夏の終わりの空の日
同じ道を歩いているはずなのに、ある日ふと、季節が変わったことに気づく。
理由は分からない。ただ、風の音だけが少し違っている。
夏の終わりは、気づかないうちに始まる。
昼間の陽射しはまだ強いのに、夕方になると急に風が軽くなる。熱を含んでいたはずの空気が、どこか遠くへ抜けてしまったようだった。
川沿いの道を歩きながら、フィアは何度か空を見上げていた。
雲の形が変わっている。
前よりも高く、ゆっくり流れている気がした。
「少し涼しくなったね」
言葉にすると、それがはっきりする。
カイルは頷くだけだった。
水の音は変わらない。
けれど、前に来たときよりも人の姿が少なかった。夏の盛りには子どもたちが遊んでいた場所も、今は静かで、石の上に残った水跡だけが光っている。
フィアは立ち止まり、しばらくその場所を見ていた。
何を思い出しているのかは、自分でも分からなかった。
ただ、同じ場所なのに少し違って見えることだけが、不思議だった。
歩き出すと、風が吹いた。
髪が揺れ、視界の端で光が揺れる。夏の匂いが、ほんの少しだけ薄くなっている。
「ね」
フィアが言う。
「なんだ」
「また、ここ来ようね」
何気ない言葉だった。
約束というほどの重さもない。ただ、思いついたことをそのまま口にしたような言い方だった。
「ああ」
カイルはそれ以上聞かなかった。
いつ来るのかも、なぜそう言ったのかも。
夕日が低くなり、影が長く伸びる。
歩く速度は変わらないのに、帰り道が少しだけ早く感じられた。
理由は分からない。
ただ、日が沈むのが前より早くなっている気がした。
橋の上で、フィアが立ち止まる。
川面は赤く染まり、流れが見えなくなるほど光を反射していた。しばらく二人で同じ方向を見る。
言葉はなかった。
けれど、急いで帰る必要もなかった。
やがて光が消え始める。
夜になる前の、短い時間だった。
「行こっか」
フィアが言う。
カイルは頷く。
橋を渡りながら、フィアは一度だけ後ろを振り返った。
川は変わらず流れている。
ただ、もう夏ではない気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は少しだけ、季節が進んだ日でした。
何も変わっていないようで、同じ時間は少しずつ過ぎていきます。
次回から、少しだけ空気が変わります。




