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19/21

風の抜ける草原の日

少し遠くまで歩く日は、特別なことをしなくても時間が長く感じられます。

ただ一緒にいるだけで、十分な日もあります。

森を抜けた先には、背の低い草が広がっていた。


秋の草原は色が淡く、風が吹くたびに波のように揺れる。空を遮るものがなく、雲の影がゆっくりと地面を横切っていった。遠くで鳥が旋回し、声だけが遅れて届く。


フィアは少しだけ足を速める。


今日は動きやすい軽い服装だった。薄い上着の裾が風に持ち上がり、歩くたびに草先をかすめていく。普段よりも足取りが軽く、時々振り返ってカイルの位置を確かめていた。


「ここ、気持ちいいね」


「ああ」


風が強く、言葉は少し流される。


それでも会話は途切れなかった。


草の中を進んでいると、不自然に倒れた一帯が見えてきた。


地面が抉れ、草が広く押し潰されている。新しい跡だった。風の向きとは違う方向に倒れている。


フィアは立ち止まり、少しだけ首を傾げる。


「昨日かな」


「……戦った跡だな」


カイルは短く答える。


誰が、とは言わなかった。


少し離れた場所では、レオンたちが同じ場所を調べていた。


「ここだ」


レオンが地面を指す。


巨大な魔物の痕跡は残っている。だが決定的な一撃の形が不自然だった。押し潰されたような、あるいは重さそのものが消えたような跡。


「こんな倒れ方、見たことない」


ミリアが低く呟く。


ガルドは腕を組んだまま周囲を見回す。


「でも俺たちが来たときには、もう終わってたんだろ」


セレスは苦笑する。


「助かったなら、それでいいじゃない」


誰も反論しなかった。


ただ、レオンだけが遠くの草原に視線を向けていた。


その頃、カイルとフィアは草の中を歩き続けていた。


風が強くなり、フィアは髪を押さえる。笑いながら、少しだけカイルの近くへ寄る。


「ね、あそこまで行ってみようよ」


指さした先には、小さな丘があった。


特別なものは何もない。ただ見晴らしが良さそうだった。


「いいぞ」


二人はそのまま歩き出す。


丘の上に立つと、風が一段強くなる。


草が一斉に揺れ、視界いっぱいに波が広がる。街は遠く、森も小さく見えた。ここまで来ると、さっきまでいた場所が別の世界のようだった。


フィアはしばらく黙って景色を見ている。


風に揺れる裾を押さえながら、小さく息を吐いた。


「……なんか、いいね」


それ以上の言葉はなかった。


カイルも何も言わない。


ただ隣に立って、同じ方向を見ていた。


遠くの草原で、レオンは小さく目を細める。


一瞬だけ、人影が見えた気がした。


だが風が草を揺らし、すぐに分からなくなる。


「どうした?」


ガルドの声に、レオンは首を振った。


「……いや、なんでもない」


気のせいかもしれなかった。


丘の上では、風だけが吹き続けていた。


二人はしばらく動かず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は少しだけ、同じ場所を別々の視点で歩いた一日でした。

まだ交わらないまま、少しずつ距離だけが縮まっていきます。


次回は、少しだけ季節が進みます。

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