おーい!現実戻ってこーい!
どうやらアナにも思惑があったようで、段階をすっ飛ばしたのが気に食わないらしく、アナはポコを睨んでいた。
「…テレパスって。なんかずるい」
「ごめんなさい。」
「依頼内容をもったいぶるやつが悪いだろ。ポコは悪くない。謝らなくていい。」
とはいっても行動するしかないのは明白だった。
「それでアナ、依頼どうする?」
「…」
「…ためしてみろよ。オレはお前を置いていかない。」
その言葉を放った瞬間、アナは力強く頭を縦に振った。これでいい。ギルドに依頼を頼むということは、こういうことなのだ。
「なら街に行こう。」
「そう。また何かわかったら教えて、いってらっしゃ___」
「何いってんだ。お前も来るんだよ。」
「…え?」
マサヨシは住宅街を抜けて、商店街を歩く。だが警戒を解かれることはなく、途中で逃げないようにアナを挟んでだ。
「なんで私がこんなことに付き合わないといけないのよ…」
アナはやさぐれている。その服装はいつもの肌着ではなく、少女然としたものだった。
清潔でキレイな白いワンピースを着せて、ボサついた髪は整髪し綺麗に流れるロングに化けている。新調したサンダルも履いている。全てが新しくなったのは、マサヨシによる発案だった。
それでもアナは納得できず、不機嫌そうに呟く。
「なに?施しのつもり?」
「アホか。施しなんてするほど甲斐性なんて持ってねー。俺らの第一号のクライアントにはちゃんとしてもらおうってだけだ。」
「…ふん。」
そっぽを向いていまだ不機嫌そうだ。お腹でも空いているのかな、とマサヨシは安易に考えた。
「なぁポコ、アナ連れて飯でも行ってくれ。」
「ご主人さまはどこに向かわれるんでしょうか…」
「野暮用だ。何かあればテレパスしてくれ。それじゃーな。」
マサヨシは足の向きを変えようとしたとき、アナが袖を掴む。視線を滑らせるとアナが口を尖らせている。
「…どこいくのよ。」
「あー。」
盲点だった。彼女の辛い人生の殆どが置いていかれるという行為だ。アナはそれを強く自覚してしまったのだ。
だからマサヨシは小さな手を解いて、アナの目を見ながら語りかけた。
「大丈夫だ。戻ってくる。」
「…どうだか。」
「なら目的を信じろ。俺たちは商会に入らないとだめなんだから。」
「…」
納得はしていないが理解は示してくれたのだろう。アナは手を放して、私達を置いて進んだ。
「ご主人様…。」
人混みの中に消えていくマサヨシの背中を見送ると、アナはポコの手を握った。
置いていかれる気持ちはポコも知っている。思いがけず力加減を間違えたのか割りと強く握ってしまった。突然の力に驚いて、アナは飛び上がった。
「へっ?!はへ?なになに?!!」
「だって寂しかったんだもん。ね。ご飯食べに行こ。」
「別にお腹なんて____ちょっと!力強!」
「ごめんごめん。私獣人だから力強くて。」
歩幅を合わせて歩くと、アナは少しだけ口を開いた。
「ねぇ。ポコ。あなたってその…」
言いたいことはわかる。でもここで逃がせば信頼度が無くなることも、ポコはなんとなく気づいていた。
「そう。私は悪い人に捕まってたの。」
「悪い人に…」
「自分の事が分からなくなるくらい色んな悪い事をされたよ。でも助けてくれたの、ご主人さまが。ついでに弟まで。」
「あのひょっとこ仮面がねぇ。」
「だからご主人さまを信じてみて。今はまだ私達はゴールまで遠いんだから…あれ?」
するとアナは足を止めていた。それから握っている小さな手が震えている。丸くなる瞳の先にはフードを深く羽織った男が立っていた。
彼は目の前に立っている男と話している。話しているというよりは口論でもしているような様子だ。
だが問題はその相手で、見覚えのある金属のマスクを被り、見慣れない近代的な装備を着けている。まるでゲームの特殊部隊みたいな見た目は、記憶に新しい。
「アイツ…」
「あのフードから見えた傷、おねぇちゃんを連れてった人の仲間…」
日がまだ上がっているというのに、部屋の中は暗がりに落ちている。
「てめぇも腐ってたな。」
床に寝ているのは太った男だった。彼は医者で、アナの姉の治療していた担当医。ドッグの情報通りにコイツは色んな事をしっていた。
もう動かない口は、言葉よりも多くの血を吐き出している。
「単なる力だけならこんなのは余裕なんだがなぁ。」
体のパーツはバラされていた。腕も足も時空断絶でハムみたいに切り裂き、床には子供が散らかしたおもちゃのように転がっている。
「...ややこしいったらねぇ。」
静けさが頭を動かす潤滑油になっていたのに、今度はテレパスが届いた。
【ご主人さま…面倒臭いことになりました…】




