帰り道が少し長い日
日が短くなり始めると、同じ距離でも帰り道が少し違って感じられます。
理由はたぶん、景色ではないのだと思います。
街を出たときにはまだ明るかった空が、帰り道に入るころには少し色を変えていた。
西の空だけが淡く赤く、他の場所はすでに青さを失い始めている。道の両側に並ぶ木々の影が長く伸び、歩くたびにその中へ入ったり出たりを繰り返した。
フィアは今日は、いつもより歩く速度を落としていた。
深い色の上着を羽織っていて、袖口が少し長いのか、時々指先を隠すように握り直している。風が吹くたびに布が揺れ、その動きに合わせて歩幅がわずかに変わった。
「暗くなるの、早くなったね」
前を見たまま言う。
「ああ」
カイルは短く答える。
それ以上の言葉は続かなかった。
昼に立ち寄った小さな村の灯りが、すでに遠くに見えていた。まだ夜ではないのに、窓の明かりだけがやけに目立つ。
フィアは一度だけ立ち止まり、その光を眺める。
「なんか、帰る時間って感じするね」
「もう夕方だ」
「うん。でも、ちょっとだけ惜しい」
小さく笑って、また歩き出す。
理由は言わなかった。
道は緩やかに下っていた。
落ち葉を踏む音が一定のリズムで続き、どちらも無理に会話を探そうとはしなかった。静けさは気まずくなく、ただ時間がゆっくり進んでいるだけだった。
風が強く吹く。
フィアの髪が流れ、袖がカイルの腕に触れる。すぐに離れたが、どちらも歩く速度を変えなかった。
遠くで鳥が鳴き、すぐに静かになる。
少し先の曲がり角で、若い冒険者の二人組が立ち止まっていた。
何かを警戒している様子だったが、カイルとフィアが近づくころには、張り詰めていた空気が不自然に緩んでいた。
さっきまで感じていた魔物の気配が、いつの間にか消えている。
「……今の、気のせいか?」
冒険者の一人が呟く。
もう一人は答えなかった。ただ、通り過ぎていく二人の背中を、少しだけ長く見ていた。
空はほとんど暗くなっていた。
街の灯りが見え始める。
フィアは歩きながら、小さく息を吐いた。
「また来ようね」
今度は前を向いたまま言った。
いつ、とは言わない。
カイルも聞かなかった。
「ああ」
それだけで十分だった。
帰り道は、来たときより少しだけ長く感じられた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
秋が深くなるにつれて、帰る時間の意味も少しずつ変わっていきます。
次回は、少しだけ世界側の動きが見え始めます。




