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タイトル未定2024/09/27 13:31

最近の暑さは異常で、街を歩くことすら億劫になっていた。しかし、退屈さに耐えかねて、ふと街へと足を運んだ。見知らぬ街を彷徨ううちに、涼を求めてあちらこちらを歩き回っていると、奇妙な建物に目が留まった。


その建物のガラス戸には、こう書かれた貼り紙があった。「残暑につき、図書館を開放しております」。高くそびえるその建物は、壁面のほとんどがガラスで覆われているが、内部は不気味なほど真っ黒であった。残暑のために開放されているということは、普段は閉ざされている場所なのだろう。もしや冷房が効いているのなら、ここでしばしの間、時間を潰すのも悪くない。


そう思い、私はその建物の中へと足を踏み入れた。入る際、ガラス戸の脇に掲示されていた開館時間を確認する。「午前十時から午後五時まで」。今は午前十時を過ぎたばかりで、まだまだ時間はたっぷりある。図書館に入ると、開館直後のせいか、館内は静まり返っていた。


一階には新聞や雑誌が並ぶ閲覧室があるだけで、他に客の姿は見当たらない。まるで時間が止まったかのような静寂の中、私はゆっくりと周囲を見回した。「閲覧室」と書かれた扉には、無機質なマジックペンでの文字が目に入る。「これ、入ってもいいのかな?」扉が開いているのだから、入ることに問題はないだろう。好奇心が私を突き動かし、私はその扉を押し開けた。

中は静寂に包まれていた。


机と椅子が整然と配置され、その奥には古びた書架が佇んでいる。


「おお」

思わず声が漏れた。


そこには、驚くほどの数の本が並んでいたからだ。


しかし……、それらの本はどれも古く、傷みが目立ち、読むには適さないように見えた。


「読めそうにないな」

「そうなんだ、読めないんだよ。これらはすっかり古くなって、売り物にもならない本たちさ」

突然、背後から声がかかり、私は驚いて振り返った。

「ああ、すみません、驚かせてしまいました」

声の主は若い男で、柔らかな笑みを浮かべていた。彼は人懐っこい印象を与える人物だった。

「この図書館の管理者です。ずいぶんと古い本が揃っていますね。ここにある本は、もう誰も手に取らなくなったり、処分に困ったものばかりなんですよ。この部屋以外の書物も、途中までは読めるものが多いですが、一部が欠落していたり、「おかしなこと」が起きている本が多くてね、それが逆に評判なんです。」

「特殊な図書館ですね……」

私はクレームが来ないのかと尋ねた。

「まあ、クレームが全くないわけではないですが」

管理者は少し笑いながら答えた。

「でも、この「特殊」な部分が魅力だと感じる方が多いんですよ」

彼は、もしよろしければ館内を案内すると申し出てくれた。

「お時間は大丈夫ですか?」

「ああ、はい。大丈夫です」私はそう答えたが、実はこの広大な図書館を一人で回ることに少し不安を感じていた私にとって、この申し出はありがたかった。


「まずは、どんな本をお探しですか?何でも揃っていますよ、幸せをもたらすものも、不幸をもたらすものも、すべてがここにあります。」管理人はそう言いながら、にこやかに微笑んだ。

その笑顔には、どこか不気味なものを感じつつ、私は尋ねた。「

おすすめの本はありますか?」

管理人は少し考え込んだ後、近くの本棚から一冊の本を取り出した。それは薄い本で、真っ赤な表紙には何も書かれていなかったため、

私にはその正体が全く分からなかった。管理人は無言でその本を差し出した。私はそれを受け取った。さっきまで無地だった赤い表紙の中央に、黒い文字で大きく「怪奇」と書かれていた。


果たしてこれは怪奇小説なのだろうか、それにしても不気味だ。

そんなことを考えているうちに、いつの間にかその不気味な本を開いて読んでいた。

どこか不気味な雰囲気を醸し出すその本を数ページめくったところで、異変に気がついた。

ふっと体から力が抜けていき、自分の意思とは裏腹に手が勝手に動き出すのだ。私はその本を床に落とした。

いや、手は動いていたから落としたというより、手が勝手に本から離れたという方が正確かもしれないが、

そんなことはどうでもよかった。本が床に落ちる音が部屋に響き渡った。体の自由が効かない。

頭が痛い、痛い。いや、痛くはない、痛いように錯覚している感覚がする。

自分の身体から何かがずるずると引き出されているのだ。そのせいなのか、体中の力が抜けていく。

私は意識を保ちながらも、体の自由を奪われていた。近くにいた館長の顔を見ると、彼は突然、破裂するように笑い始めた。

その笑い声は周囲を満たすほどの迫力で響き渡った。しかし、私は笑うどころか、恐怖が胸にずっしりと重くのしかかっていた。体が動かせないだけでなく、何よりも館長の顔がもはや人間の面影を失っていたからだ。


目は異常に大きく、ぎょろりと周囲を見回し、口はまるで鬼のように大きく裂けていた。その表情はとても人間とは言い難く、まるで化け物が出現したかのようだった。心の中で叫びたかった。「化け物だ!」しかし、声はどこにも届かず、静寂だけが私を包み込んでいた。そして、館長がゆっくりと私に近づいてくる。必死に声を上げようとし、体を動かそうとするが、無力感に呑まれ、何もできずにいた。


「もうダメだ」と絶望が胸を締め付けたその瞬間、突然、体が自由を取り戻した。驚くべきことに、私はそのまま床に崩れ落ちた。


目の高さが異常に低く、視界に映るものは恐ろしく歪んでいた。












「新しい本が手に入った、」


__


タイトル「残暑につき」

著者 不明

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