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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第2章 企業への道

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16/27

魔弾の収穫

ブルジョワ陥落から半年が流れた。



 冬の季節が目前となった今日。賢者であり、ゴリラのモノとマサヨシは会議室として用意した部屋で机を囲んでいた。


「みんな、集まってくれてありがとう。」


 子供達の世話を任せている大柄な女性のテレサ。情報収集をしてくれているモジャ髪のドック。そして子供達の意見をまとめてくれているタヌキ獣人のポコ。

 4人と1頭の首脳会議は円卓を中心として始まっている。


「今回も先日の件について、協議した結果を聞きたいんだ。」

「あのー」


 椅子にちょこんと座るポコは、申し訳なさそうに口を開いた。


「どうしたポコ。」

「あの。みんな学校にもいってなくてですね、言葉の意味をまだよくわかってなくて...。私は会話の流れで多少理解はしましたけど、みんなに意見としては伝わったかと言われると...」

「あー起業の意味か____」


 向こうでは一般常識であっても、こちらでは言葉として通じなかったようだ。


「起業ってのは、まぁ自分達で仕事をするって意味だ。この言葉そのまま伝えてくれたらいいよ。」


 これに思い至ったのはうれしい計算外、野菜が豊作だっからだ。


自分たちの口を賄うために、「隠れ森」の土が農作に向いていることを知っていたマサヨシの発案で野菜を育てることにした。それが上手く行き過ぎた。

 総勢33人の胃袋に入り切らないほどの収穫量は、全体の約37パーセントを余らせる結果となった。

 ならば自分達で売ってしまえばいいと考えたのが、この会議の発端である。


 説明をしている間に考え込んでいたテレサは、厚めの唇を走らせる。


「確かに味もいい野菜だ。でもねぇ、起業するったって野菜を売るだけじゃあ身入りが不安だわよ。」

「じゃあ余った肉を干して売る、とかどうだろう。」

「そら備蓄外がありゃいいがね。新参八百屋の干し肉が売れるかと言われると、難しい所だね。」


 もっともな意見だと、マサヨシは思った。冬に備える分以上にあればいいが、肉に関してはそんなこともない。ぽっと出の八百屋が成功するかと問われると、難しい気もする。

 なんにしてもいい案は浮かばないので、もじゃ髪ドックに話を流してみた。するとどちらかと言われればマサヨシ寄りなアイデアを弾き出す。


「んー。情報商材として売ってみたらどうだ?」

「しょうざい?」


 ポコ以外のメンバーはそれだと意見が一致した。


「確か西方にある街で不作が続いてた筈だ。ここのやり方は干上がった土地でも根づきそうだしよ。」

「おー!いいんじゃないか?!早速とり____」

「それには!」


興奮気味な俺を制したドックは言葉続ける。


「雇用体型、営業目的、税金とかとか。ハッキリさせないと商会が通さねぇ。その上で商会ギルドに入らないといけねぇ。」

「...」

「なんだその顔は。後ろ盾がない店ほど胡散臭いもんはねぇだろ。情報を売るならちゃんとしろ。」


  至極ごもっとも過ぎて言葉が出ない。あんなアウトローな街で生きてきたとは思えない発言だ。

 会議の後、書類作成を開始する。だがこういった届け出は、何の、どういった書式なのか、まるで分からない。





 そしてマサヨシたちは歩いて半日ほどある商会ギルドに向かう事になった。







 モノの指導と練習の甲斐があって、自分を含めた少人数なら瞬間転移ができるようになった。隠れ森を突っ切るのは危険だったが、俺のスキルを使えばほぼノーリスクで森の外へ出られる。

 大きな斧を持つポコとドックをつれて、森の外に広がる草原に降り立てば、爽やかな風が吹き抜けていた。


「瞬間移動のスキルってのは、何かと便利すぎるな。」


 ドックは景観の変化を眺めながら呟いたので、それとない返事を返す。


「まぁ色々使い勝手はあるね。」

「ご主人様は謙遜しすぎですよ。もっとこうえっへんって、してもいいと思いますよ?」


 自信のない回答にポコはマサヨシのために援護射撃をする。腰に手を当て、胸を張る。小さい身体を全部使って表現しているが、マサヨシはどうにもまともに受け取れなかった。


「なんだえっへんって。かわいいしか伝わらないぞ。」

「はぐらかされてる…」


 1人ではできない会話。冒険の兆し。空に輝く太陽に、年甲斐なく胸が高鳴った。


「さ、行こう_____」


大いなる1歩を踏み出す。はじめてのパーティ連れの冒険なのに、ポコが俺の目の前に斧を振り下ろした。

 マサヨシの身長よりもでかい壁の如き、斧が地面に突き刺さる。鼻先を掠めるくらいギリギリに降りてくる死の予感に思考が止まり、後から着いてきた怒りが言語化された。


「ふ、ふざけん____」

「全員斧に隠れて!!」


 三人でもやっとな狭い防御壁に入る。


「せ、狭___なんだポコ!急にどうしたんだ!」


 そう言ってる間に盾となった斧の向こうから衝突音が襲いかかる。身近な存在ではなかったが、マサヨシにはゲームや映画などで耳馴染みがあった。


「え、な!今の射撃音?!なんで?!!」


 息をつく間もなく、斧に当たって図太い鋼鉄を揺らし、土を細かく抉った。


「殺意がダダ漏れて気づけました!ご主人様、敵が来たんですよ!ってうわ!!!」


 今度は爆発。斧の向こうで衝撃が起こり、振動となって足元を震えさせた。

 鳴り止む気配が全くない。いつまでも続く殺意の嵐が衝撃となって、三人に降り注いでいる。

 打開するには所在を掴まないといけない。マサヨシは恐る恐る盾の向こう側を覗いて見た。


「______誰だあいつ。」


緑の絨毯の上に立つのは、ガスマスクをはめた黒づくめの誰か。まるで戦争ゲームから出てきたような特殊部隊のキャラクターがライフルを向けていた。


(こんな森の近くでゴリゴリ装備。あいつ、待ち構えてたって事か?)


とはいっても斧の後ろで固まる3人は、殺意の嵐にさらされて身動きをゆるされない。








 広大な草原は見晴らしがいい。加えて迷い森の絶対的なヒエラルキーにより、周辺には討伐対象になるような動物もいない。だから何も気にせず射撃ができる。

 日差しに体を晒し、出鱈目にデカイ斧に向かって射撃する。リコイルショックを肘で消化しながら、偶に手榴弾を投げるお仕事をする。


(まさか攻撃がバレるとは思わなかった。鋭いな。勘が働くやつがいるみたいだが、まぁいい。)


 あのたぬき耳の女に察せられるとは思わなかったが、地の理は此方にある。切り札だって用意しているのだから安心していいだろう。

 とはいえ、事前に達せられた情報より、あのタヌキはやるようだ。


(…反撃が無いところを見ると、様子を伺っているのか。)


 そうしているうちに、斧の脇から男の顔が見えた。


「征服者...!!」


 こちらが認識した瞬間、男の顔が消えた。


(斧に隠れた訳もない___そうか。)


 動物的な勘に近い。体を瞬発的に低くした。すると、突然背後に現れた殺意が残穢を垂らして蹴りが通り過ぎる。


「甘いッ!!」

「クソッ!」


 征服者が愚痴を零した。甘すぎる。俺は躊躇うことなく体を回して掌底を腹へと滑らせる。

 だがそれも空を横切っただけで、何も当たることがない。標的は前動作なしで後ろにズレていたからだ。


「ほう。やはり瞬間移動とは中々に度し難い。」


 まるで時間の巻き戻しみたいな感覚になるが、要は動きが見えない移動なだけ。動いているのは人間に違いない。落ち着いて対処すれば問題はないだろう。

 相対している征服者といえば、俺を睨んでいた。齢18の少年が出していい雰囲気ではないぞ。


「何もんだてめぇ。いきなりバカスカうちやが___」

「AからC起動。」


 相手は移動時間なしの敵。意表を突かないと勝ちの目が薄い。

 だから突拍子もなく動いてみる。言葉に反応して、地面から俺を中心に円錐状の何かが飛び出した。

 征服者は瞬間移動で更に距離をとって、俺から離れていく。適切な対応だ。


「トラップ...」

「瞬間移動持ちのお前を襲うのだ。下準備しない訳ない。」


 手に持っていたライフルを構えて引き金を引く。すると銃口から火花が咲いて、飛び出す鉛が標的を追いかけた。

 だが避けられる。まるで動きのフレームを抜き取られたみたいに、征服者は消えては現れてを繰り返す。


「逃げるだけなら誰だってでき____」

「ご主人様になにしてくれてやがる。」


 背後からたれ流される香りにも似た、気迫に背筋が凍る。怒り。憎悪が俺を包んで離さない。足を奪われ、思考回路が止まってしまった。

 振り返れば、体の小さいタヌキ少女が、斧を振り上げていた。


「ふざけんなよ!!!」

「てめーーーがな!!消えろッ!!!」


 斧の刃部が当たることはなく、いわゆる斧腹と呼ばれる部分が襲いかかってきた。

 逃げようもない。顔面からもろにぶち当たり、衝撃が脳を揺らして、痛みが意識を刈り取った。










 撹乱と誘導、そして決め手の攻撃。対人戦闘は初めてではないが、上手くいったとマサヨシは安堵した。


「よくやったぞポコ。」


 ポコの手触りのいい頭を撫でて、丸い2つの耳をピクピクさせる。ほのぼのとした雰囲気の中で男は身体を起こし、光景を見上げながら呪詛を口にする。


「やるな___征服者…異世界の武器で殺せなかったのは始めてだ。」 


 ガスマスクで表情が分からないが、何か含みがありそうだ。こういう奴ほど本音を口にしない事をマサヨシは感じ取っていた。

 なので障害としての能力を剥奪した今、彼に価値はなかった。


「なんかいうことあるか?」

「奮闘は称賛に値する。お隣のお嬢ちゃんもな。だがやっちまったぜお前。」

「何をだ。」


 俺は認識を改めた。なぜならここは奴隷契約を特化させた世界。きっとその土台があるはずなのだから。


「俺はこの世界にある司法機関の実務隊、って言えば信じるか?」


 マサヨシの背筋に寒気が通り抜けて、額から汗が滲み始めた。


「…」

「お前の首に殺人容疑がかけられた。ここに公務執行妨害までつくとなれば、どうなることやら…」


 マサヨシの懸念は的中していた。殺しに対して後悔もへったくれもないが、一番気になったのは商会登録だ。

 信頼を得るには後ろ盾がいる。商売を取り仕切る人間が犯罪者なんて、誰も手を付けないどころか捕まって死刑案件になりかねない。

 人の焦りを感じたのか、ガスマスクは曇った声で笑う。


「なんの恨みがあって…」

「恨みなんてねぇ。俺は仕事をしてるだけだ。なぁ転生者。」

「それもわかってたのか…」

「あーわかってたさ。プリズンも、あの時遅れの街のことも、おまえが絡んでることをなぁ!!」


 ガスマスクの奥から嘲笑う。


「転生者故に奴隷。この世界じゃ奴隷が【何かを始める】事なんて許されねぇのさ。」

「…。」

「奴隷の扱いなんて物好き以外酷い扱いを受けてる。そういう常識を破ろうとするお前がいるだけで、奴隷たちが反旗を翻す可能性ってのが出てくる。それを潰したいのさ。」

「つまり商売を潰したいわけじゃなくて…」

「そんな気はない。ただ奴隷共の希望を打ち砕きたいのさ。お前を見せしめにしてな。」


 何と言う社畜設定。だがそんなことは正直わかってはいた。

 だから尚更ここで宣言しないといけない。マサヨシは握りこぶしを作ると、大きく息を吸って声高らかに叫んだ。


「知るかァッ!!!!奴隷云々とかかんけーねぇ!!!俺の道だ!俺が行く!邪魔すんじゃねぇ!!!!」

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