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9/11

風の止まる丘の日

特別な場所でなくても、なぜか何度も来てしまう場所がある。

理由はあとから考えても、うまく言葉にならない。



丘へ続く道は、ほとんど人が通っていなかった。


踏み固められてはいるが、草はところどころ伸びたままで、足元を擦るたびに乾いた音がする。街からそれほど離れていないはずなのに、振り返ると建物はもう小さく見えた。


風が強い場所のはずだった。


けれど今日は、不思議なくらい静かだった。


「こんな場所あったんだね」


フィアが言う。


誰に聞いたわけでもなく、ただ地図の端に道が続いていたから来てみただけだった。


カイルは短く頷く。


「見晴らしはいいな」


丘の上まで登ると、空が大きく開ける。雲の影がゆっくりと地面を流れていき、遠くの森が淡く揺れて見えた。


しばらく、二人とも何も言わなかった。


フィアは草の上に腰を下ろす。


外套を畳み、その上に手を置いたまま、風のない空を見上げている。陽の光は強すぎず、ただ時間だけがゆっくり進んでいた。


「ね」


小さく声を出す。


「なんだ」


「……なんでもない」


言いかけて、やめる。


代わりに、少しだけ笑った。


カイルは少し離れた場所に座る。


近すぎず、遠すぎない距離だった。いつもと同じはずなのに、今日はなぜかその間がはっきりと意識される。


草が揺れる音だけが続く。


風はまだ吹かない。


フィアは視線を落とし、指先で草を摘んだ。


すぐに離す。


意味のない動作だったが、それを繰り返しているうちに、呼吸が少しだけ落ち着いていく。


隣に誰かがいるときの静けさを、いつから心地よいと思うようになったのか、自分でも思い出せなかった。


考えかけて、やめる。


言葉にすると、形が変わってしまいそうだった。


「そろそろ戻るか」


カイルが言う。


まだ早い時間だった。


けれど、フィアはすぐに頷いた。


「うん」


立ち上がるとき、ほんの一瞬だけ振り返る。


丘の上には何も残っていない。ただ草が揺れているだけだった。


帰り道は、来たときより少しだけ静かだった。


話すことがないわけではない。けれど、無理に言葉を探す必要もなかった。


歩幅が自然と揃う。


それが当たり前のことのように感じられて、フィアは小さく息を吐いた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は少しだけ、静かな時間の話でした。

同じ場所でも、何度か来るうちに意味が変わっていくことがあります。


次回は、少しだけ季節が進みます。

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