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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第2章 企業への道

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21/22

三者三様三つ巴

 私がご主人様にテレパスに集中している間に事が進んでいた。

 喧騒が沸き立ち、小さな悲鳴に視線を流すと思考が乱れる光景が広がっていた。


「返せ!!」


 アナは小さな体を使い、黒フードの男に飛びついた。

 まるで肩車だ。綺麗にした長い黒髪を振り乱して黒フードを掴んでいる。


「おねえちゃんを返せ!!」

「クソ!!なんなんだお前といい。」


 横にいたガスマスクは突然の事態に吹き出した。


「はっはっ!大変そうだなミスター犯罪者。」

「ふざけんな!!」


 だが彼は笑っているだけでは終わらない。さりげなく見回して、標的を見つけてしまう。


「慌てすぎておもしろいが…そんなことよりお前だな。あの時のたぬき。」

「…なんでここに。あなたは、あそこに置いて行ったはずなのに」

「あの程度で捕縛とはな。」


 黒フードと会話をしていたガスマスクの男はポコに気づいてしまった。

 流れるように腰に手を回すが、その隙を突いて黒フードは、ガスマスクの装備品が巻かれている腹に蹴りをいれた。

 不意を突かれて身体のバランスを崩してしまい地面に倒れこんで愚痴を零す。


「んなんだきさまッ!!魔法使いだろ!!」

「魔法使いが武道できても問題なしだろ!!じゃな!!」


 捨て台詞を吐いて黒フードはアナを担いだまま路地裏に逃げ込んだ。ポコも急展開に追いつくため、足を上げる。


「まって!!アナをかえして!!」

「逃げるな黒…いや待てたぬき!!!征服者はどこだ!!くっ……なんだ…足が思うように動かない。」


 後ろから聞えてくるガスマスクの声を無視、目の前で黒フードへ、文字通り無我夢中で噛み付いているアナに叫ぶ。


「アナ!!アナってば!」

「この___返せッ…」


 我を忘れて組み付くアナの表情は、復讐に顔を歪めていた。


「良く聞いてアナ!早くそこからはな___」

「させるカヨ。」


 ポコに備わる獣の勘が、脳内アラームとして鳴り響いた。今まで流れるだけの光景が変わった事に気づくのが遅れたからだ。

 狭い路地裏には足を的確に邪魔をしてくる細々としたゴミ。それからレンガ調の壁が両サイドを塞いで進行方向を決めさせられている。

 その壁には急に正方形の白紙が真横一線にズラリと張り付けられていた。


(まずい。やっぱり____)

「焦ってる暇ないんじゃないか獣人。[さっさと出てこい木偶の坊]」


 フードの中から這い出てくる呼び声を聞いて、壁に貼り付けられた白紙から、木の枝が上下左右あらゆる方向に刺々しく突き出てきた。


(魔法使い!しかも召喚に秀でるルーン系統!)


 これは召還魔法だ。契約魔法により、パスが繋がった者を、魔力に変換し空間転移にて引きずり出す技。何て事を昔に聞いた事がある。


「小手先の上手いだけの技が!しゃらくさい!!!」


 ポコは意識を掌に集めて腕を空につっ込んだ。すると、腕は空間を裂いて何もない場所へと進んでいく。

 これは森の賢者 ゴリラのモノが作ったポケットユニバースと呼ばれる簡易ボックスだ。


「見た事ねえ魔法棚だな。なんだそりゃ。」

「目にモノ見せてやりますよ!!」


 そうして手の馴染みがいい柄を握って引き抜くと、身の丈に合わない長い柄の大きな斧が現れた。

 腕に伝わる重みが、ポコを戦闘態勢にさせた。


「うぉう!流石ラクーン種!だが怪力無双で魔法使いに挑むのはなかなかに賭けだ!」


 そうしてる間に目の前の進路を白紙から突き出た木が無造作に邪魔をする。



 大人が弱者に組し抱く身勝手な理由。アナの話を聞いてから身に覚えがありすぎて、まるで人事だとは考えられなかった。

 転生した身の上で語れるようなことはないけれど、この行き場のない心に灯る怒りを力に変えることは許されるだろう。



「邪魔だァッ!!!!」


 渾身の力身を入れて、斧を投げた。前方に向かって。

 障害物になる木は音を立てて砕け散る。脆弱な壁を蹴散らしながら突き進み、狙いである黒フードの両足を切り倒す。筈だった。


「そんな単純なわけないでしょうが。」


 砕け散った断面をそのままに、枝は更に長さを伸ばし、斧を絡め取った。


「なに?急に木が伸び___グッ」


 突然の圧迫感に負けて、身体の動きが止まる。視線を落とすと、両サイドの壁から生えた木の枝が身体に組みついる。

 そして血が滴り、わき腹にささくれ立った部分が刺さっていることに気がついた。


「なにこれ…」

「地元で自生している名もない肉食の木だ。自損で敵を把握して絞め殺す生存戦略を持つ。解くのは難易度高いぞ。」


 黒フードの言うとおりだった。体の中を掻き分けて進む感覚が痛みと共に胎動していた。


「それが________どうしたっての________」


 だがそれがどうした。この身体を突き動かしているのは怒りだろう。


「私はご主人様の為に、この身が砕けようとも____こんなところでぇええええええ!!!!」


 動く度にささくれだって邪魔をする痛みすら、裂けていく傷口を感じてなお、腹の底から這い上がろうとする怒りがポコを急き立てる。


(あーこりゃだめだ。てかなんちゅう顔する女だ。ありゃ自分の体裂けたって突き___)






































「うおおおおおおおおおおお!」


 邪魔なもの全て無視、獣の本能が示す方向へと走り抜ける。ポコは傷だらけになりながら、獲物に迫り、獲物である黒フードは叫びながら逃げていた。

 そうして裏路地を抜けたなら中央に噴水がある広間に飛び出した。


「くっそ怖すぎだろッてうわ__」


 黒フードは急に足場が変わった事で足取りが絡まって、急制動によりアナが振り落とされてた。

 動きが遅くなる瞬間を、ポコは捉えた。


「歯を食いしばってください。」

「しまッ__」


 柄を握り、足と腕の筋肉をフルで稼動させる。腰を回せば、腕に乗った重みが前へと進んで円を書く。あとは斧を振りぬくだけ。


「させぬよ、小娘。」


 声と共に上から下に向かって軌道を無視し、斧が落ちる。

 ポコは気づいた。縄が身体に飛びついて拘束までされていたことに。瞬く間に無力化の二肯定が一挙に終わった。

 芋虫みたいに地面にキスしていると、背中をブーツが踏みしめ、痛みの強さに声が押し出された。


「グッ!!!」


 痛みに抗い、首を上げる。太陽の光を反射させたレンズがポコを見下ろしている。

 ガスマスクの男がいた。そして右手にはショットガンを握り、ぶら下げている。


「征服者の使いに誘拐犯。犯罪者が二人も居るとは。僥倖僥倖」


 黒フードの男も縛られていたが、足だけは逃れており、ゆっくりと立ち上がった。


「にげるなよドクズ。町中でルーンなんて使いやがって。まぁおかげで引き金は軽くなったぞ。」


 ショットガンの銃口を、黒フードの男に向ける。動けば殺すという死刑宣告が、言葉の中から覗いていた。


「…どうしようもない、か。」


 すると黒フードはフードを下ろして素顔を晒し、黄金の笛を取り出した。

 ポコの目に入ったのは長髪に驚きを感じた。それはアナの記憶にでて来た坊主の男ではなかったからだ。


(なに、アナと何の関係があるの…)


 思考をめぐらせていると、黒フードは笛を低い音で響かせる。瞬きした瞬間には、フードの右隣に西洋甲冑が現れる。

 ガスマスクも、ポコも、予想外の乱入者にひりついた。


「えっ!!なんで!!なんであの人が。」

「元ジークフリートの一振り。最速か。これだからルーン使いは嫌いだ。」


 ポコにとっては直近の出来事だ。目にも見えない素早さで斬りつけ、逃げることもできない事は、その身体で知っている。

 この場の力関係が拮抗していたのなら、今は完全に黒フードに傾いているのは誰もがわかっていた。


「なんで…この男の隣にいるの。」


 ポコは目の前の光景を信じられなかった。あんなにも自分の正義にまっすぐな漢が、犯罪者の横に立っていることが信じられないでいた。


「うお!おめーコンクエスタの付き人じゃねぇか!!…なるほど。可愛そうな場面だが」


 ポコに気づいた西洋甲冑は、まだ黄金剣を抜かず、腕組みし、ガスマスクを見ている。


「義理立てはさせてもらう。」



 


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