数十年後のミステリー
ある館で起きた殺人事件。
被害者は、犯人に誘導されるように椅子に座っていたがどのようにそうされたのかが謎だった。犯人はわかっている。だが、トリックがわからない。
怪しいものがあるとすれば机の上には不思議な薄いペラペラした白いもの。
警察もお手上げ、迷宮入りするよう思えていた。
そう、彼が現れるまでは。
「刑事さん、わかりましたよ」
偶然そこに居合わせた名探偵。彼は現場を見るやいなや不敵な笑みを浮かべた。
「すぐにみなさんを集めてください」
ーーーーー
「探偵さん、私がどのようにして被害者を誘導したのですか?あそこで彼を誘導できるようなものはありませんでしたよ?」
犯人は得意げに笑っている。自分のトリックは見破られるはずはないと言わんばかりに。
刑事は探偵をじっと見つめる。
「……あるじゃないですか?そこに」
探偵が指をさしたのは、机の上にあった白い薄いペラペラとしたもの。犯人はさっきまで得意げだったはずの表情が思わず歪ませる。
「そ、それでどうやって誘導したというんですか?」
「そうだよ探偵さん、こんなものじゃ何もできないやしないはずだ」
刑事も探偵のことを疑っている。こんなペラペラなものでできることなどない、そう思っていたからだ。
すると、探偵は懐から同じようにペラペラしたそれを取り出した。
「これは、ここにあるものと同じものです」
そして、加えてもう一つ、先の尖った筒状のものを取り出した。
「ペラペラとしたこの物体は"紙"と呼ばれるものです」
「……紙?」
探偵は、全員の疑問に答えるようにすらすらと説明を続ける。
「これは、確かにペラペラとしていてこれだけでは一見、何も伝えることができませんが、この"鉛筆"というものを使えば……」
探偵はそういうと鉛筆と呼ばれるものを紙の上で真っ直ぐに動かす。そこに直線が記録されていく。
「このように、文字情報を記録することができます」
「なんと……!」
信じられない光景に全員が感嘆の声を漏らす。犯人は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「た、たとえ文字がそこに記録できたとして、そこに文字はなかっただろ?」
精一杯の反論に出る犯人。刑事も一理あるとして頷いている。
「探偵さん、そこのところはどうなんだね?」
「この紙にはもう一つ特徴がありましてね?鉛筆で書いた文字というのは、消せるんですよ」
探偵がコートのポケットに手を突っ込むと、犯人は観念したように下を向いた。
「この、"消しゴム"でね」
探偵は引いた直線をを消していく。
「そして、この消した場所には少し黒い跡が残る。現場にあった紙にはその跡があります」
現場に残された紙を見せる探偵。確かにそこには、黒い跡があった。
「私の見立てが正しければ、あなたはまだ持っているはずです。消しゴムを。こんなもの、ゴミ箱に入れていてはトリックがバレかねませんからね」
犯人はポケットから消しゴムを取り出した。
「全て、探偵さんの言う通りです。……完璧なトリックだと思っていたのに。まさか、紙のことを知っている人間がいるとは」
「温故知新。人類が歩んできた歴史というのは、しっかりと学ぶべきです。ですが、それを命を奪うために使うなんて持ってのほかですがね」
肩を落とした犯人は、刑事に連行されていった。
館に静けさが戻り、探偵はまた次の事件へと向かっていく。




