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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第2章 企業への道

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ブルジョワ陥落作戦

 夜の街を歩く。煌びやかで艶っぽい服を着飾る女達は、小汚い太デブから筋骨隆々な戦士まで色んな男の腕に組み付き、宿や酒場の中に入っては消えていく。



 この街の名前はブルジョワ。どんな街よりも根深く、そして欲望が潰えぬ風俗街だ。








「それではお楽しみ下さぁ~い♪」


 マサヨシを案内したスーツ姿の男は薄暗くも暖色の明かりの下で、カーテンに指を掛ける。

 そしてそれを一気に開いた。姿を現したのは、服を着ておらず、まだ年端もいかない少年が虚ろな目で立っていた。


「マックスくんでぇ~す♪」


 肌を見ると決して健康体とは言えない弱々しさがあった。

 乾燥しきった肌に潤いはなく、生傷が不完全に塞がったような痕、その上で窶れ痩せ細り、骨ばった身体に痛ましさがある。

 こんな状態の少年に欲情するゲスがいると考えるだけで腹立たしい。


「そうか。ありがとう。」

「いえいえ、それではぁ~ごゆっ____」


 軽妙にお辞儀をするスーツの男にマサヨシは中指で額に触れる。その瞬間、スーツの男は姿を消した。まるで消しゴムで消されたように、跡形もない。


「不快な奴だった…が…」


 マサヨシは我に返った。殺人現場にも等しい行為を、子供に見せてしまった事に気がついたからだ。

 だが無言の空間になっていても少年は虚ろなまま立っている。

 普通なら怯えるなり、怖がるなりするものだろうが、彼には目の前の光景すら見えていないようだった。


「またクスリか。チッ______」


 この世界でも麻薬は犯罪だが、刑罰としては重くはない。見つかった所で金さえ払えばどうとでもなる。だから客層に厚みがある風俗店は、従順な肉壺を作るために平気でクスリを使うのだ。

 モノからの事前情報でクスリの常飲化しているかもとは聞いていたが、実際対面してしまったマサヨシは戸惑ったが覚悟を決める。


「よしよしよし!やるぞ!練習したし!絶対やり切るぞ!!____ ごめんなマックスくん...」


 マサヨシは右の掌を、立ったままのマックスの痩せた腹に当てる。


「____内容物は神経毒をベースにした[ヴェノム]だったっけ。...血中をイメージするんだ...血中を」


 血管の中に赤い血が流れているが、時折異物が点在しているのをイメージする。

 その異物が溶け混み、血が淀んで黒みを付け、それらが体中を汚染している。細部までイメージし、逆算し、元の状態を的確に描く。


「いける_____転移技法[毒抜き]」


 言葉の後で背後から液体が落ちる音がした。振り向くと、清潔とは言い難い木製の廊下に、湯気が立つ透明な液体が広がっていた。 


 これは毒だけが転移に成功した事を示している。


上手くいったのだ。悦びが喉を駆け上がって抜けていく。


「よっしゃ成功!大丈夫かマッ___」


マックスは元気になるどころか、息を荒げていた。そしてついには膝を折って倒れてしまった。

 血中濃度が変わった事による中毒症状。毒は抜けばいいという訳では無い。順応してしまい性質の変わった血液を少しづつ元に戻さないといけない。


「おい!大丈夫か?!」

「____ あなたは?」


 か細い声だけだ。彼がまだ死んでいないことを表しているのは。

 他に助ける手段もなく、浅い呼吸のサイクルすら消えていきそうで、どうしようもなく助からないと言う事だけが明らかだった。

 マサヨシはマックスの軽い頭を腕で抱え、優しく撫でながら話しかけ続けた。


「ごめんな。苦しいよな。」

「...大丈夫...それより、もし...もし助けて...くれるなら...仲間達を」

「わかった。わかったからもう休め...」

「優しい人... ロイドみたい」


 こんな時に居場所を知りたいひと名前が出た。


「ロイドを知ってるのか。」

「うん...アイツも...お兄さんみたいに優しい奴で...」

「どこにいるか、話せるか。」

「ごめんね。なんの...恩も...」


 どうやら駄目なようだった。マサヨシは死ぬ瞬間を看取ろうと、手を握って孤独感を消そうと試みる。


「バルタに...負けないで...」


 それが今際の際で放つ願いだった。彼は最期まで仲間を思い、この世界から解放されてしまった。苦しみあがく余裕すらなく、思い半ばで死んだのだ。




















 紫煙が薄暗い部屋を漂う狭い小屋の中で、ドックと呼ばれるジャンキーがタバコを吸っていた。

 彼はこの街で情報屋を営んでおり、客人や街の人間からはハーフジョブのドックと呼ばれている。理由についてはどの勢力にも属さないからだ。


「またお前かよ、八木元拓也。」

「情報が欲しい。」

「ケッ!忙しい奴だな。つい1時間半前も同じこと言いやがってたぜ。」


 ドックは毛むくじゃらで無造作に伸びたくせっ毛を掻きながら、片手間で書類を引き出す。


「んで?カナリアの店はどうしたんだ。」

「全員消した。」


 冗談ではない。八木元拓也ことマサヨシのスキルには瞬間転移があり、他者を飛ばす事ができる。

ドックはあっさりとした殲滅発言に吹き出した。


「アッハッハッハッハッ!!お前、アイツら消しちまったのか!!!アッハッハッハッハッ!!すげぇヤツだ!どんな手を使ったのか知りたかねぇけど!」

「いいからさっさと情報くれ。」


煩わしい。他人の不幸話に笑う神経に苛立つマサヨシに、ドックは気にもとめない。


「いい話をきかせてもらったぜぇ[征服者]さんよぉ。んで、聞きたい情報はなんだ?お前にリークしたら面白そうだし、タダで聞かせてやるよ。」

「バルタって誰だ。」


 バルタという名前を出した途端、ドックは真剣な顔を作った。そうして少し伸びた髭をつまみながら呟く。


「とんだビッグネーム出てきたなぁ。」

「そうなのか?」

「あぁ。この街は3つの勢力のおかげで治安、利潤、それから防衛に至るまでが成立してる。その根元にバランス・ルール・ターゲットブレイカーズって犯罪者共のチームがいてな。」

「その略称がバルタか。」

「当たり当たり!オツムの機転が利くねぇ。なんでも転生者が集めたって話だ、バルタの奴らは奴隷商と薬を資金源にしてるってな。カナリアなんて弱小勢力もきっとバルタ傘下だったんだろうな。」


マサヨシが黙って考え事をしていると、ドックが顔に煙を吐きかけた。


「くっさ。なにしや___」

「分かってんのかオメェ。今回の件、もし犯人がバレてオメェの顔が割れたりでもしてみろ。この街がひっくり返ってテメェのケツ追いかけ回す事になる。」

「目撃者は消した。問題ないだろう。」

「わかってねぇなぁ。1回、そのお利口さんな頭を回してみな。」


マサヨシは腕組みをして、言われた通りに考えてみる。

 例え目撃者はいなくとも連絡が取れなくなった場合を考えていなかったのだ。そうなると狩りにでるだろう。怪しいやつ、新参者は格好の的だ。

 よくよく考えてみればみるほど冷や汗が止まらなくなっていった。


「_____ まずいかな。」

「アッハッハッハッハッ!!当たり前だろぉ!!この街の店には必ずバルタの後ろ盾があるし、それを知らねぇ奴はここにいねぇ。だからこの街では抗争なんてでたりもしない。」

「つまり、攻撃をしてくる奴は余所者になる訳だ。」

「街の関所を通った時点で面割れしてる。そう考えてた方がいいだろうな。」


 マサヨシにとって、この街は滞在するつもりのない通過点。ロイドさえ連れ帰れたらいいので特に問題はなかった。


「まぁいい。とりあえず、奴隷が居そうな場所を教えてくれ。」

「そうだなぁ_________ならまず条件がある。俺のことは話さない。それから_____」








 マサヨシはドックの居城を出て、街の中を歩いていた。

 流れ者のマサヨシと言う異物は、通りすがる人間たちには見えていない。誰も彼もが目先の欲望のせいで何も見えてはいないのだ。

 ネオンが煩い通りを抜けて、路地裏に入ればネズミが挨拶をして逃げていく。


「ふぅー...」


  深呼吸するような場所では無いが、マサヨシは立ち止まって呼吸を整えた。久しぶりの集りに気疲れしてしまったのだ。


「どこの街より活気があるよなここ。」


 振り向けば喧騒と光の世界が零れている。品位のない下品な世界の裏には、こういう小汚い場所があるのだと、マサヨシは知っていた。


 そんな事に思いを馳せていると、何か冷たいモノが背筋を撫でた。唐突な寒気と勘に従い、頭を低くする。

 すると音だけが頭上を通り抜けた。まるで竹を手に持って振った時のように、風を切り抜ける音だ。


「ナカナカ、イイカンヲシテイルナ。ルーキー。」


 目の前の暗闇から全身を包帯で包んだ手足の長い男が現れた。自分の体に密着させるようにキツく巻いた包帯には、所々血が咲いていた。

 ミイラ男。そんな印象を受けるマサヨシの目は、右手に握られた日本刀に注目している。


「ヤハリ、オマエガ、セイフクシャ。」


ゾワッと背筋を通り抜けた寒気。反射的に身体を翻せば、後を追って地面に一線の刀傷が入る。だがミイラ侍の手元は動いていない。


(剣筋が早すぎる!全然追えない!!)

「ヨクヨケル。」


 重ねて襲い来る斬撃をマサヨシは感覚だけで避け続ける。右、左、上から下、振り上げ振り下ろし。まるで人形のように誑かされる。


「イツマデモ、オドッ_____」


手を打つ暇も思考する時間も与えられず、削られていく体力。マサヨシは網目のように張り巡らされる剣筋に、一縷の隙を見つけて手を伸ばした。


「消えろッ!!!!!」


 熱が集まり、掌から抜けていく力運用の感覚。狙いなど定めない瞬間転移の発動は正常に行われた。行われた筈だった


「ミキッタ。」


ミ イラ侍は下段斬りのため、剣筋が足に向かって横凪に進んでいた。そこから無理やり刀を返し、軌道を無理やり振り上げる。

 秘剣 燕返しの応用編。佐々木小次郎が使っていた技が、異世界にて披露されたのだ。

スキルが空間を消し飛ばす中で、剣筋が通ると鏡が割れたような音が何も無い空間で響く。日本刀でスキル自体を切られてしまったようだ。


「_____デタラメだッ!!」


 必中必殺のスキルが敗れた。だがまだだ。ミイラザムライは、振り切った勢いを突き破るように地面を蹴って前に進んだ。

 マサヨシには自信があった。それ故に挫折と絶望が苦しめる。胃が締め付けられる程の緊迫感は体と思考を止めてしまう。

 だがそんな事を感じている暇などマサヨシにはない。目の前にはまだ刀を持った敵が迫っていた。


「チョウシニノルナ」


刀はミイラ侍の背中で待機。剣撃の射出体制を取り、射出される。振り抜かれる刀は月夜に照らされ、マサヨシは思考が止まったまま目の前の光景を眺めている。するとある事を思い出した。





上司に叱られた時、仕事でミスをした時、事故を起こした時。ハプニングが思考を止める時の対処法は、パターン化にある。

予めシチュエーションを想定、自分がその時にできる手札を数えておき、実際に起きた場合に機械的かつ無意識にスイッチする。これをマサヨシは無思考実践対処法と名付けていた。





振り抜かれた刀は、何も無い空を切った。


「ナニ。」


ミイラ侍が振り向けば、マサヨシが背中を見せて走っている姿がある。先程までいた場所からミイラを飛ばして背後に回っていたのだ。ミイラが気づいた頃には、マサヨシは逃げている後ろ姿しか見えない。


「テンイカ。」


 自身を転移させる技は難しいが、相手を飛ばすのならなんとか会得していたのだ。


(危なかった!移動距離の短い技だから、タイミングがちょっとでも離れたら終わってた!!!クソ!あとすこ____)


 そうしている間もない。マサヨシの背中は既に射程圏内で、それを理解しているミイラ侍はもう鞘走をしている。


「モンダイナイ」

「あと、ちょっ____」


 進む速度に、刀が追いつく。背中に向かって迫る刃は、もうすぐそこにあった。


 すると剣戟が起きた。


 マサヨシの背後で高らかに上がる鍔迫り合いの火花。全てを切り裂く程の鋭さは、巨大な鉄の棍棒によって受け止められていた。


「ミイラ、ここから先はあたしンちだよ。」


 いつの間にか現れたのは恰幅のいいおばさん。割烹着から伸びる逞しい腕の先に、棍棒が備わっていて、刀を真正面から受け止めていた。


「悪いね。あんたの獲物だろうが、なんだろうが、ここに来たなら何もさせないよ。」

「______」


 いつの間にかマサヨシは路地を抜けて、開けた場所にたどり着いてた。

 木で出来た簡素な家々がバランス悪く乱立するここは、陽の光が刺さないスラム。「エデン」だ。


「間に合ったのか…。」


するとミイラ侍は刀を引く。鞘に戻った刀を腰からぶら下げて、マサヨシを睨んで消えていった。


「____あんたがドックの言ってたマサヨシだね。随分なやつに好かれてるじゃないか。ってあら。」


マサヨシはおばさんの話を聞くこと無く、意識をなくしていた。

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