知らないところで決まる日
気づかないまま、何かが決まっている日があります。
それは大きな出来事ではなく、あとから振り返ったときに分かることなのかもしれません。
森の奥は、冬の気配を含み始めていた。
空気は澄んでいるのに、どこか張り詰めている。足元の土は硬く、落ち葉の音がこれまでよりはっきり響く。風が吹くたびに枝が擦れ、その音が遠くまで続いた。
レオンたちは魔物と対峙していた。
これまでにない種類だった。姿は大きくないが、周囲の魔力が濃く、立っているだけで空気が歪む。刃が通らないわけではない。だが、確実に削れている感覚がない。
「下がれ!」
レオンの声が響く。
ミリアの魔法が炸裂し、ガルドが盾で受け止める。セレスが回復を重ねる。戦いは成立している。
だが、終わらない。
魔物は確実に強かった。
そのときだった。
魔物が踏み込んだ瞬間、動きが止まる。
一瞬だった。だが全員が気づいた。
重さが抜けた。
存在そのものが、ほんのわずかにずれたような感覚。
「今だ!」
レオンの剣が深く入る。
連撃が続き、魔物は崩れ落ちる。
だが、誰も勝った気がしなかった。
「……今の」
ミリアが震える声で言う。
「誰かが触った」
ガルドが黙る。
セレスも笑わない。
レオンだけが森の奥を見ていた。
確信していた。
偶然ではない。
その頃、少し離れた道をカイルとフィアが歩いていた。
今日はフィアはいつもより落ち着いた色の服を着ていた。厚手ではないが、季節の変化を意識した装いだった。袖を何度か整えながら歩いている。
「寒くなってきたね」
「もうすぐ冬だ」
短い会話だった。
フィアは少し考えるように前を見る。
「ね」
「なんだ」
「冬も、出かける?」
質問は軽かった。
けれど、初めての種類だった。
カイルは少しだけ考えてから答える。
「行くだろ」
それで十分だった。
フィアは小さく笑う。
森の奥では、レオンが地面に残る魔力の歪みを見ていた。
戦闘中にしか現れないはずの痕跡が、戦いの外側に伸びている。
「いる」
小さく言う。
「俺たち以外に、もう一組」
風が吹き、痕跡は薄れる。
だが確信は消えなかった。
道の上では、二人が変わらず歩いていた。
何も知らないまま。
だが世界の側は、もう見失っていなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
物語が少しだけ動き始めました。
変わらない時間の中で、外側だけが変化していきます。
次回は、勇者パーティが初めて追い始めます。




