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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第2章 企業への道

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事後処理なんて久しぶり

 朝日が沈んで、暗闇が訪れている。星空瞬く夜空の下を歩き、身の丈を遥か超える大きな木の門に辿り着いた。

 色んなことがありすぎて、ここまで時間を食ってしまったのは、マサヨシによる策のためだ。マサヨシは色んなことが津波のように押し寄せてきたせいで、疲弊しきっていた。


「疲れた~。」

「え、えぇ。そうですねご主人様。」


 右隣にいるポコは、マサヨシを視界から外すため、顔を逸らす。


「そ、そんなことよりもですね。あのマスクの人、殺さなくてよかったんですか?」

「まぁやったあとがめんどくせーしね…なんでこっち見ないんだよ。」

「…」


 結局、マサヨシたちはガスマスクの男をどうすればいいかわからず、気絶させて放置することにしたのだ。

 殺さないだけマシだろうという判断のもと、マサヨシという「大犯罪人 征服王」という肩書は健在だ。

 だから身元を隠すために、顔を隠すことにした。だがその真意を推し量ることはできず、ポコは未だこちらを向かず、小さな肩を震わせている。


「そ、そのお面は一体…」

「これか?これはカナリアに作らせたひょっとこってお面だ。なかなかいいアイデアだろー?」


 異様に出た頬骨に、小さな目玉焼きのような目が2つ、そしてハエの口のようなおちょぼ口が飛び出た異型の顔。ひょっとこお面を、俺は被っていた。

 身元を伏せるという意味合いと、新しい自分を作るために用意したものだ。


(さすがキツツキ獣人のカナリア。上手く出来てるぜ。)


 これが意外としっくりくるのでマサヨシ自身も驚いている。


「そそそそそうですね。」


 宴会芸ですらこんなものはつけない。現代人たるマサヨシの認識では、すべり芸の一つでしかない。なのに案外受けがいい。現にポコはこのお面を直視できていない。

 それならドックはどうなんだと、顔を向けてみると、無反応無表情だった。


「…。」

「な、なんだよ。」

「う○こ。」

「ぶひゃひゃひゃひゃっ!!」


 真顔で耐えていただけだった。


「よし、一笑いしたところで前に進もう。」

「お、おいまて!そんなお面でぶひゃひゃひゃひゃ!!!まて!まてってぶひゃひゃひゃ!!!」















 美しい建造物達は、中心に座する白い外壁の王城を囲んでいる。思わず口を開けて感銘の賛辞を送る。


「すごい」

「4万人以上が住み、その倍は商いの為に商人がくるとされる商業都市。ここがアキナイだ。」


 鼻高々に補足するポコだが、マサヨシは気づいていた。それがドッグの入れ知恵であることを。


「なんか転生者みのある言葉だな。それは。」


 するとポコはマサヨシの近くまで駆け寄り、耳打ちを始めた。


「…大体、島根県くらいの人口ですねですね。」

「少しイメージしづらいな。ていうか、ポコもそういえば転生者だったな。今思い出した。」


 ズボラとも言える名前に、感想はないが一先ずの目的はギルド。商会への入会ために人の波を逆立てるように流れを割って進む3人。


「あ、あれ?」


 そんな流れの中でポコだけは歩幅が合わず少しづつ、マサヨシの背中だけが、人並みに埋もれていく。


「ごしゅ…ひょっとこさん!あっちが商会ギルドがある____」


 背後からポコの口が手で抑えられる。言葉を発せられないまま、視線だけを後ろに流すとヒョットコお面ことマサヨシがいた。

 マサヨシは空いた左手を後ろに流して、少し肥えたおじさんの手を握っていた。


(な、なにを__)


 握り込まれた手から血が滲み始めた。刃物。ポコは瞬時に何が起きているのか察しがついた。


(__後ろから刺されそうになったんだ。だから御主人様が助けに来てくれた。)


 マサヨシは左手を解放し、相手の胸ぐらを掴んで、肥え太って清潔感のない顔を引き寄せる。


「ナ、ナイフが消えた…何しやがった…。」

「うちのポコを捕まえようとしたからだ。」

「何を根拠に…」

「お前右利きだろ?だから左手のちっせぇやつで脅して、右手で捕まえようとした。息荒げに向こうから見てたのは知ってんだよ。」


 しょうもない事を考えてるな。そう思ったマサヨシはおもむろに、おじさんの固くなった股間を握った。するとキモい悲鳴を叫んだ。 


「や、やめてくれ!俺は男に興味が___」

「邪魔なもんぶら下げてんなおっさん。善意のボランティアだ。消してやるよ。」


 頭に思い描くのは数式。多大なる練習によって、頭にイメージがなくとも、距離を明確に計算できるようになったことで、瞬間転移をより使い勝手よくなった。

 つまりだ。俺の手に収まってた股間は虚数空間に消えて、皮膚組織と神経を体から分断した。


「ァァァ!!」


 股間を抑えながら内股になって地面に倒れた。


「二度とあらわれんじゃねぇぞ」













 商会ギルドと呼ばれる建物の中は、外見の壮健さとは裏腹に慌ただしい。少し運動不足気味な御仁が右往左往していたり、肥え太った腹を抱えて笑うおじさん、見立てのいい服を着るが、やせ細った若人までいた。


(もっとこう…市役所みたいに静かなイメージだったなぁ。)

(ここは金の匂いに食らいついて肥え太る、そんな俗物が集まる場所だからなぁ。ちょっとした社交場なんだろうよ。)


 そっと耳打ちするドックも、どこか居心地が悪そうではある。サッサッと要件を終わらせようと思い、マサヨシは足を進める。

  だがマサヨシたちの奇異な身なりを見て、金持ち共の視線が集まっていた。ねっとりとした視線が体に感じてしまうほどだ。なによりポコへの視線が熱くなっている。それは獣人が故にだ。

 

「御主人様。私がここにいてよろしいのでしょうか…」


 顔を俯かせてつぶやくように言うポコ。彼女は真ん丸な耳を頭に生えさせているラクーンドッグ種の獣人だ。

 この世界で獣人というものは奴隷として使役されている。つまり商人達から見る目とは、性奴隷という消費的な品物としての品定めが主になる。


(それがどうしたというのか。)


 不安そうにする彼女の前に片膝をついて、下がった顎に指を添えて上げる。すると前髪の隙間から覗く緑色の瞳が潤んでいた。まだわかっていないようだから、これは言ってやらないと。そんな気概がマサヨシの心を動かした。


「ここにいて、俺を守ってくれ。」

「ですが...私は獣人で…」

「気にするなポコ。そんな奴らほっとけばいい。俺たちはオレたちの道を進むんだ。」


 気持ちが伝わったのか、ポコは顔を上げて笑顔を取り戻す。


「わかりました。」

「よし___ってドック消えたな。大事なときに。」


 いつの間にか消えたモジャ髪ドックの後を追うべく立ち上がり、踵を返した。


「おやおやきみたちは、どこから来たのかな?」


 すると目の前に、肥った貴族が息を荒くして立っている。彼のごちそうでも見るかのような視線は交わらない。俺ではなくポコに向かっていた。


「俺達は商人登録を済ませようと思って来たんだ。」

「そうかそうか。なるほどなるほどぉ」


 人と話してるというのに目を合わせない相手に、日本人たるマサヨシの機嫌に触れていた。


「商材も勿論ある。さっさと済ませたいんでね。悪いがそこを___」

「いくらかね?」

「____あ?」


 マサヨシの中で燻る怒りが滾る。流れる血が沸き立つ。なにより心臓が跳ねていて、煩くて仕方ない。


「何だその態度は?お前は奴隷商人なのだろう?だから商材を連れ歩いている。コマーシャルとしては上々だ。」


 この発言が出てくることをポコは危惧していた。アワアワと震える中で、マサヨシの表情は変わらない。ただそれは抑えているだけ。沸き立つ鍋に蓋をしているようなものだ。


「違う。これはうちので、商品じゃない。」

「なるほどなるほどぉ。ラクーンドッグ種の獣人は珍しい。だから手放さないと言うんだな?」


 マサヨシはつい口に出そうになるのを、必死で堪えているというのに、男の逆撫でする発言が止まらない。


「なに?」

「しらないのか?ラクーンドッグ種のオスは強く、メスはそこらの男どもより強くてビジュアルもいいとくる。一族の血筋故、非常に需要がある。」


 喋るな。


「雌雄共に労働力、はたまた戦力、それから慰安。奴隷に欲しいものが全て揃っている。それ故に奴隷契約するためこぞって捕まえていた。そしたら、ぱったり。その数を減らし、今ではほぼ絶滅したといっていいのだ。黒猫族の二の舞いだな。」

「____」

「だから。なぁわかるだろ?わしが商会に口添えしてもよい。だから譲れ、そこな獣人を。」


 絶句。マサヨシはこういったことは遅かれ早かれあるのだろうと覚悟はあった。だが感情は意識と別の場所にあり、怒りは常に思考の下敷きになっていて、今か今かといつでも覗き込んでいる。


「なぁあんた名前はなんだ。」

「ふん!ワシはコーマルセル家の家長であり、マルセル商会の会長を努めているコーマルセル・ビフレスト。恐れおののくが____」

「そうか。ポコ、ヤレ。」


 マサヨシの発音したほぼ同じタイミングで斧が走っていた。肥え太るビフレストの首に向かって、迷いなく、研ぎ澄まされた鉄塊は誰の目にも止まらない。

 刃が首につくまでの間は0.5秒、誰にも反応なんてできるはずもない速度は急制動をする。

 斧はビフレストの首から数センチのところでピタリと止まった。


「いい加減にしな大将。」


 斧は、鎧を全身に纏う男が受け止めていた。小手で防備された中指と人差し指で刃部を挟み込んでいる。

 ポコとビフレストの間に、現れた西洋甲冑は兜の奥からマサヨシに視線を送っていた。顔の形さえわからない兜の隙間から、言い難いプレッシャーが吹き出していることを感じている。


「何もんだテメェ。」

「大将の悪い癖だぜ。その底なしの性欲ってのか?人様の大切なもんに手を出すなって忠告してんのによぉ。」

「ふん!そのためにお前がいるのだろう?ジークフリートに名を連ねる者よ。」

「そんなたいそれたもんじゃないんだが…」


 まるで蚊帳の外。マサヨシが腹の中に溜め込んでいる怒りの矛先は、鎧の男に注がれる。


「だから何もんだてめぇってきいてんだろぉおが!!!」

「あーすまんすまん。本当にわるかった。だから頼むからワンワンニャーニャー泣かないでくれ。」


 頭の中で思考が怒りで巡る中、急に脳内でアラーム音が鳴る。その瞬間には瞬間移動を繰り出した。

 大移動などではなく、後ろに25歩程度離れた距離。これはロングソードを横薙ぎしたときに届かない距離だと認識していた。

 だが鎧の男に武装している様子はない。腰に何もかかっていないことを見ると、マサヨシは悔しさを歯で噛み潰す。


(___俺多分、ビビったんだな)


 何もない空間に飛んで、何もない空間が生まれるているはずだった。

 なのにマサヨシと西洋甲冑の間に光が通り過ぎた。目には見えないが、確実に何かが通り過ぎた。


「ほぉ____勘か恐怖か。俺の技がお前の生存本能に負けた。」

「なにした!!イマてめぇなんかし___」

「ご主人さまに触るなぁ!!!!!」


 ポコは怒りの形相を浮かべて西洋甲冑に斬りかかる。


 まず上段。頭を狙ったフルスイングは斧の重みを含んでいるが、鎧は素早く上体を屈めて避けられる。

 次に下段。フルスイングを筋力だけで歪め、下へと敵の足を薙ぎ払うために刃が滑っていく。

 だが飛び上がられて避けられた。重苦しそうな見た目から想像もできないほどの跳躍力だ。その後の展開は読める。


「ポコ!!」


 だが言葉は届かない。甲冑の足が煌めいて、ポコの心臓に向かって蹴りが発射される。だがまたも、何もない空間を鎧の足が貫いた。なぜならマサヨシがポコを真隣に瞬間転移させたからだ。


「ポコ!!」

「いいもん持ってるぜ二人共よぉ。一撃必死の技がお前らの前じゃ型なしだ。」


 言葉に濁りを感じない。彼が腐った騎士ではないことをマサヨシは感じていた。

 だが正体がつかめない。転生者?魔法使い?なんにせよ力の正体が見極められないまま戦うのは良くないことだけが、マサヨシにはわかっていた。


【ご主人さま…】


 今度は急にポコの声が思考に割り込んだ。


【これはテレパシーです。成人したラクーンドッグ族にだけ許される特技なのです。秘密にしててごめんなさい…それよりもわかった事があります。】


 頭の中にある映像が浮かんだ。

 それは戦争を描写した絵画だ。暗い空間の中で西洋甲冑はただ立ち尽くし、その足元におびただしい数の死体が寝ている。服装は兵士だけでなく、農民や夫婦などのべつ幕なしといった様子だ。


【200年前、転移者との戦争でジークフリートと呼ばれる英傑達が組織されたんです。その中でも最速と呼ばれる男がいました。彼の剣技は目に見えず、素早い一刀を捉えられる者はいない。立ち会えば死が訪れる死神と。】

(つまりそいつが目の前の西洋甲冑だと?)

【酷似しています。剣を抜いてもいないのに、必ず致命傷にまで届く最速の剣撃。ですがもっと厄介なのは彼の魔剣にあります。魔剣は黄金の道を切り開く。狙う剣筋はどうあがいても避けられないそうです。】


 つまり、目の前にある鎧を着た化け物は、射程範囲内なら致命傷が必ず当たるチートな騎士様という事に他ならない。

 なら簡単。俺ならヤツを殺せる。俺のスキルは空間を断つのだから。マサヨシがそう強く確信していると、騎士は何かを察した。


「そろそろ潮時だな、飽きてきたし。根性のある青年に、冥土の土産を見せてやるぜ。」


 騎士は右手を上げた。すると空間の中は波立つように歪み、手首よりも先が埋まっていく。


「俺がなんで栄えあるジークフリートに選ばれたか、なぜ最速と呼ばれているか。教えてやる。全てにおいて一撃必殺だからだ。こい。来なければ引きずり下ろすぞ。」


 波打つ空間から引きずり降ろされたのは、馬の首なら振り下ろすだけで斬れそうなほど、とても巨大な両刃の剣が、マサヨシの前に降臨した。


「やめとけよコンクエスタ。死にたくなかったからな。」

「なに?」


 西洋甲冑は俺の思考をかき乱す。何故正体がばれた。


「騎士道精神に則って明かしてやる。俺はジークフリートの一人、神速を担当してる。今じゃ落ち目だがな。」


 西洋甲冑は毅然とした態度で言葉を使う。


「この鎧は壊れねぇ。理屈は知りゃしねぇが、スミス曰くあらゆる衝撃を受け止めて記憶するとさ。角度や強さをしっかりとな。だからこの鎧に時空断絶でもしてみろ。どうなるかわかんねぇぞ。」


 時空断絶とは確かに言えてる。だが衝撃が吸収されたところで、その空間をただ分けてしまえば住む話だ。

 だがまて、もしそれを吸収でもされたなら、この空間はどうなってしまうんだ。


「許容量を超えた場合はこの鎧は記憶していた攻撃を一閃に載せて吐き出す。肥え太った剣戟は辺りをたたっ斬ることになる。そうなったら百年前の再来だ。」

「百年前?」

【最速が捕まった所以。ある大きな街を瞬きを一回する間に全員が切られた事件の事です。】

「お!知ってんのか嬢ちゃん!」

「…聞かれてたのですね。」

「ラクーン種のテレパスは有名だからな。だがこんなにクリアなのは初めてだがよ。」


 テレパスも、空間を切ることさえ叶わなくなった。これはもう本当にどうしょうもない。だが、マサヨシは諦めていなかった。


「へー。いいね。心が打ちひしがれるのに慣れてる。地獄を見慣れ、死中に活路を見出す目は嫌いじゃないぜ。ひょっとこお面さんよ。」

「目なんて見えねぇだろ。ふざけた奴。」

「なんでもいいが、例え技を封じられたところで止められねぇぞ。おれはよ。剣と腕が2つあれば世界を切り裂けるんだからなぁ。」


 その瞬間、視界の中に一筋の黄金が道を作った。それは西洋甲冑から俺の胸にかけて走っている。


「死人の道が見えただろ?これが、この黄金剣の力。逃げようもない死ってやつ。」

「御託はいいからさっさとやれ。ウスノロ」

「いいねぇ。気に入った。」


 そうして剣の柄を握り込む。チャンスは一瞬で終わる。


「じゃあな。お別れが_____悲しいぜェェエエエ!!」


 柄が消えたと思うほどに、鞘走りは光よりも早い。黄金剣が軌跡をなぞり、斬撃___というよりも光線が飛び出し、マサヨシを貫く。


 筈だった。


「…驚いた。黄金剣の剣戟を閉じ込めたのか…。まさか逃れるやつが存在するとはな。」


 切り裂かれるはずの胴体は繋がっているし、死んでもいない。


 思いがけない結果に西洋甲冑は兜を取った。そこにあるのは日本人特有の面長。髪の毛は長くなっていて、全てを後ろへとながしたオールバックだった。美丈夫とよぶに相応しい顔立ちの男は笑った。


「尊敬に値する。お前は200年の歴史で、唯一我が刃から逃れた男だ。」

「驚いたか。俺の体は切られず、まだくっついたまんまだぜ。」

「黄金剣は切ると言うより、溶けるぞ。」

「…まじかよ。」


 西洋甲冑は兜をつけて踵を返し、ビフレストの両肩を掴んでいった。


「帰ろうおやっさん。無理だ。勝てないわこれ」

「にゃ、にゃにぃ?!!あそこのラクーンドッグをつれかえ____」


 なんやかんやと言われながらもビフレストの背中を押しながら外に出ていった。

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