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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第2章 企業への道

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いざゆけ、外の世界へ作戦

 小屋から出たドックとマサヨシは、徒歩でエデンに辿り着いた。


 ビルの隙間を塗って辿り着いたボロ小屋街。そこでは青空の下で子供達が往来している。

 子供たちの楽園に着いたと言うのに、ドックは子供の事は聞かず、ある質問をした。


「おいおい、本当にスルーするとはなぁ。ロイドってのはどうしたんだ。」


 それは気になるだろうが、説明する時間も無い。マサヨシは適当に返した。


「まぁ、上手くやったんだよ。」

「そうか。なら、また聞かせてくれや。」

「あんた達時間ピッタリじゃないかい。準備は?」


 大きな体を揺らしながら、片腕には鉄製棍棒を握るテレサが現れた。彼女の顔を見るとドックはニヤついた。


「なんだいあんた。」

「なんでもねぇって。ほらさっさとガキども集めろよ。」

「はいはい____集まりなぁあ!!!」


 テレサの大声、と言うよりは号令はこの空間いっぱいに反響した。すると子供達がすかさず反応を示し、中央の開けた場所に整列した。

 軍隊仕込みの練度にドックは驚くを通り越して引いていた。


「なんつーか。調教師みたいだな。テレサは」

「これくらい出来ないと直ぐに死んじまうのさ______それでマサヨシはいいのかい。準備は。」

「あぁ。今すぐやるよ。」


 マサヨシはそう言って、手を大きく開いて視線の先にいる子供達に被せ瞼を下ろした。


自分から伸びる線は2つ。1つはモノがいる方向へ、もう1つは子供達がいる方向へ。子供達へと伸びる線は三又に分かれ、大きな三角を形成し子供達を囲む。


「できたよ。いくぞ。」

「信じてるからね。うちの子達を頼んだよ。」


 テレサの言葉に重みを感じつつ、イメージを崩さないように手を握りこんだ。

 その瞬間に体を巡る何かが逐次抜けていく。その量は何時もの数倍はあるだろう。まるで全身の血が吸い出されるようで非常に気持ち悪いが、ここが正念場だ。

 波立って強くなる感覚が、最後の吸い出しを終えそうな、そんな感覚が来た。


「モノ!!!頼むぞ!」

【任されたッ!!】
















 マサヨシ達から遠く離れた場所に小さな小屋がある。レンガの壁に包まれた部屋に、白衣を着たゴリラが立っていた。


「任された!!」


 耳にはめたイヤーカフから出力される声に返事をする。そしてモノはそれを取り外し、ポケットからボタンを取り出した。


「任せれたとはいったが、まさか瞬間移動と魔力を相手にするとは、我ながらオカルトにすぎる。」


 音が響かない場所を選んだ。怖い程の無音の空間にモノの独り言だけが反共している。


「だが魔法も特性を掴んでしまえば科学になる。私の得意分野だ___さぁこい!!!」


 無音の部屋が少しだけ寒くなった。肌寒さが体毛越しにでも伝わり、何かが起こる兆しをモノは捉えた。


「...!!!」


 まるでフィルムの切り抜きに、別の絵を差し込むように、唐突に人の群れが現れた。30人。どれも子供で、ボロボロの服を着ていいて、尚且つ動物の耳を頭に着けていた。


「!だとそ!わう」

「!ぞたっや!だうゆじでれこ」


 だが彼らは言葉は普通の発音をしていない。よくよく耳を立てると、それがビデオの逆再生に似ていることに気がつく。これもモノの想定内だ。


「やはりな。あの街の時間は未来にあったわけだ。____ 聞け子供達よ!!大きく口を塞ぐんだ!!!」

「!!リリ!!リリ」


 すると突然パニックが起きた。リリと呼ばれたリス族の子供が地面に倒れた。様子を見ていると、肌のハリがたるんでいき、骨は湾曲を始めている。老化だ。急激な老化が始まっている。

 子供によっては逆行成長している者がいて、体がしぼんでいる。


「クソッ!!だから子供は嫌いなんだ!!聞いてたやつは言う通りにしろよ!!」


 他的要因によって、モノはタイミングを測り損ねたのだ。手遅れになる前にモノは直ぐにボタンを押す。

 するとゆっくりと部屋が明るくなる。どこから灯りが出たという訳では無い。言い表すなら、部屋の空気が発光を始めたような。そんな不思議な明かりだ。


「...体が元に戻り始めた。」


 これは部屋の空気に充満させたタキオン粒子を高速で回しているためだ。未来から来た彼女達の時間は無理やり過去に送られた為に、身体が老化したり退化したりしている。この世界で誰も彼らを認識されていないからだ。

 だからこの時間の中で流れるタキオンを浴びせれば、この時間と同じ空間で生きる事ができる。とモノは考えたのだ。

仮説通りに事が運んだのか。退化も老化も止まった子供達はいつも通りの言葉を放っている。

 だが仮説は仮説。間に合わなかった子供は、地面に横たえている。


「...すまない」












 闇夜の屋上にはある男が立っていた。赤い服に金の刺繍がいやらしく施されている。彼を吹き抜けていく強風に服をはためかせ、迫っている俺に一瞥もくれない。


「お前がよもやここまで来るとは。私はあのババァの征服者が辿り着くと踏んでいたが、二代目が来るとは。まぁそこで言えば私の目に狂いはなかったと言える。」


 背中を見せつける男はこの街を収めるバルタの長だ。男は下を見ながら呟いた。


「魔力パスが届かない。征服者による上書きか。ふん。」

「...」


 物を言わない。言えない俺は寡黙に刃を向けるのみだ。


「飼い犬に噛まれるとは...私も老いたものだ。」


彼がゆっくりとこちらへ振り向くと、白い髭を風に遊ばせた白髪の老人が笑っている。そして何より、右手には細く伸びた針のような剣を持っている。


「まぁわかってはいるんだがな。下の者達はどうしたのだ。」


深く刻まれた顔の皺。壮麗さを魅せる風貌の中に、際立って光る眼光が俺の目を射抜く。そして気圧された。だが負けたりしない。

 俺は左手を持ち上げる。掴まれた髪の毛にぶら下がる少女の生首を見て、長は少しだけ眉をひそめて、また表情を戻す。


「...我が娘。どうか安らかに。」


言葉を唱えて、剣を構えた。左手を後ろの腰に回し、右手に携えた針の剣の切っ先を向けた。


「この剣は頭が腐った国王から奪った物だ。安寧と繁栄を謳歌するために試行錯誤で得たこの領地を守る為に、時の檻に逃げ込んだ。全てを捨てて全てを守る覚悟を示すのがこの剣「レイピア」だ。」

「ゾ____ゾレが___ドウジダ。」

「ほう。」


 それは言い訳だ。城下の繁栄を考えなかったこいつらは、俺たちを切り捨てたんだ。


「何も知らん肉壺如きの言い訳は聞かぬ。我が臣下、我が娘を奪った罪を、その命で払ってもらうぞ。」

「ナラ___ガエゼヨ___オレノジカンヲ」


 踏み出す足は同時だった。体が進んでは置き去りにする過去を踏みつけていく。












 あの日見た姉の笑顔を、俺はもう思い出せない。でも未だにあの声だけが頭に残っている。

 転んで擦りむいた膝を抱えて泣いていた。弱虫で泣き虫で弱っちい背中を、姉が触れてなだめる。


「だいじょーぶ。だいじょーぶだからねぇ」


 嗚咽を吐き、悲しい気持ちに沈む心を優しく抱きしめてくれる。姉の温かさを感じる。


「ロイドは強い子だから、おっきくなったらきっと泣き虫も治るんだよ。」

「うっ...うん。絶対強くなる。そしたら殴ってくる人から絶対おねーちゃんを守るんだ。」

「それじゃだめ。」


 姉は強く抱き締めて、耳にこっそり言葉を流す。


「私だけじゃなくて、みんなを守るの。それからロイドが幸せになるんだよ。絶対。おねーちゃんはそれで幸せなんだから。」

「わがっだ...あと...苦しいよ。おねーちゃん」
















雨が降り始めていた。


「ふん...老いには勝てなかったが」


 雨粒が目に振り落ちて視界をぼやけていたが、今やっと見えてきた。

 眼下に伸びた赤い服の袖。老人とは思えない力を行使して、左手一本で俺の首を掴んでいた。


「お前は俺に勝てなかった。」


 そして、レイピアが胸を貫いていた。


「痛みなど感じぬカラダになったとて、身体機能は無視できまい。」


 レイピアを引き抜いて、水たまりに俺を投げ捨てた。弱くなった体を持ち上げる事は叶わない。心臓が止まってしまっているからだ。


「私はもう捨てるものがないのでな、この国を出て、お前の姉を見つけ出し、殺してやる。死してなお後悔に飲まれるが良い。」


 言葉が届けば脳が反応した。


「まぁその前に、征服者を殺さなくては。」


 がんばれと、向こうから呼ぶ声がした。


「きっと動力炉に近い位置にいるだろうが、我が配下によって時間稼ぎをしているだろう。」


 力が入らない手で地面から体を押し上げる。鹿のように折れた足を立て直す。

がんばれ。がんばれ。がんばれ。


「さっ向かうとするか...」


 もう見るべきものは無いと高を括り、背中を向けているこの男を止める。


「ん?」


 力はもう出せない。だがこの刀に力など要らない。斬るという信念を体に回せ。この後に待ち受ける地獄を止めろ。


「なんと____」


 振り下ろした刀の向こうで、姉が笑っていた。

















 俺の作戦はこうだ。

まず2チームに別れて行動する。主力であるマサヨシチームによって動力炉を狙い、敵の注目を集める。それから隷属魔法を上書きし、自由を得たミイラ侍ことロイドをバルタの長に差し向ける。

 だがそんな愚策は必要はなかった。








 動力炉の稼働はとうに止まっていた。正常な時間の流れが舞い込んで、この街に残る全ての人間は、急性老衰で全滅したようだった。街に転がる老人達の死骸は、急転した天気雨に打たれている。

 すべてが手遅れだった。すべてを取り戻す戦いは、何一つとして、間に合わなかったのだ。


そして俺とドック、テレサがバルタの屋上に辿り着く頃、雨が止んでいた。


【聞こえるかマサヨシ】

「あぁ。今全部終わったぞ。」

【それはこちらでも確認が取れた。それでロイドは...】


 雲の切れ間から顔を出す日差しが温めたのは、2つに裂けた老人の死骸と、1体のミイラが立ったまま死んでいた。


「ダメだったよ。」


 泣き叫んで死骸に縋るテレサ。眉間を摘んで涙をせき止めるドック。俺はと言えば、また救えなかった命に謝ることしかできなかった。













ブルジョワは1週間という月日で、失っていた時間を取り戻すように、腐り落ちた。建物には巻き付く草や舗装された筈の道には木が生えていた。

それから特別不思議だったのは住民達だ死後1週間という短期間で、老人達の死骸は朽ち果てていたのだ。白骨化した彼らの目には、花が咲いていた。


 モノ曰く、外で認識していた時間を擦り合わせられた結果だと言う。


 時間も物理現象も認識されて始めて現実に反映される。例えるなら川に合流する小川は、大きな流れに巻き込まれて本流の速さで流されるようなものだと。所謂シュレディンガーの猫のようだ。

 外の時間が流れた事を認識している人達により、時間の流速に巻き込まれたのだ。


忘れ去った筈の死を急いで取り戻したみたいだった。
















 それから2週間が経過した。

 急な大所帯になった為、モノの寝ぐらには子供達用、テレサ用、ドック用の建物を建設中だ。だがその工事も今は停止している。


 草原にある小さな丘の上には墓がある。その墓の前で手を合わせているのは、タヌキの耳を持つポコだ。


「ご主人様。ありがとう。」


 手を合わせて、目を瞑っている彼女の背中は、小さくて、悲しみを背負うには狭すぎた。


「ロイドを見つけてくれて。」

「あぁ。」


 言葉に含まれている悲しみが痛いほどわかる。魔力パスから逆流してくる過去の記憶が、心の空いた隙間に入り込んで、心を引き釣り出す。


「ロイド...おねーちゃんね。居場所を見つけたんだ。ご主人様も出来てね。それから、ロイドを知ってるお友達も沢山いて。私の知らないロイドを教えてくれるの。だからね。寂しくなんてない。筈なの...でもね。」


 魔力パスなどなくても分かる。悲しみの縁に押し込められたポコの感情は、不意に浮かび上がるロイドの笑顔で爆発した。


「一緒にいてほしかったなぁ...。う、うわぁあああああッ!!!」


 泣き叫んでいる背中は、押せば落ちそうで。弱々しい。それを見ているだけの俺は、一体なんなんだろうか。

 横に立っていたテレサは、墓石を眺めながら、俺に話しかけた。


「感謝してるよ。マサヨシ。あたし達が生き残れたのはあんたのお陰さ。」

「...」

「そんな顔する必要はないよ。あの子は頭が良かった。いずれはこうなる未来で、あんたが来てくれたから、助かったのよ。それでこれからどうするつもりだい?」

「...考え中だ。思案もある。でも今日は辞めておこう。」

「...そうだね。」


墓石の前で手合わせ、お祈りをする。

 ロイド。お前のおかげだ。お前のおかげで、この子達は生き残れた。ありがとう。




















 暗闇の中で黒色のフードを深く被るお婆さんは、ゆっくりと瞼を開いた。それから音を立ててゆっくりと口を開き、言葉を発する。


「時が___ 動いたようだね。」


 それから指を鳴らす。するとお婆さんの背後に人影が降りた。


「転生者が時忘れの街を解き放ったようだよ。私の予知が鮮明になった。」

「それは僥倖ですね。」

「...そうでもない。」


お婆さんは杖を着きながら背後にいる人影と対面し、シワシワの指を使って人影をさす。


「マサヨシを殺すのだ。奴はこの世界を破壊する男。守らねば。」

「御意。」



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