表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/11

水辺で休む日

暑くなり始めた頃は、歩く理由より休む理由のほうが増えていく。

予定を決めない日ほど、長く同じ場所にいることになる。

夏が近づくと、風の匂いが変わる。


街を出たばかりの頃は気づかなかったが、川に近づくにつれて空気が湿り、肌にまとわりつく熱がゆっくりと重くなっていく。日差しはまだ強すぎるほどではないのに、歩いているだけで体温が少しずつ上がっていくのが分かった。


フィアは途中から、外套を腕にかけて歩いていた。


「思ったより暑いね」


そう言いながらも、足取りは軽い。水の音が聞こえ始めてから、歩く速度が少しだけ速くなっている。


川は前に来た場所よりも浅く、流れも穏やかだった。陽の光が水面で砕けて、足元の石まで透けて見える。


フィアは迷わず川辺まで降りていく。


靴の先で水に触れ、すぐに引いた。


「冷たい」


笑う声が、水の音に混じって小さく広がる。


カイルは少し離れた場所で立ち止まり、流れを見ていた。水は同じ速さで流れ続けているのに、見ていると時間だけが遅くなる。


「入らないの?」


振り返って聞かれる。


「濡れるだろ」


「少しくらい大丈夫だよ」


そう言って、フィアはもう一度水に足を入れる。波紋が広がり、光が揺れる。その様子を見ているうちに、なぜか断る理由が薄れていった。


結局、靴を脱いで川へ入る。


思っていたより冷たく、足先から一気に熱が引いていく。流れに足を取られないように少しだけ距離を詰めると、肩が触れそうな位置になった。


どちらも何も言わない。


水の音が近くなっただけだった。


しばらくして、フィアが空を見上げる。


雲がゆっくり流れている。強い日差しが一瞬だけ遮られ、影が落ちる。


「こういうの、いいね」


独り言のようだった。


カイルは答えなかった。


ただ、同じ方向を見ていた。


風が吹く。


濡れた足に触れた空気が少し冷たく、フィアが小さく肩をすくめた。その動きが近くて、思ったより距離がないことに気づく。


けれど、どちらも離れなかった。


理由はなかった。


日が傾き始めると、水面の色が変わる。


さっきまで透明だった流れが、夕日の色を映してゆっくり赤くなる。帰る時間は分かっていたが、誰も言い出さなかった。


やがてフィアが立ち上がる。


「そろそろ戻ろっか」


少し名残惜しそうに言う。


「……ああ」


それだけ答える。


川から上がると、さっきまでの冷たさがすぐに消えていく。歩き出す頃には、もう水の感触は残っていなかった。


振り返ると、川は変わらず流れている。


ただ、さっきより少しだけ遠く感じた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


季節が少しだけ進みました。

特別なことは何もありませんが、同じ場所でも感じ方は少しずつ変わっていきます。


次回は、少しだけ人の多い場所へ向かいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ