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その日のこと
父の月命日には毎度思い出す。
その日のことを。
父はご飯が食べられなくなった。
そして衰弱していった。
とうとう意識を失った。
それでも毎日会いに病院に通った。
頭に浮かぶのは父がくれた言葉。
『成るように成る』
『ケ・セラ・セラ』
父もなんとかなると信じた。
信じるしかなかった。
その日も、また明日会いにくると言った。
私と母は家に帰った。
その深夜、電話が鳴り響いた。
私は嫌な予感がした。
電話に出るのが怖かった。
震える指で電話マークを押した。
やはり、病院からの電話だった。
父の鼓動が止まったと言われた。
心臓マッサージしてるから早く来てくれと言われた。
嘘だと言って欲しかった。
医者のおかげで、父の旅立ちには立ち会えた。
けれど、私の声は父に届いてくれていたのだろうか。
最期の大好きという言葉だけは、届いていて欲しい。
本当に、大好きだった。