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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第2章 企業への道

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事後報告

 蝋燭の灯りが仄かに照らす部屋に、老婆は正座をしている。

 眼下に灯る蝋燭の火をじっと見つめて、何かを思案しているようにも見えるが、おもむろに言葉を弾く。


「…報告せい。」


 ボソッと言葉を落とす。誰に言うでもなく落ちた言葉を、暗闇に潜んで姿を見せない何者かが拾った。


「まず巨大な人型の件。あれは片が付いた。ヤクザの転生者が詠唱でスキルを底上げし、やり切ったみたいだ。…まぁヤクザは死んだな。」

「死体は確認したのか。」


 老婆の返しに笑いで返す。


「スキルの詠唱で魂は体ごと燃えたんだ。残ってるわけない。現場にもそれらしい痕跡があった。死んだよ。」

「…まぁよい。」

「いつも通り怖いねぇ…。んでお待ちかねのコンクエスタ一行だが商会での契約が完了。晴れてギルド入り。作物納品、農業ノウハウの売り込み。ってな所だ。」


 すると老婆は顎を指でなぞって考え込んだ。


「ふむ…。根回しを掻い潜ったか。見込みありと言ったところよ。」

「やっぱりなんかしてたな狸ババア。」

「どれもこれも星の導きじゃ。ワシはそれに値するか確かめただけのこと…」

「はいはい。いい趣味してるぜ…それで?征服者達は巣に戻ったぞ。どうするんだ?またハウンドでも使うか?」


 ハウンドとは黒人女性のナサニエルが率いる法執行機関の実務部隊。主に転移者で構成され、対魔法対スキルの技術を持っている。


「いや。しばらくハウンドはコンクエスタを狙う余裕はないじゃろ。」

「…どういうことだ。」

「ボイドじゃ。ボイドが起こったのじゃよ。」


 するとため息が部屋に響いた。


「時空連続体に穴があくって現象だったか…。今回は何を吐き出したんだ。」


 老婆はしばらく黙ったあと、まるで別の光景でも見ているように単語を並べていく。


「男……それから弓………剣や魔法の世界ではない、科学の信徒じゃな…。」

「てことは転移か。」

「あのゴリラと同じ。それから其奴は、誰かに狙われておるな。恐らくボイドを作った者に狙われておる。」

「どうするんだ。」

「………征服者に、助けさせるのじゃ。わかったなドック。」


 老婆は言い終えると、蝋燭を吹き消した。











3ヶ月後








 ある男は剣を腰に携えて草原に立っていた。風が草を凪ぐと男の肩まである髪は、カーテンのように揺れる。


「キッショ…。」


 少し後ろの方でガスマスクをつけた男が、ライフルを構えて呟いた。


「なんだ?嫉妬か?お前ガスマスク嵌めてるから髪、流せないもんな…」

「…減らず口を締めろ。仕事じゃなければ頭骨をもぎ取って飾ってた所だぞ。」

「はいはい、ババアといい、お前といい、仰々しい言い方ばっかしやがって…。」


 悪口の間に、また風が二人を包む。すると長髪の男は剣の柄を握り込んだ。


「来たか…。」


 瞬きをした途端に、二人の前にマサヨシが突然現れた。


「手紙を受け取った。こんな呼び出しするなんて、君たちにしては珍しいな。」


 マサヨシの口振りは誠実さを孕みながらも威圧的とも言える。

 それは自分の属する組織が、裏で動いていた事を知っているからだと、長髪の男は勘づいた。


「コンクエスタ。君は正式に商会ギルドで登録されている。商人にアポ無しで会うほど落ちぶれてはないさ。」

「そうか。それで要件はなんだ?後ろのガスマスクがいるけど闘いに来たのか?」


 銃を持っている人間がいる、そして多対一にも怖気づくこともない。マサヨシの相手は、呼び出してきて尚且つ、紳士的に挑発してきたのだ。それにガスマスクは答える。


「俺はそのつもりだ。」

「いつだってこい。同じ事を繰り返すだけだって教えてやる。」

「そうか?だがあの時いた斧娘がいないぞ?」

「わからないの?君程度ならそれだけで充分なんだよ。」


 二人の間に見えない火花が炎になりそうな勢いを、長髪の男が止める。


「まてまてまて。ババアの依頼だぞハウンドワン。我を忘れても任務を忘れるな。」

「……。」

「すまないなコンクエスタ。」

「いやいい。こうなるとわかってた。だがわからないことが一つだけあるんだ。何故裏切ったんだドック。」

「…。」


 長髪の男、ドックは言葉を詰まらせた。


「身なりも良くなった。轡替えしたのは明らかだ。」

「_____今は言えねぇ。悪い。」

「…わかった。」


 ドックの目を見ながら少年はそれを受け入れる。少しの間を持ってドックは口を開いた。


「それで本題だが…。」

「断る。」


 少年はキッパリと言い切った。


「マサヨシ…。」

「虫の良いことばかり言うなよドック。君が交渉人に立つ以上、話を聞くことは無い。一文字たりとも。今回ここに来たのは君の様子を見たかっただけだ。」


 交渉などする気がないとわかるやいなや、ガスマスクはライフルの音を立てて装填した。


「決裂だな。」

「まて!ハウンドワン、話はまだ終わって____」


 誰一人、この場所でドックの言葉を聞くものはいない。ガスマスクは話を遮るように、慣れた手つきで引き金を絞った。


「景気がいいねぇ。」


 撃発音が草原に響いて、音を置き去りに銃弾がマサヨシに向かって飛んでいく。

 すると少年の前に、レンガの壁が現れた。地表から空に向かって伸び上がり、銃弾を受け止めた。

 突然の出来事だが、この魔法の正体をガスマスクは知っていた。


「てめぇ!!!黒フード!!」


 レンガの壁が霧散していくと、少年の隣に黒いフードで顔を隠した男が立っていた。転生者ケンの相棒だった魔法使いだ。


「よぉ、あの噴水で会って以来だな。」

「くそが。コンクエスタの仲間入りしてたとはなぁ!!」

「おれはフットワークが軽いのさ____それより早く帰りな。お前らの回りに魔法の罠が特盛だぞ。」

「やるか!死んでもお前だけは___」

「…帰るぞ。」

「____クソが!!!」


 ガスマスクは歯噛みして煙幕を炊いた。視界は煙で埋まって見えないが、人気が消えた事をマサヨシは感じた。


「なぁコンクエスタ。いいのか。」

「いいんだ。決めたことだからな。」


 遠い目をして腰に手を添える。マサヨシは、自分の判断が間違っていようが関係ない。突き進むのみだと、決意していた。

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