並んで歩く日
同じ道を歩いていても、隣にいる人が違えば景色は変わる。
それがいつからなのかは、あとになっても思い出せない。
森を抜ける道は、秋の匂いを含み始めていた。
乾いた葉が足元で砕け、踏むたびに軽い音がする。夏の間は濃く感じていた緑も、どこか色を失い始めていて、空の高さだけがやけに目についた。
フィアは少し前を歩いている。
時々立ち止まり、落ち葉を足先で転がしてからまた歩き出す。その速度に合わせて、カイルも自然と歩幅を変えていた。
「静かだね」
「この辺りは人が少ない」
それだけの会話だった。
風が抜け、枝が揺れる音が続く。
気配に気づいたのは、ほぼ同時だった。
森の奥から、低い唸り声が響く。
姿を現したのは、大型の魔物だった。以前見たものよりも明らかに大きく、地面を踏みしめるたびに乾いた土が跳ねる。逃げ場の少ない道だった。
フィアは立ち止まる。
カイルも剣に手をかける。
言葉はなかった。
どちらが先でもなかった。
魔物が跳びかかる。
その瞬間、空気が二度揺れた。
カイルの剣が振り抜かれるより先に、魔物の動きがわずかに鈍る。見えない何かに押さえつけられたように、体勢が崩れた。
次の瞬間、斬撃が走る。
音は遅れて届いた。
魔物の巨体が崩れ落ち、地面に深い傷だけが残る。周囲の木々が揺れ、葉が遅れて降り始めた。
それで終わりだった。
フィアは小さく息を吐く。
「ちょっと大きかったね」
「そうだな」
カイルは剣を収める。
特別なことをしたという感覚はなかった。
しばらく、落ち葉が舞い続けていた。
さっきまでの緊張が嘘のように、森はすぐに静けさを取り戻す。遠くで鳥が鳴き、風が通り抜ける。
「ね」
フィアが歩き出しながら言う。
「今、同時だったね」
「……そうか?」
「うん」
それ以上は続かなかった。
意味を確かめる必要もなかった。
道はそのまま続いている。
さっきまで魔物がいた場所も、少し進めばただの森の一部に戻っていた。
並んで歩く距離は変わらない。
けれど、どちらも少しだけ歩く速度が揃っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は少しだけ、二人が同時に動いた日でした。
本人たちは特に気にしていませんが、並んでいるときだけ起きることもあります。
次回は、少しだけ視点が外に向きます。




