第4話 博多ラーメン店がやってきた!
三月二十一日金曜日。
涼子は今夜のラーメン活動のために、朝と昼は軽めに済ませた。
ラーメンをより美味しく味わうために、余念がない。
ラーメンガイドブックもいつの間にやら冊数が増えて、居間の棚はラーメン雑誌が幅をきかせている。
(醤油、味噌、塩ときたら、次は何かしら。煮干し? 坦々? 創作ラーメンも捨てがたいわ)
もう朝からラーメンの口になっていて、考えるだけでもよだれが出る。
パートを終えて更衣室で着替えていると、遥がスキップしながら近づいてきた。
「涼子さん! 今週はとんこつラーメンの予定なんすけど、どうっすか? 博多出身の店主がやってるお店で、めちゃめちゃ本格的なんすよ! 東北地方にいながら九州のラーメンを味わえる!」
「博多……ってことは、極細麺?」
「そう! それそれ! 極細ストレート麺で、店主さんは『やわ』がおすすめらしいんす!」
「博多ラーメンの、注文時に好みの麺の硬さを選べるっていうあれよね」
「博多ラーメンって、茹で加減を選べるじゃないすか。カタとかバリカタとか。でも、ここの店主さんは本当のとんこつの旨みを味わうなら、やわ麺がベストって言ってるんす! 本場の人はカタとかバリカタ頼む人がほとんどみたいっすけどね、この店のはやわに合うように調合されたスープなんすよ!」
遥の熱量につられ、涼子も興味が湧いてきた。
「それ、絶対美味しいわね!」
「もちっす!」
二人が訪れたのは、「博多麺屋しらいし」。
カウンターだけの小さな店だが、店内には独特のとんこつの香りが立ち込め、壁には「博多愛満点!」という店主直筆の張り紙がある。
「らっしゃい!」
厨房から、店主が元気に迎えてくれた。
「こんばんは! 店主さんおすすめの『やわ』で、ラーメンニつお願いします!」
「おっ、やわな! すぐ出すけん、待っとってな!」
カウンターに座ると、すぐに紅ショウガ、すりごま、高菜の壺が出てくる。
「これ好きなやつ入れていいんすよ!」
「なるほど、好みに合わせてアレンジできるのね」
「ちなみに、あたしのおすすめは紅しょうがもりもりっす!」
「紅しょうがって焼きそばのイメージが強かったけれど、ラーメンにも合うのねぇ」
「博多ラーメンなら外せないっすよ」
そうこうしているうちに、店主がカウンターにどんぶりを置く。
「お待ち! 前から失礼!」
「わー! キタキタキタキターーー!」
乳白色のスープに、極細ストレート麺。
トッピングはシンプルにチャーシュー、青ネギ、キクラゲ。
王道中の王道な博多ラーメンだ。
レンゲですくってスープをひと口。
口に広がる、濃厚でクリーミーなとんこつの旨み。紅しょうがをトングで入れるとさらにスープの美味しさが増す。
「まろやかだけど、コクがあるわね。紅しょうがとすごく合うわ。良い香り」
「でしょ! これがハマるんすよ!」
次に、店主おすすめのやわ麺をすすってみる。
「スープが麺によくからむわ。博多ラーメンってこんなに美味しいのね」
「最高に美味いっすよね!」
スープをしっかり吸い込んだやわ麺は、口当たりが優しく、スープの旨みが絡みつく。
「これ、クセになりそうね」
「でしょ! 替え玉もできますよ!」
「じゃあ、一回試してみようかしら」
涼子も初めての替え玉に挑戦。
「替え玉ひとつ!」
「へい! すぐ出すばい!」
やってきた替え玉に、高菜と紅ショウガをたっぷり乗せ、白ゴマを振る。
「味変して、また新しい美味しさを楽しむ。ダイゴミっす!」
遥はニコニコしながら、涼子と一緒に替え玉をすすった。
「これは、金曜の締めに最高ね」
「でしょ!」
気づけば、涼子にとってもすっかり金曜夜のラー活が特別な時間になっていた。
「遥さんとラーメン活動を始めて良かったわ。こんなに美味しい店が近くにあるのに、これまで全然知らなかったなんてもったいないことをしたわ」
「へへへっ。今度来るときはバリカタも試しましょう!」
「ええ!」
涼子と遥の金曜夜のラー活は、まだまだ続く――。
次のラー活は最終回、3/28(金)です