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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第2章 企業への道

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ステゴロファイター

 ステゴロ、喧嘩。俺の拳は誰よりも固く、壊れた事かない。だから喧嘩で負けた事なんて今まで一度もなかった。

 今目の前で地べたで大の字に寝てるひょっとこお面のコイツもそれだ。コンクエスタとかって大きく名前が通っていたが、大したことはなかった。


「…弱っちいクソザコめ。殺しゃしねぇからとっととかえんな。それから二度と顔見せんじゃねぇぞ。」


 踵を回し、ポケットに手を突っ込んで帰路を踏もうとした途端、その動きを止められた。


「まてよ。」


 背後から湧いてきた声に振り向けば、コンクエスタは立っていた。


「…これ以上やんなら死ぬぞ。それで良いのか。」

「お前の拳、なんでも壊せるんだってな。」


 こっちの話なんざ聞いちゃいない。そして、雰囲気もあからさまに変わった。なんだコイツは。


「おい三下。聞いてんのか。」

「あ?」


 あからさまな挑発を避けられるほど、器用ではない。だから乗ってやることにした。


「そうだ。来い。次はてめぇの頭弾いてやる。」

「負け惜しみだぜザコ野郎。」

「...」


 確かにそうだ。スキルの加減はしているとはいえ、2発も俺の拳骨を受けて立っているのは確かにおかしい。脳みそを揺するために狙った頬、人誅も叩い

た。

 にも関わらずコイツは立って話している。持ち前に頑丈だったとしても、コッチはスキルを使ってる。無傷なんてのはありえない。


「そうか。ならもう俺流を通させて貰う以外ない。」

「なんだそれ。」

「壊れるまで殴る。」


 所詮やり方を変えられるほど器用ではない。そんな自分に嫌気がするが、嫌いじゃないんだ。こういうの。


「来いよ。テメェの虎の子、ぶん殴って壊してやる。」


 するとひょっとこは左の掌を後ろに、右を俺に向けた。


「左手が入口、右手が出口。流して通すのは___」


 何かがくる。けれどなんだって良い。俺はいつものように顎を守るボクシングスタイルの構えを取り、気持ち程度に右手を顎先より後ろに下げた。

 足並みを揃え、腰回りから体重を乗せた右フックで、ヤツの攻撃を撃ち落とすのだ。


黄金道(ゴールデンロード)

「なんだと!!」


 その名前を聞いて驚かない者はいない。世界に轟く転移者対抗騎士団「ジークフリート」、その最速が使う技だ。

 黄金剣に指し示された剣戟は標的を消滅させるという伝説級の____


「まず____」


 視界が光で埋まるのと同時に、左手を咄嗟に突き出していた。これは出そうと思った訳では無い。生存本能故の行動だ。

 すると左手の拳に、終わらない鉄砲水に当てられたかのような衝撃が襲って、簡単に指の骨を粉々にした。


「ガッ!!!なんだこれ!!」


 全ての関節が潰れていく。肉を小刻みに震えさて、踵まで突き抜けていくのを感じる。痛みで膝を折そうになるが、光はスキルを受けても消える気配がない。


「なんで消えねぇ!!!なんで!!」


 終わらない勢いが拳に当たり続ける。思考を乱して、死を彷彿させる。余裕を持たせるために脱力する必要があるが、そんな事をすれば直撃を免れない。


「くそ!くそ!!くそぉおおおおおおおおおお!!」


 俺のスキルと体の骨は、光の撃力に負けている。今まさに左手首が折れたのだ。

 柔らかくなる手首を右手で掴み、ギブス代わりにするが、握った途端に痛みが脳を突いて意識を奪おうとする。

 前からからとめどなく押し寄せ、衰退することのない攻撃に耐えかねて、膝を折って地につけた。

 

「し___しぬ____のか」


 一挙に力を使い果たす。もう力なんぞは残っちゃいない。ものの10秒も立てないというのに、俺は俺自信を信用することができない。




_______ケンさん…うちのこを…どうか、助けてぇ!!!




 光の中で見たのは、ある女性が死刑台にて殺された過去の記憶だ。

 彼女はある医者に騙され、娘を奪われそうになり、人間の持つ全てを奪われた後で、死刑台に乗った。


(マリさん。そうだよな。おれが____)


 あの子を救うためにここまで来たのだ。


 置いていった物を取りに行くことはできない。前へ。前へ進まねば。この腕が無くなろうとも。


「俺はぁあ!!!!!」


 左手首から右手を離して、後ろに下げたその瞬間、左手が千切れてどこぞへと飛んでいく。無論スキルの効果範囲は拳だけのため、左腕の血肉と骨はあっという間に砕けて消えていく。


「あの子を助けねぇといけねぇえええええ!!」


 怒号と共に右拳を突き出す。技術なんてもののない、心を込めた単なる拳は、流れというよりもはや壁となる質量攻撃を迎え撃った。


 だがそれだけだ。


 押し返される右腕の関節は、筋肉で締め固められていたはずなのに、じりじりと曲がっていく。


「親父!!聞こえてるか!!俺もやきが回ってそっちに行くことになりそう____がぁ!!!」


 次に限界を迎えたのは全ての衝撃を支えていた右足。

 まるで雷でも落ちたのかと思ったほどに、熱さに似た痛みが突き抜ける。大腿骨にヒビが入った途端、砕けたのだ。


「くッ…おかんの所に返してやれなくてゴメンな____アナ。」


 名前を呟いた途端に光の嵐が消えた。残滓すら残さず、綺麗に消えて、またレンガの壁に挟まれた路地裏が視界を埋める。

 それからひょっとこが立ったまま、俺を見て言った。


「おい。お前、アナって言ったのか。」

「あぁ?それがどうした…」


 ひょっとこお面を外し、俺よりも若い青年の顔が現れる。


「話を聞かせてくれ。」

「なんだ急に……ていうかタヌキはどうした。」















 私はいつものように斧を担いだまま、通りを走り抜けていた。

 ご主人様の能力でショートカットできたのが幸いして、何の妨害もなく前に進めているのはありがたい。


「まっててね!アナ!」


 風が通り過ぎる音が耳障りになる頃に、壁に当たる。


「なにこれ…。」


 建付けが悪そうな木造の扉が嵌め込まれた壁は、なにか違和感を感じる。


(色々と疑問はあるけれど…とりあえず行くか…。)


 横が狭いために斧を横へ振れない。だから私はまるで槍でも持つようにして、斧の刃部を前に、助足をつけた。

 あの森で使った力は【行使の力】。マサカリに宿る特別な力は横薙ぎでないと発動しない。

 だからこの場所は私にとって不利だけど、それだけでは止まらない。なぜなら私にはバネ力のある背筋が発達しているからだ。


「ソーレッ____フン!!!」


 女性らしからぬ掛け声とともに、斧をやり投げのように投げ飛ばす。真っ直ぐとその重苦しい体重を載せて進み、木製のドアを粉砕させた。

 木片が地面を打つ音が軽快に沸き立つ中を、私は駆け抜ける。

 枠だけになったドアをくぐり、薄暗い部屋に入って、大きな声を上げた。


「アナッ!!助けに_____」


 だが思いがけない光景に言葉を詰まらせた。そこにいたのは驚きで腰を抜かし、尻餅をつく清潔な服を着た女の子だった。

 女の子は整えられた髪を流し、洗濯されたであろう少し着古した白い衣服を纏う。

 アナとは大きく違って生活感をしているが、その面影はも瓜二つだった。


「びっくりした…なにごと?」

「え?あー…」


 小首を傾げる愛くるしさだが、それとは裏腹に心のざわつきがヒリヒリと響いていた。


(アナだよね…攫われたんだよね…なのになんでこんな身なりがいいの?)


 自分がされてきた事を思えば、彼女の処遇は理解ができない。

 攫われるというのは自分を奪われることだ。踏まれ、蔑まれ、尊厳ごと全てを犯される。

 自分で有ることを否定されて、持っていたもの全てを奪われるのだ。悪漢の私利私欲の限りを尽くされるのだ。

 そんな思考が、ある答えを見つけた。私はその答えを恐る恐る口にする。そうではないと否定して欲しいがために。

 

「…貴方は、もしかして助けてもらったの?」


 すると少女は笑顔を作って頷いた。


「ケンおじさんがね、死んだおかあさんの約束を守る為に助けてくれたの。」


 俄然とした。


(まって…話し方もまるでアナとは違う。)


 私達はまた何かしらに利用されたのだ。きっとここへ誘った者は、この子を捕らえるために。


「…何から助けてくれたの?」

「えーっと、太ってて、いやらしい顔つきのおじちゃん。」


 特徴を聞くとマルセル商会の会長が頭に浮かんだ。それに黒フードに助太刀した西洋甲冑の意味もわかる。いや。まて。

 そもそもここにいる女の子は、誰なんだ。話し方もあどけない。まるで別人だ。


「気づかれちゃった。」


 背後から声がする。目の前の女の子と、そしてアナとそっくりな声が飛び出した。

 恐怖が心を縛り上げて心臓が跳ねる。だけど私はそれを抑えてゆっくりと振り返った。

 壁際に立ったまま、私と女の子に向けて邪悪な笑みを浮かべたアナが立っていたのだ。

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