姉妹の行く末
おねぇちゃんは病気だった。流行り病ではなくて、生まれつきのものだ。
古い畳の上に敷かれた布団には小さな姉が収まっている。何度も咳をしては膨らむ掛け布団が萎んでいく。それを毎日繰り返していた。
「おねぇちゃん。」
「ごめんねアナ。まだ遊んであげられないの。」
話す言葉も声の色も。何も変わらないのに、病状だけは酷くなっていた。
いつも来てくれていたお医者さんも来なくなって、母親は働きに出て帰ってくるのは夜。私とおねぇちゃんだけがいる空間で、私の出来ることなんて、席の声を聞いては心配するだけだ。
「…。」
だから私はいつも、おねぇちゃんの手を握って祈っている。なぜなら親ですら頼れないのだから。
「アナ。おねぇちゃんは強いから、大丈夫だよ。」
「…良くなって。」
「アナ…」
「まだおねぇちゃんとやりたいこと、いっぱいある。みたいものも、見せたいものも。だから神様ぁ」
年端も行かない私が頼れるものは神様しかいなかった。
なんの神に祈っているのかすらわからない。無我夢中で祈りを上げていると、不意に扉が開いて、大人の男が部屋に入ってきた。
「ここか。」
視線を回すと、ハゲ頭で派手な花柄のシャツをを来た男がおねぇちゃんを見ていた。
やせっぽっちな風貌に反して、重苦しい雰囲気が体から沁みだしているような男だ。つまるところ普通の人種ではなく、裏稼業に生きてるような見た目だ。
「てことたぁ、お前がアナだな。」
「だ、誰?誰なの!?!」
「ふーん。」
男は私の叫びを意に介さない。それをわからさせられる気迫がある。彼の決定がこの場を制すことも。
私が唾を飲み込んでいる間に男は思考し、言葉を吐き出した。
「...お前が出ていくか。おねぇちゃんを連れ出すか。アナ、お前が決めろ。」
「え…」
不意に与えられた選択肢はどちらにせよ、私達を引き裂く結果だった。
「え、な。」
「早く決めろ。」
名も知らぬ男が睨みを効かせる。まるで蛇みたいに鋭い視線が、私の恐怖を駆り立てて、言葉を吐き出させる。
「…おねぇちゃん。」
自分が吐き出した言葉を認識した途端に私は口を手で抑えた。なんで。なんで私は私を差し出さなかった。
「…アナ。」
「おねぇちゃ____」
「助けて。」
泣きながら笑って助けをこうおねぇちゃんの表情が焼き付く。私は間違いを起こしたのだと、子どもでもわかる。
それでも体は動かない。軽々と肩にカツガレタおねぇちゃんは、ハゲ頭の男と共に家から消えた。私をおいて。
それから2年が経った。あの日から親も帰って来なくて、一人取り残された私ができること。それは女を提供する以外ないことだった。
事が済んで蝋燭の火だけが照らす部屋には、見苦しい太った金持ちが服を着る後ろ姿だ。この男は喋り好きで、いつも何かと話をしてくる。
「おまえ、姉を探してるんだってか?」
「…」
体を使えば体力が減る。汚らしいとわかっていてなお受け入れた自分が、それを利用してお金を取る醜悪さが、なにより人生の理不尽さが私を戒めて貶める。その自責に駆られれば言葉なんて出てこない。
「ふん。愛想のないやつ。まぁ毎度世話になってるし、いい事教えてやる。商会ギルドに行ってみろ。カネがあるなら、そこでクエストとして依頼できるはずだ。」
「…そ、れは。」
「ん?」
「だ、誰でも…」
「…誰でも大丈夫だ。行ってみるがいい。」
哀れみなのだろうか。何にしても私に少しの希望が湧き上がってきた。
男が帰った次の日には、私はすぐに商会ギルドへ向かった。
それから4年間。クエストは達成されていない。あの日から今日に至るまで、ささやかな希望が私を支えている。




