同じ森を別々に歩く日
同じ道を歩いていても、見ているものが違えば、まったく別の一日になります。
気づかないまま、誰かとすれ違っていることもあるのかもしれません。
森の中には、戦いの跡がまだ残っていた。
折れた枝、抉れた地面、焼け焦げた木の幹。風が吹くたびに乾いた葉が舞い上がり、それらを少しずつ覆い隠していく。昨日の出来事のはずなのに、すでに遠い記憶のようだった。
勇者パーティは慎重に進んでいた。
「昨日の魔獣……やっぱり変だったな」
後衛の魔法使いが小さく呟く。
確かに強敵だった。だが、最後の瞬間だけ明らかに動きが鈍った。あれがなければ、勝てていたか分からない。
勇者は答えなかった。
ただ、地面に残る足跡を見ている。
自分たちのものとは違う、浅く整った足跡が二つ、戦場の近くを通っていた。
その頃、森の外れではカイルとフィアが同じ道を歩いていた。
昨日と違い、空はよく晴れている。木々の隙間から差し込む光が落ち葉を照らし、踏むたびに色が変わった。
フィアは今日は明るい色の上着を着ていた。
風が吹くたびに布が揺れ、光を受けて少しだけ柔らかく見える。昨日より歩く速度が軽く、時々足元の葉を蹴っては小さく笑っていた。
「昨日の森、ちょっと騒がしかったね」
「魔物が多かった」
「そっか」
深く考えた様子はなかった。
道の途中で、折れた木の幹を見つける。
大きく裂けた断面は新しく、まだ木の匂いが残っていた。フィアはしゃがみ込み、指先で触れる。
「すごいね」
「大きいのがいたんだろう」
カイルはそれ以上言わなかった。
自分たちが通る前に、戦いがあったことは分かっていたが、それ以上の興味はなかった。
森の奥では、勇者が同じ木の断面を見ていた。
「ここだ」
仲間たちが集まる。
魔獣が倒れた場所。だが致命傷になるはずの傷とは別に、説明のつかない痕跡が残っている。何かに押さえつけられたような、不自然な歪みだった。
「別の誰かがいた……?」
誰も答えられない。
強い冒険者が通りかかったのか、それとも偶然か。確証はなかった。
その頃には、カイルとフィアは森を抜けていた。
開けた場所に出ると、風が強く吹く。空が高く、雲が早く流れていく。
フィアは目を細める。
「今日はあったかいね」
「日が出てるからな」
並んで歩く距離は変わらない。
後ろで何が起きているのかを知らないまま、二人はそのまま道を進んでいく。
森の中では、勇者が最後に足跡を見つけていた。
浅く、乱れのない歩幅。
戦いを避けるように通り過ぎている。
「……なんだ、この人たち」
呟きは風に消えた。
答えは、まだ遠かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
同じ場所でも、立場が違えば見えるものは変わります。
少しずつ、世界の側から二人の存在が見え始めています。
次回は、再び二人の時間に戻ります。




