第3話 あっさりさっぱり塩ラーメン。
三月十四日。金曜の夜。
パート終わりにロッカールームで涼子がエプロンを外していると、遥がニコニコしながら近づいてきた。
「涼子さん、涼子さん! 今週のラー活は塩ラーメンでどうっすか? ここから徒歩圏内でいい塩ラーメンの店があるんす」
「塩ラーメン?」
「はい! そこの塩ラーメン、めっちゃ透き通ったスープで、シンプルなのにめっちゃ奥深いんすよ!」
醤油、味噌と続いてきた金曜夜のラーメン会。
今回は塩ラーメン。聞いただけでお腹が空いてきた。
「いいわね、行きましょう」
「やった!」
遥の案内でやってきたのは、「らぁめん潮風」というラーメン屋だ。
のれんをくぐると、カウンター越しに店主が手際よく中華鍋を振るう姿が見える。
「らっしゃい!」
「こんばんは~! 塩ラーメン、二つお願いします!」
「かしこまりやした!」
カウンターに座ると、厨房からは魚介の出汁のいい匂いがふわりと漂ってくる。
「このお店、シンプルだけどめちゃくちゃこだわってるんですよ」
「へぇ」
「スープはあごだし、麺は特注の細麺。塩ダレは藻塩をベースにしてるらしくて、まろやかなんです!」
「詳しいわね、遥さん」
「勉強は苦手だけどラーメンの知識なら、いくらでも入るっす!」
「あっはっは。ラーメン屋に向いてるじゃねえか姉ちゃん!」
大将は嬉しそうだ。
話しているうちに、塩ラーメンが運ばれてきた。
透き通った黄金のスープに、細くてつややかな麺。
鶏チャーシューに白髪ネギ、チンゲンサイ、岩のりがトッピングされている。
「いただきます」
レンゲでスープをひと口。
あっさりしているのに、口の中にじんわりと広がる深い旨み。
まろやかで優しい塩味。
「……すごく澄んでるのに、味に厚みがあるわね。鶏チャーシューも全然肉の臭さがなくて、肉に塩の旨味が染み込んでるわ」
「でしょお! これが潮風のラーメンの力っす! これ食べたらもう後戻りデキナインス」
遥が嬉しそうに細麺をすすっている。
「トビウオの旨みがスープに濃縮されていて、最後の一滴まで飲み干せる一杯ですよ」
「たしかに、これは全部飲みたくなるわね」
涼子もレンゲを動かす手が止まらない。
「こういうラーメン、家ではなかなか作れないわよね」
「そうなんすよ! だからこそ、こうしてお店で食べるのが最高なんす!」
二人で黙々と麺をすすり、スープを味わい、時々顔を見合わせて微笑む。
もう当たり前になった金曜夜の時間。
「また来たいわね、ここ」
「ですね! この店あとはつけ麺も美味しいから、次この店に来るときはつけ麺にしましょ!」
「つけ麺食べたことがないのよ。気になるわ!」
金曜夜のラーメン活動。来週はどこに行くのか、それは当日の二人の気分しだい。
次回は3/21(金)夜です。