1.運命の出会い、リリアナ視点。
「アレが噂の?」
「そうらしいわよ。貧困街出身の異端児、ですって」
「あぁ、おぞましい。貴族の園に、あのような穢れが存在しているなんて」
陰口などではなかった。
それは明らかに、一人の少女に聞こえるように口にされている。入学して間もない新入生ばかりの教室、その窓際最後尾にその少女はいた。
名をリリアナという彼女は、長い金色の髪で目を隠してうつむいている。
そのため顔はうかがい知ることができないが、ちらりと覗く瞳の色は真紅だった。
「なんでも、学園長の肝いりだとか?」
「まったくあの人は、学園を自分の遊び場と勘違いしているのでは?」
「勘違いしているのは、あの異端児でしょう。普通、才能を見出されたとして、この学園に通おうと思うかしら。思い上がりも甚だしい」
そんな会話が聞こえてくる。
たしかに、リリアナはこの学園の長の肝いりだった。
貧困街に足を運んだ学園長が、偶然に強い魔力反応を検知して見つけたのが彼女。魔法の才を見出され、この王都立魔法学園に通うことになったのだ。
しかし、ご覧の通り。
リリアナを待ち受けていたのは、歓迎などではなかった。
「さぁ、そろそろ行きましょう? 同じ空気を吸うことすら、危険よ」
「これだけ言ったんだもの。明日からはきっと、寮に引きこもるに違いないわ」
日々、このような罵詈雑言を浴びながら。
リリアナはただただ、必死になって魔法の基礎を学んでいたのだった。放課後、一人になるまで教室に残るのは、無抵抗の意思を示すため。
下手に動こうものなら、勘違いを招きかねなかった。
そうして今日も、ようやく解放される。
「ふぅ……もう、大丈夫だよね?」
夕陽差し込む教室の中で、少女は一人立ち上がった。
そして必要な教科書を鞄に詰め込み、廊下に誰もいないのを確認しながら一歩を踏み出す。そうやって物陰に隠れるようにしながら、彼女が向かったのは学園の図書館だった。
そこは勤勉な学園生しかおらず、誰もリリアナなど気にしない。
それに、何よりも静かだ。
「ここなら、魔法の勉強に集中できる」
ここであれば、やりたかった勉強に集中できる。
そう考えたリリアナが、常連になるのに時間はかからなかった。
そして今日もカツカツという時計の音だけを聞きながら、少女は様々な書物のページを捲っていく。一心不乱に勉学に打ち込み、時はあっという間に過ぎていった。
◆
「あ、れ……? まっくらだ」
そうして、いつの間にか勉強中に寝落ちていたらしい。
リリアナは重たい瞼を持ち上げつつ、周囲に誰もいないことを確かめた。さすがに寮に帰らなければ、遅い帰宅を咎められてしまう。自分が悪いのだが、彼女もそれは嫌だった。
そう考えて、荷物をまとめていると――。
『誰かー!』
「ふえ!?」
頭の中に、何者かの声が響いた。
思わず声を上げたリリアナは、周囲を見回す。――が、誰もいない。
聞き間違いかと思った。だがそれでも、助けを求めている人がいたらと考えた少女は、そっと声のした方へと足を運ぶ。
すると本棚と壁の隙間に、空間があることに気付いた。
決して大きくはないが、彼女のような小柄な子供なら問題なく入れる。
「う、うぅ……」
恐怖心はあった。
それでも、怪我人がいたら大変だ。
リリアナはそのように考え、勇気を振り絞って足を踏み入れる。すると、
「こ、ここどこぉ……? 誰か、いるんですか……?」
『え……!?』
目の前に広がったのは、もう一つの図書館と呼ぶには広すぎる書斎。
魔法によって空間自体が拡大されているのか、想像の何倍もの広さが確保されていた。その中で声を発すると、何やら声の主も驚いたようなことを言う。
そして、数秒の間を置いてから――。
『うおおおおおお!? 美少女キタ━━━━━━━━!?』
「ひ、ひぃ!?」
秘密図書館の一番奥。
そこに安置されている書物からハッキリと、そのような声が聞こえた。
「あの、わたしを呼んだのは……あなたなの?」
信じられない事態に、リリアナはおっかなびっくりに声をかける。
すると、その古びた本は――。
『――う、うむ。我が名はグリモワール。貴様を見込んで声をかけた』
どこか作った声色で、そう告げるのだった。
これがリリアナにとっての運命の出会い。
しかし彼女は事態を把握しきれず、ただ小首を傾げるだけだった。
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