____向こうでも元気でな。」

「…………あぁ。」


 モノは泣いている俺の頭を撫でた。でかいだけじゃない。ゴツゴツしてて、それでいて温かい彼の手を俺は忘れないだろう。

 感慨に耽っていると、気恥ずかしくなってきたのかモノが喋りだした。


「こんな所、黒フードに見つかれば笑われてしまうな。」

「かもな。まぁ奴は居残り組だし、きにすんな」













 

 



 荒々しくドアを叩く音が家に響いている。家守を任された身の上で、叩かれ続ける玄関を眺めていた。何故ならこの事態に危機感を覚えていたからだ。


「ただ事では、ないわな…。」


 こんな時は頭の中のあやとりを解くために状況を整理するに限る。

 まず歩哨の2人、交代要員の2人が帰っていない。単に怪我等で帰ってこられない状況であるかもしれないが、基本的に他の人間よりも秀でた身体能力を有する彼等がコケて足が動かないなどはあり得ない。


 なによりも気になるのは、迷い森の異様な静けさだ。


 現時は真夜中だが、普段なら獰猛な迷い森の生物による遠吠えが僅かながら聞こえてくる。それがないのは、それだけで異常事態だ。森全体が何かに恐れて生活サイクルを変えている可能性がある。


 以上を踏まえて、この玄関を開くかどうかを迷っている。要は襲撃者の可能性があるからだ。


「おじさん…。」


 声に振り向けば、広間には色んな獣族の子供達が20人程集まっていた。みんなこぞって、不安一杯みたいな目をして、俺の背中に注目している。


「ねぇ、開けないの?」


 子供の悲しそうな声なんて聞いてらんねぇよ。だが正直、悩んでいる。


「…まだ良くわからねぇ。開けたほうがいいのか。」

「でももし、ヤクト達なら…。」

「そうだな。そうなんだよ。」


 だが、と言葉を続けない。もしかしたら、違ったら、仮にヤクトだとしても脅されて家に案内していたら。壮大なもしが思考を広げていく。


「開けようよ…。」

「いや。」

「意気地なし。」

「だからこれはお前たちを助けるためでもあるし…」

「勢いがいいのは部屋で夜中にコソコソしてるときだけなの?!」

「カシオペ…」


 子供達の中から、大きなツノを頭につけたエゾシカ種の獣族であるカシオペが前に出てきた。彼女は子供達の中で最年長であり、姉役を務めている。普段は大人しく優しい子故に、突然の躍起に慌ててしまう。


「一人遊びだけ得意なのね!」

「…。」

「このあんぽんたん!あほ!すっとこどっこいしょ!」

「なんだすっとこどっこいしょって…。急に盛り上がるな…。」

「もう知らない!そっちがそうなら、いつものあれだってやってあげな_______」

「あーーーーー!言うな言うなばか!わかった、わかったから!」


 突然の告発に焦る。それについて子供達がカシオペに問いただすが、彼女は顔を赤らめてシカトをしている。


「……いいかお前ら!多分良くないことが起こってる!そして俺の魔法は攻撃に向かない罠重視の物ばかりだ!だから、不届きな輩が入ってきたら_____」


 この言葉を子供に投げてしまう自分を許して欲しい。そう願いながらも声を上げる。戦い生き延びることを教えるのも、大人の役目だよな。


「逃げろ。逃げ遅れた奴がいたら見捨てるな。助け合え。そして逃げられないなら、戦え。自分達が持ち得る物ならなんでも使って生き延びろ。…世界は弱いやつから消したがる。なら恥ずかしくたって、泣いたって、生きたもんがちだ。息意地晒してでも生き残れ。わかったな!!」


 子供達は静かに頷いた。


「・・・弱い大人でごめんな_____開けるぞ。」


 ドアノブの真ん中に設置された鍵を開け、無骨で硬そうな閂を抜いた。ドアに自由が許された途端、両開きの玄関は吹き飛んだみたいに開かれる。


「うわっ!!」


 俺は勢いに負けて閂を持ったまま尻もちをついた。痛みに耐えている間に瞼を開くと、自分にもたれかかる何かに気づいた。

 それは額には大きく開かれた傷で、顔の半分を血で汚したベアー種のトードだった。


「おじ…さん…。」


 息はあるが、弱々しい。服の汚れからなんとか逃げ延びたことがうかがえる。それに急所を外した傷を見る限り、間違いない。これは襲撃というよりも狩りだ。


「トード!!大丈夫か!おい!!」

「おそわ…れて…コトリが…死んで」


 自分自身の弱さに、溢れ出る怒りを拳で握りつぶし、トードを抱きかかえた。


「わかった。もういいから、喋らなくていい____カシオペ!この子とみんなをシェルターに連れて行くんだ!」

「わ、わかった!」


 駆け寄ってきたカシオペにトードを渡そうとした時だ。トードの小さな手が、黒フードの襟を掴んで離さない。


「…大丈夫。みんなここにいる。安心し____」


 眼下にぶら下がる小さな手は傷まみれなうえに、更に小指がなかった。これが何を意味するのかをこの世界で生まれ育った俺には理解出来た。


「安心しろ。お前を見捨てたりしない。」

「………あ…ろ……。」

「もう休め。お前は良く頑張ったよ。」


 必死に何かを伝えようとしているトードは、発音がおぼつかなかった。だがそれを相手にしている時間がないのも事実。立ちすくんでいるカシオペに押し付けた。

 意思崩れしないように、足踏み強く、カシオペに背中を向けて扉を閉めようとした。その時だった。締まりかけのドアに向かって、トードのか弱い声が耳に届く。


「ま……まだ…ヤクトとオネエ…ちゃんが……」


 施錠しようとした動きが止まる。どうする。ここで閉める行為は二人を見捨てると言う事に等しい。


「助けて…。」


 決めた。決めてしまった。扉を閉めることなく踵を返し、カリオペに抱きかかえられたトードの傍に立った。


「任しとけ。」


 安心しろって伝わってほしくて、トードの顔の上に手を乗せる。物のついでにおまじないをかけると、次に手を離した頃には、トードは小さく寝息を立てていた。


「す、すごい。何それ。」

「…文字を媒介にした魔法だ。寝起きは最悪だけど、しばらく休めるだろう。」

「もしかして私にも使ったことある?」

「_______シェルターの鍵は閉めとけ。みんなを頼むぞ。」


 何か野次というか呪詛のような言葉を投げかけられたが、気にせず玄関を潜り、扉を閉めて施錠する。

 思っていたよりも風が冷たさが服を貫通して、身体を捩ってしまった。


「雨が降ってたのか…。」


 加えて夜の静けさを雨音が彩っていた。孤独。明かりのない夜という空間に1人でいる孤独を噛み締め、踵を回す。こんな寒い思いを子供にさせてはいけないな。


「防御魔法は得意じゃないが…。ま、気休め程度にはなる。」


 視界を埋める我が家に向かって掌を向け、何もない空間に8の字を掌で描いた。すると隙間風に揺らいでいた窓も、ガタついていた扉も音を立てなくなった。

 彼の使った魔法は硬直魔法。対象を物質に絞り、動きを止めるという魔法だ。実際には強固になったわけではないが、バリケードという意味ならば使い勝手がある。


「…よし。うまくハマった。久しぶりにコレ使ったぜ。後はそうだな…。」


 何をどうしようかと悩んだ時、トードの手を思い出した。傷まみれの小さな手に小指がなかった。断面の歪さを見た所、切られたのではなく噛み千切られたのだろう。

 小指が欠損すると握力が無くなる。だがそれが目的ではないことは明白だった。


「…トード。」


 ベアー種のトードはメッセンジャーとして生き残ったのだ。私がきた、お前たちの寝首をかきに行くぞ、そう言うメッセージだ。

 標的の仲間を捕まえ、恐怖を与える為に逃がす。そんな事をするのはこの世界に1人だけだ。


「出し尽くす。かかってこいよヘルバーグ。」


 怒りに燃えて立ち向かう気概を振り絞った。相手にするのは、この世界に生きる人類最高の狩人と謳われた男。

 残念ながら俺だって、名前負けをしていないことを、まだ誰も知らない。


 


 



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