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16/17

市場の外れで立ち止まる日

人の多い場所では、何も起きていないように見えて、いろいろなことが同時に進んでいます。

気づかないまま通り過ぎることも、きっと多いのだと思います。

秋の市場は、夏とは違う賑わい方をしていた。


呼び込みの声は少し落ち着き、並べられた果物の色も深くなっている。焼いた木の実の匂いと、乾いた香草の香りが混ざり合い、風が通るたびにゆっくりと流れていった。


フィアは人の流れに合わせて歩いている。


今日は淡い色の上着に、細い帯でまとめた軽い装いだった。動くたびに布が揺れ、立ち止まるとすぐに静かに形を戻す。何度か店先に視線を向けながらも、すぐには足を止めなかった。


「混んでるね」


「祭りが近いらしい」


カイルの言葉に、フィアは小さく頷く。


人の多さを嫌がる様子はない。ただ、少しだけ歩く距離が近かった。


市場の外れに近づくにつれて、声の数が減っていく。


屋台の間隔が広がり、代わりに風の音が聞こえるようになった。空は高く、雲が早く流れている。


フィアはふと足を止める。


「ここ、前も通ったね」


「ああ」


春だったか、夏だったか。はっきりとは思い出せなかったが、確かに同じ場所だった。


そのとき、遠くで小さな騒ぎが起きた。


人のざわめきが一瞬だけ広がり、すぐに収まる。何かが倒れる音がしたが、悲鳴は続かなかった。


フィアはそちらを見る。


けれど、歩き出す。


「大丈夫そうだね」


確認するような言い方だった。


カイルも特に気にした様子はなかった。


少し離れた場所では、衛兵たちが困惑した顔で立っていた。


突然現れたはずの魔物が、気づいたときには倒れていた。傷は浅く、だが完全に動かなくなっている。


誰がやったのか分からない。


ただ、人混みの中を歩いていく二人の背中だけが、なぜか目に残った。


「……今、誰か通ったか?」


答える者はいなかった。


市場を抜けると、急に静かになる。


夕方の風が冷たくなり始めていた。


フィアは買ったばかりの小さな紙袋を揺らしながら歩いている。


「今日はあんまり見て回らなかったね」


「そうか?」


「うん。でもいいや」


そう言って笑う。


理由は言わなかった。


街の外れに差し掛かるころ、空の色が変わり始める。


灯りが一つ、また一つと点き始めていた。


フィアは少しだけ歩く速度を落とす。


隣に並ぶ距離が、自然に近くなる。


何も起きていない一日だった。


けれど、なぜか帰るのが少し惜しく感じられた。


秋の市場は、夏とは違う賑わい方をしていた。


呼び込みの声は少し落ち着き、並べられた果物の色も深くなっている。焼いた木の実の匂いと、乾いた香草の香りが混ざり合い、風が通るたびにゆっくりと流れていった。


フィアは人の流れに合わせて歩いている。


今日は淡い色の上着に、細い帯でまとめた軽い装いだった。動くたびに布が揺れ、立ち止まるとすぐに静かに形を戻す。何度か店先に視線を向けながらも、すぐには足を止めなかった。


「混んでるね」


「祭りが近いらしい」


カイルの言葉に、フィアは小さく頷く。


人の多さを嫌がる様子はない。ただ、少しだけ歩く距離が近かった。


市場の外れに近づくにつれて、声の数が減っていく。


屋台の間隔が広がり、代わりに風の音が聞こえるようになった。空は高く、雲が早く流れている。


フィアはふと足を止める。


「ここ、前も通ったね」


「ああ」


春だったか、夏だったか。はっきりとは思い出せなかったが、確かに同じ場所だった。


そのとき、遠くで小さな騒ぎが起きた。


人のざわめきが一瞬だけ広がり、すぐに収まる。何かが倒れる音がしたが、悲鳴は続かなかった。


フィアはそちらを見る。


けれど、歩き出す。


「大丈夫そうだね」


確認するような言い方だった。


カイルも特に気にした様子はなかった。


少し離れた場所では、衛兵たちが困惑した顔で立っていた。


突然現れたはずの魔物が、気づいたときには倒れていた。傷は浅く、だが完全に動かなくなっている。


誰がやったのか分からない。


ただ、人混みの中を歩いていく二人の背中だけが、なぜか目に残った。


「……今、誰か通ったか?」


答える者はいなかった。


市場を抜けると、急に静かになる。


夕方の風が冷たくなり始めていた。


フィアは買ったばかりの小さな紙袋を揺らしながら歩いている。


「今日はあんまり見て回らなかったね」


「そうか?」


「うん。でもいいや」


そう言って笑う。


理由は言わなかった。


街の外れに差し掛かるころ、空の色が変わり始める。


灯りが一つ、また一つと点き始めていた。


フィアは少しだけ歩く速度を落とす。


隣に並ぶ距離が、自然に近くなる。


何も起きていない一日だった。


けれど、なぜか帰るのが少し惜しく感じられた。


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