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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第3章 経営難と世界危機

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29/45

ある貧血、森のなかんち…なんでもない。

 制服を来た男達はとあるキャンプ場に来ていた。

 街から遠く離れた山麓に、テントが沢山張られている。人気がないこの場所に漂う鉄臭いにおい。そして建てられているテントは軒並み崩されていた。

 ボロボロで、テントとしてちゃんと形を残しているもの一切なく、地に萎んで崩れ落ちたものばかりで、至る所で荒れ果てた形跡が見らる。


「襲撃された…と言うべきね。」


 惨状を腕組みしながら眺めなているのは、黒人女性のナサニエル。

 彼女が率いているハウンド部隊は、まるで働きアリのように、細々と動いて現場を検証していた。


「またコンクエスタと考えるのが妥当なところかしら。でも違和感を感じる…。」

「ナサニエル長官。」


 思案を言葉にして整理していると、若い男がナサニエルに声をかけた。


「あら。何か用かしら?」

「遺体の回収が終わりました。男6名。全員頭蓋を弓矢で射られた傷があります。」


 この現場の特徴として、死人は全て弓矢によるものだった。

 それは見てるだけでも伝わることだと、ナサニエルは苛つきながら後述を待つ。


「身元はまだ詳しくはわかりませんが、最近騒がせている人攫いのグループである可能性があります。」

「…首元にタトゥーがあったのね。」

「ええ。蜘蛛のマークがありました。もし構成員なら同グループに対する襲撃は5度目です。」


 巨大なシンジゲートとして名を馳せる【スパイダー】は人身売買を主にしている。その構成員の襲撃はこの一月で二桁でも行きそうな勢いだ。


「敵対グループの抗戦とも取れますが…。」

「いいや。彼らに楯突こうって輩はなかなかいないわ。もしそうなら多少情報もこっちに来る筈よ。でもそれがないと考えたら…」

「コンクエスタですか。」


 もう半年程前になるが、こういった事例に征服者の名前は欠かせなかった。だがやり口が違う。


「それはないわね。」

「弓矢を使っているから…でしょうか?」

「まぁそれもあるが、良く見てみなさい。」


 ナサニエルの黒い指は荒廃したキャンプ場をなぞって見せた。若い男はそれを視線で追う。


「まず荒れ果て方。テントが潰れているのが大半でしょ?これはどうやって潰れたと思う?」

「上から潰された…くらいにしか思えません。」

「そういコト。コンクエスタなら敵をバラしたりするからテントを潰す必要はない。奇襲攻撃を受けた疑いがある。」

「なんと。」

「武器を持って数で攻めた。コンクエスタのやり方ならコスパが悪いわ。」


 ナサニエルが顎をなぞりながら考えをまとめ始めた。


「物量攻めとは脅威ですね。ハウンドワンでも勝てるかどうか。」

「まぁ征服者の線はないでしょ。商会ギルドに入ったって噂もあるし。とりあえずこの構成員を捕まえるのが先ね。」

「…情報を集めます。」


 そう言って若い男は去っていく背中を、ナサニエルは眺めて言う。


「当初の隠匿作業はなかった。この容赦無しの動きは焦ってる証拠よ。何にしてもそろそろ動きがある頃か…。」

















 商会ギルドの建物にはカフェテリアがある。小さくて足の長い丸い机、それに合わせて背の高い椅子が並ぶ。

 簡素な作りで市役所の休憩スペースみたいだが、席と席の間は広く、商談にはもってこいの場所となっている。


 3ヶ月も経てば俺もそう言った場所を活用し、自分の利益を広げる。だから今日も、こうしてお呼ばれされるわけだ。


 円卓に置かれた白いマグカップが匂いを漂わせて、俺と対面にいる肥ったおじさんの空気を繋いでいる。

 だがおじさんの視線は、俺の顔を捉えて、怯えさせてしまっている。なぜならひょっとこお面を付けているからだ。


「それで…ご要件は?」

「申し訳ありません。気になって仕方がないのですが…その奇天烈なお面は…。」


 それはそうだろう。被っているのは転生前の世界でも時代遅れなひょっとこお面だからだ。

 とはいえマサヨシとしての顔は、コンクエスタとして知れ渡っている。

 正体がバレればギルドを追い出されてしまう可能性がある。だからここははぐらかす以外はできない。


「色々と込み入った話があるので…」

「まぁ事情がお有りなのでしょう。マルセル商会のご紹介でありますので、悪い人ではないと考えます。」

「ご配慮ありがとうございます。」


 最近交渉の場では、マルセル商会の紹介だとよく聞く。

 なにか良いことをしたのかと考えたが、それでもよくわからないので考えるのを辞めている。


「それで…」

「お仕事ですね。すみません話が逸れまして。私は幾多の肉屋の仲介業をしております、ダビデと申します。」


 営業用の笑顔を使うダビデは、肉屋と言うワードを使った。

 俺は農業を扱っている。つまりこれは正当な商談ではないということだ。


「貴方のお話は兼ねてより伺っております。何よりも元ジークフリートの最速を押し返したのだとか…。」


 この商会ギルドで起こしてしまった喧嘩は、腕っぷしの証明と言う皮肉な結果を引き起こしている。

 何故なら実力を頼る輩が増えたからだ。なので彼が放つ言葉に、検討がつく。


「その腕を見込みまして…その…護送をお願いしたくあるのですが。」

「…。」


 俺達が夢見た物ではない。闘いと支配から逃れ、悠々自適なスローライフを確立するため、その基盤作りのためにギルドに入った。だからこういう手合いの話は即断で断るべきなのだ。


「最近我々が業務委託している業者と連絡が取れなくなっておりまして…何卒…。」


 だが先立つ物が無いことには、はじめようもない事も事実。俺は渋々だが首を縦に振ることにした。


「おお!ありがとうございます…。」

「はぁ…。勿論頂くものはちゃんと頂く。それなりに貰うから覚悟してくれ。あと普段はこういう話は断ってることも承知してくれ。」

「はい!勉強させていただきます!それでは運行計画についてですが…。」


 ダビデは何処からか出した紙を机においた。それは白紙だった。

 何をするのかと観察していると、ダビデが手をかざした途端に白紙に文字が浮かんできた。


「あら?アーティファクトをご存知では?」

「見たことないな。」

「まぁ最近技術が確立したものですから…。これは自動手記のアーティファクトで、登録された人間なら筆を使わず、思い描いただけで文字が書ける物にございます。」

「AIみたいだな…。」

「はい?」

「あ、いやなんでもない。話を進めてくれ。」


 ついうっかりと先進技術を話してしまったが、なんとかスルーはできた。


「とにかくですね。今回護衛していただくのは、我が社の有する馬車旅団になります。一月後にこの街の北から出発、3夜4日かけての運行予定となっております。」

「荷物は肉か?」

「兵站用の干し肉です。それらを【ギルボア】という国にお届けするのが今回我々に課されている任務になります。」


 と言う事は国交事業と言うわけだ。これに成功すれば恒常的な収入に加えて、厚い信頼を得られる。インフラ事業、つまり国の仕事は商人とって失敗できない。

 なら尚の事、俺達に依頼する理由が見つからない。


「なぁダビデさん。貴方はなんでこんな大事な仕事、胡散臭い俺達に依頼をしたんだ。」


 自分で言うのも何だが、俺達は相当に胡散臭い。奴隷魔法のトレードマークのような存在である獣人種を連れ歩く、キモいお面をした少年。強さはあったとしても、信頼を置けるか否かはまた別の話だ。

 担当直入な質問にダビデは少し眉を潜めて言葉を紡いだ。


「…なんと言いますかぁ。ちょうどよかったのです。」

「ちょうどよかった?」

「出自不明で最近ギルドに加入され、企業した農業商人。大きな傭兵団ですと、寧ろ襲撃を招く恐れがある。そして貴方は、獣人を守りながら闘ったと聞いております。奴隷を切り捨てる事などせず、助けたと。その気概を買いたいのです。」


 それはそうだ。ポコは俺にとって大切な相棒なのだから。


「そして【ギルボア】は兵役に重きを置く国。ほぼ鎖国状態でありますので向こうの状況を知りませんが、この街アキナイの商人とつながりを持つ事がどれ程大事な事か。」


 軍事国家ギルボア。侵入を許さず進出することもしない鎖国、だが強靭な兵力を保有している列強国だ。

 特に立地が悪い。谷と谷に挟まれているため、唯一のルートにギルボアが立っているような状態。

 だからギルボアを避けて回り道をする貿易ルートを使っているのが現状で、それ故に野党に狙われる事も少なくない。

 そこでダビデが商売、それもギルボアで重要視されてある兵站で入り込めば、新たなルートを開設できるのではと考えたのだ。

 タビデを通せば安全な道が通れ、死人も減る貿易ルートを独占できるという話だ。


「そういう訳ですので、どうか未来の命を救うためにもご助力を…。」


 そう言ってダビデは深々と頭を下げた。


「ダビデさん…。」


 純粋な心は存在しないと、俺は思っている。だがないものをあると思いたいのもまた人間だ。だから俺は試してみる事にした。


「一番前と後ろの馬車に2人ずつ。あとは1人の計6名編成にする。護衛に当たる者の指揮は俺がする。それでいいなら受けてやる。」

「なんと!うけていただけるのですね!」

「勿論報酬は貰うぞ。なんせアンタがギルボアとアキナイを繋ぐまでの間はずっと就くんだからな。」

「よ、よろしいのですか!」

「その方がギルボアも信用しやすいだろ。護衛を毎回変えるような業者、誰が信じるんだ。」

「ありがとうございます…。」


 そう言って涙を流すダビデ。これからの準備を考えたら、面倒臭い事この上ないな。

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