表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/27

追う者と、振り向かない者

大きな出来事のあとほど、世界は妙に静かになります。

けれど、その静けさの中で、何かが決まっていることもあります。

空が元に戻っても、森はしばらく震えていた。


風は止み、鳥の声もない。さきほどまで確かに存在していた圧力の余韻が、地面の奥に残っている。草は倒れたまま、空の裂け目があった場所だけが、不自然に澄んでいた。


レオンはゆっくりと剣を収める。


勝利の実感はない。


ただ、生き残ったという事実だけがある。


「……見たな」


ガルドが低く言う。


ミリアは丘の方を見つめたままだった。


「ええ。今度は、はっきり」


セレスは小さく息を吐く。


「助けられた、ってことよね」


否定する者はいなかった。


だが、それを素直に受け入れるのも違う気がした。


丘の下では、フィアが空を見上げていた。


今日は風が強い。


淡いコートの裾が揺れ、髪が頬にかかる。さきほどの歪みはもうない。ただ、少しだけ肩の力が抜けている。


「終わったね」


「そうだな」


カイルはそれ以上聞かない。


フィアも説明しない。


二人にとっては、通り道のひとつにすぎなかった。


森を出るころ、空はすでに夕方に傾いていた。


光は赤みを帯び、長い影が伸びる。草を踏む音が、やけに鮮明に響く。


レオンは歩き出す。


「追う」


短く言う。


ガルドが眉をひそめる。


「話しかけるのか?」


「……分からない」


正直だった。


敵ではない。


味方とも言えない。


だが、このまま知らないままでいることはできなかった。


丘の上に着いたとき、二人の姿はまだそこにあった。


並んで立ち、沈みかけた太陽を見ている。距離は遠い。だが今度は、逃さない。


レオンは一歩踏み出す。


その瞬間、フィアがわずかに振り向いた。


目が合う距離ではない。


けれど、確実に“気づいた”。


次の瞬間、空気が静かに変わる。


風の向きが逆転する。


丘の上の二人の姿が、揺らぐ。


ガルドが息を呑む。


「消えた……?」


そこにいたはずの背中は、もうない。


足跡すら残っていない。


丘の裏手では、カイルが歩き出していた。


フィアは隣を歩きながら、少しだけ笑う。


「近づいてたね」


「そうだな」


「どうする?」


質問は軽い。


だが、初めて意味を持っている。


カイルは少し考える。


「追われる理由はない」


それが答えだった。


フィアは頷く。


「うん。まだね」


丘の上で、レオンは地面を見つめていた。


痕跡がない。


逃げたのか、移動したのか、それすら分からない。


ミリアが小さく呟く。


「空の裂け目……あれ、あの二人が触れた瞬間だけ安定してた」


ガルドが黙る。


セレスも笑わない。


レオンは空を見上げる。


青は何事もなかったように広がっている。


だが確信だけは残った。


「あれは偶然じゃない」


声は低い。


「次は、逃さない」


丘の向こうで、二人は街へ向かって歩いている。


夕焼けが背中を染める。


フィアは少しだけ歩幅を合わせる。


「ね」


「なんだ」


「追いかけられるのって、ちょっとドキドキするね」


冗談めいた声だった。


カイルは小さく息を吐く。


「面倒だ」


それでも歩く速度は変わらない。


世界が動き始めていることを知りながら、二人は変わらず並んでいた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに、勇者パーティが“追う側”に回りました。

そして二人も、初めて自分たちが観測されていることを自覚します。


次回、距離はさらに縮まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ