チャウチャウちゃうんちゃう?
「ナニこえ... 」
ホワイトベアー種の少年は、ベッドの上で裸のまま、思考が微睡んでいた。
痺れた感覚が確かな物を拭い去っていく。何処までが自分で、何処までが他人なのか、線引きが溶ける感覚を歯がみし、耐えぬこうとしている。
「おいおい。まだ耐えるのか。ロイドくんはすごいなぁ、こちらにはまだ余裕はあるがね。」
汚らしい小太りの男が少年の中に、指を入れる。
「ぅ_____ぁあ!」
普段は排泄しか機能していない構造を無視し、太くて乾いた指が入ってきた。異物が蠢いて圧迫感が腹の中で生まれると、突然入り込んできた異物感に声が出る。
「いっひっひ!それだけじゃないぞぉ!」
侵入された部分から熱を帯び始める。切り傷の痛みではなく、なんとも言えないもどかしい甘い痺れ。
「あつ___あつい…」
甘い痺れが突然脳みそを焼いた。快感という電撃が頭を撃ち抜き、全身を焼き焦がす。
そこからもう自己認識などありはしなかった。
「え、エヘヘ...」
締まりの悪い口から垂れる涎を、男は舐めとって口付けをし、舌を入れ込む。
おぞましい光景を俯瞰できない。生理的な嫌悪感を感じない。全てが何かを欲する貪欲な欲求が支配している。
「そろそろかな。」
「な、なにが_____」
その瞬間、一線を超えた。男がロイドに指先だけを腹に当て、触れた箇所から激烈な快感が身体を強ばらせる。呼吸すら防ぐ筋硬直。
長い拘束がとけ、深く呼吸を吸い込むだけでそれが継続した。
「うぁ、ぁあま!!まっで!!もうムリッゆ、ゆるしでぇ!!」
声が出るようになっても収まらず、腹の奥から沸き立った甘い感覚がひたすら続く。
「た_____たすけ」
「ほらほらこっちだぁ」
「まっで!!ザワらないでっ」
男はロイドに布団を頭から被せて、その布団の中へと潜っていった。
日の出まで続く大人の遊戯に、ロイドの自我は消え入りそうだった。
「_____」
マサヨシは飛び上がった。まるで見てきたかのようにリアルな夢。少年ロイドが陵辱され続けるのを、自分が見せられてるという悪趣味さ。
額に手をおき、藁で作られたベッドの上で、憂鬱な心を抱きしめるように3角座りをした。
「これが_____あの子の記憶なんだな。」
奴隷契約を結んだポコとは、魔力による繋がりを保持したままだ。モノ曰く、パスからは奴隷が体験した記憶が流入することがあるそうだ。
男に無理やり弟を犯されるのを、ただ見させられるという記憶。それをポコが未だ持っているのだ。
「すごい声だったぞ。解放者」
「!!」
不意に湧いた声に反応して背筋が伸びた。
マサヨシが寝ていた部屋は大きくは無い。1人寝られるだけのスペースを繋ぐドアには、大柄な恰幅のいい女性が立っている。
「あんたがテレサか。」
「そ。あたいのこと。」
エデンのテレサ。ドックの紹介により教えられた人物。奴隷にさせられた挙句捨てられた子供達、ブルジョワというシステムにより切り離された彼等を招き入れ、コミュニティとして確立した人物だ。
「まさかあんな所でぶっ倒れとは思わなかったよ。でもまぁ、よく間に合ったね。」
大きな身体を揺り動かして笑う。彼女にマサヨシは気恥ずかしさで顔を上げられず、思わず顔を逸らしてしまった。
「...瞬間移動のスキルはその...人間を飛ばすのに向いてないんだ。いつも意識が途切れるし、距離にも問題が」
「黙りな。」
テレサの強烈な返しに言葉を詰まらせる。助けてくれた人に事情を話さないと、何のために謝っているのか分からなくなる。
その為の説明を彼女は止めた。
「聞きたかないよあんたの弱点なんて。」
「いやまぁ。その...これは愚痴みたいなもんで」
「ふーん。あんた、ちと人を信用しすぎやしないかい?」
「....」
「この街に限った事じゃないよ。人の信頼を得る為には信用って価値が必要なのさ。自分の大事な事をペラペラ喋るヤツなんか、誰も信頼を買ってくれないよ。」
「...それは、そうだな。」
中々確信を突く意見に、マサヨシは言葉がなかった。少し自分の事を反省してみれば、テレサはマサヨシの頭を撫でる。
「な、何?!なんだよ!」
「あんたは向こうでもそんな感じだったんだろうね。いいかい?人を信用するのも大事さ。でも信用を作る材料こそもっと大事。全部が優しさで出来たもんだとは思わない事だね_____いや申し訳ない!説教はあたしの性分なのさ。」
大袈裟に笑うテレサを見て、マサヨシは少し安心をした。ここまで見抜き、来訪者に手厚く言葉をかける人物ならば、きっとロイドを見つけて匿ってくれているのだと。
「ドックからは料金は貰ってる。まずは説明をするのに時間をくれないかい?」
「わかった。」
「あんたはまたすぐそうやって___」
「いいんだ。」
本音だった。誰も信用したくなかったマサヨシは、この世界に来てまた信じてみようと思えたのだ。自分とは違うベクトルの優しさを。
「まぁいいさ。それでまずは何が知りたい?」
「それは______この街の動力炉だ。」
少し前
ドックは相変わらず、いつもの部屋でタバコを吸っていた。
だがその仕草はいつもとは違う。冷や汗と指先の震えが、マサヨシに動揺していると教えている。
「だから3勢力の居場所を教えてくれ。」
「さ、3勢力の居場所を教えてくれったってお前。そらむちゃだ。」
ロイドの救出作戦には必ずぶち当たるのが、バルタを守る3勢力。
逆に言えば3勢力を潰せばロイドに辿り着くと言うのがマサヨシの答えだった。ドックは紫煙と一緒にため息をついて説明を始めた。
「この街を守ってるのは3勢力だ。善し悪し関係なくな。兵隊がいて、実力者も多い。」
「そうか。なら奴らは全員殺す。」
迷ってる暇などアリはしない。即決した言葉に、何を言っても無駄だ。 ドックは吸殻が山のように連なる灰皿に灰を落とす。
「なら仕方ねぇ______テレサを頼れ。」
「テレサ?」
「あぁ。色々と詳しいからな。この街はある種の結界で守られてる。重力場ってヤツが卵みたいに外ト中を隔てている。まぁ詳しい話は知らねぇがそれを出力する3つの塔に3勢力がいるってのが噂だ。」
噂。そこまで広くもないこの土地で、噂しかない情報にマサヨシは苛立ちすら湧き上がる。
「そんな顔すんなよ…。3勢力は拠点を持たないからな。どこに誰がいるのかわからない。加えて3勢力が表に出る機会もないってんだから、誰もわかりゃしないんだよ。」
「そうか。なら早くその場所を教えてくれたら____」
「あせんなあせんな。んで重力場の動力炉って機械があるんだけどよ。テレサって奴はそこの整備士の長として長年働いてきた女だ。詳しい話はそいつに聞け」
聞きなれた科学的な単語はこの世界に似つかわしくない。マサヨシは少し興味が湧いたので、大人しくテレサの元に向かうことにした。
背の低いボロ屋が乱立する村を眺めながら、テレサとマサヨシは歩いていた。
時折子供が手を振ってくるのでマサヨシは笑顔で返しながら。
「なるほどねぇ。」
「悪い考えじゃないとは思ってる。」
雄弁と語るマサヨシにテレサは顔を動かさず、淡白に返した。
「そら、ダメよ」
「...えっ?」
理解してくれると思った相手からの拒絶。痛くはない。ただ理由は知りたかった。
「この街はね。重力場を形成した時から、外の世界との繋がりを切り離されて、時間に置いていかれてるのよ。」
テレサの横顔が少しづつ暗くなる。
「あたしゃ転生者でね。前の世界では時間の研究をしていたのよ。その研究を元に作ったんだけど、重力が及ぼす時間の影響は凄まじくてね。軽い気持ちで作った反重力装置の動力炉が動いたら、重力場が生まれた。」
「重力,ねぇ..」
「そうよ。だけど私が作ったのは反重力用の動力炉。みんなが言う重力場をもっと細かく言うと[マイナス重力場]ね。外に出る事を許さない檻を、私は作ったのよ」
360年前
テレサは鎧を纏う近衛兵2人に組抑えられ、床と接吻させられていた。
頭を手で抑えられたテレサは浅く呼吸するのがやっとで、目の前で起きる事を見守るくらいしか出来なかった。
「ふん!!やっと見つけたぞ!魔力に頼らない完全無敵の防衛装置!」
赤い服を着る貴族の男は、暗い部屋の下で棒状のスイッチを手にし、笑っていた。
「奴隷風情が隠し事をし腐って」
「____!!!___!?」
「ええぃ!鬱陶しい、兵士よ。そいつに喋らせろ。」
テレサの抑止が離れると、声を最大限に使って叫んだ。
「ボタンに触るな!!!!」
「ふん!敵を防ぐにはこの装置。重力場発生装置が不可欠だ。」
貴族の男は、テレサの言葉を聞き流している。そんな男に説明をした所で無駄足だと分かっているのに、話さずにはいられなかった。
「だからそれは反重力装置なの。外側からの侵入を許して、内側から出られない。時間の流れを重力場内でゲージに貯蔵し、時間を緩やかにさせちゃう。わかる?!外の世界から隔絶され____」
熱弁をしている内に、貴族はボタンを押していた。
「そんな...。」
「手法など選んでおられん。もう1夜超えれば1万の兵士がなだれ込む。そうなるとどうしようも無いのだ。」
すると貴族の背後で水槽が怪しく緑に光を放った。それをみた貴族は笑顔を向ける。
「緑色。そんな...」
「はは!見ろ!やはり正常に作動するではな___」
すると途端に近場にいた近衛兵2人が床に崩れ落ちた。
「なんだ?テレサ、何をしたのだ!!!」
「何もしてないのよ。あなたがしたんだから。」
「何を言うか。私は何も_____なっ!!!」
近衛兵の顔がしわくちゃの老人と化していた。呼吸もなく、顔の皺が増えたことによってテレサは確信を得た。
「隔絶適性がなかったのよ...」
「なんだそれは!説明しろ!!」
「重力場内では外の時間はここと比べて早い。こうなると適性がない人間、恐らくだけど外に魔力パスが繋がってる人がいたのね。観測され続けている人間は外の世界に年齢を引っ張られる。この2人は寿命を迎えたのよ...」
「よ、よくわからん。」
狼狽し慌てる帰属を尻目に、テレサはもう諦めていた。
「こうなると外に出た瞬間に寿命を迎えることになる。だから出られない。もし機械を壊したらストックされた時間が戻り、みんな寿命を迎えて死ぬ。終わりよ...街も私たちも」
この日、急性的に寿命迎えた国民は六割を超えた。
この後マサヨシがテレサに会うまで30年立っていたが、外の世界では360年経ったことになる。
現代
マサヨシはいきなりのSF設定の羅列に脳がショート寸前だ。
「つまり、その動力炉を破壊すれば、重力場が無くなって、この街にいるみんなが老けて死ぬことになる。そういうこと?」
「そうね。」
「じゃあ俺もそうなるのか...」
[それは大丈夫だ。]
「うぉ!!急に耳から声が」
テレサと話している所を急に低い声音が現れる。これはマサヨシがモノから離れる時に貰ったワイヤレスイヤホンだった。
[このイヤホンでマサヨシを観測し続けているからな。その世界でどうなろうと、外に出てきた事で急に老衰することは無い。]
「モノ、どういうことだ。」
[噂で時間が遅れていることは聞いていたからな。こんなこともあろうかと 時空開通式GPSをつけておいて良かった。]
「だからなんなんだって。」
「時間は観測されて初めて成り立つっていう理論がある。だから、外の世界で観測され続けているマサヨシの時間は外と同じで、影響は無いんだよ。所謂相対性理論ってやつ。」
「ふ、ふーん。」
[そこで、とっても賢いゴリラのモノさんから提案がある。]
マサヨシには理解し難い時間性質の理論。それらを踏まえた交渉に、テレサは首を縦に振った。
そして、ついに、3勢力の1つ、[バイオレンスジャケット]が守る塔を教えてもらった。




