風の通る道の日
同じ場所でも、来るたびに少しずつ違って見える。
変わったのが景色なのか、自分なのかは分からない。
秋に入ったばかりの風は、まだ冷たくなりきっていなかった。
街道を外れた細い道には背の低い草が残っていて、歩くたびに乾いた葉が擦れる音がする。空は高く、雲の影がゆっくりと地面を横切っていた。
フィアは今日は外套を着ていなかった。
代わりに薄い布の上着を羽織っていて、風が吹くたびに袖がわずかに揺れる。歩く速度はいつもと同じなのに、裾が草に触れるたび、ほんの少しだけ足を止める癖があった。
カイルはそれを見ていたが、何も言わなかった。
「この道、前にも通ったよね」
フィアが言う。
「春だったな」
「あのとき、まだ暑くなかった」
それだけの会話だった。
けれど、同じ道には見えなかった。
道の先で、小さな荷車が止まっていた。
商人らしい男が、車輪を外して困ったように座り込んでいる。近くには誰もいない。
フィアが足を止める。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、男は驚いたように顔を上げた。
「ああ、いや……車輪が外れてしまって」
カイルは無言でしゃがみ込み、歪んだ金具を元に戻す。力を入れた様子もなかったが、次の瞬間には車輪は元の位置に収まっていた。
「これで動く」
それだけ言って立ち上がる。
男は何度も礼を言ったが、二人はもう歩き出していた。
しばらく進んでから、フィアが小さく笑う。
「最近、よく誰かに会うね」
「そうか?」
「うん。でも、すぐ終わる」
言い方が少しだけ曖昧だった。
カイルは意味を聞かなかった。
風が抜ける。
フィアの髪が横に流れ、袖がカイルの腕にかすかに触れた。偶然だったのか、どちらも動かなかった。
遠くで鳥が鳴く。
道はまだ続いていた。
少し離れた場所で、商人の男が二人の背中を見送っていた。
車輪は確かに直っている。だが、どうやって直したのか思い出せなかった。ただ、気づいたときには終わっていた気がした。
「……冒険者、か?」
自分で言って、首を振る。
あんな静かな冒険者を見たことがなかった。
風がまた吹く。
二人の姿は、すぐに木々の間へ消えていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
季節が変わると、同じ道でも少し違って見えます。
二人にとっても、きっと同じではない一日でした。
次回は、少しだけ遠くまで歩きます。




