試し書き
はあ、はぁ。
俺は、何てことを。
気がつくと、握られた拳銃からは、白い煙が上がっていた。
俺は人を撃っていた。
仕方がなかったったんだ。
向こうも、拳銃を握っていた。
いつ、撃たれても、おかしくなかった状況だったんだ。
殺されるくらいなら――いっそうのこと。
すると、女が俺の横に来て、そっと耳打ちする。
「あなたは、何も悪くないわ。仕方がなかった――そうよね?」
そうだ。
この女の言う通り、俺は悪くない。
そもそも、俺は、ただの一般だ。コンビニの帰りに、知らない黒服の二人組の男に拉致されて、気がついたら、このわけのわからないゲームに参加されられたいたんだ。
この女――ゲーム・マスターを名乗る女は言った。
「今から、あなたたち二人には、命をかけたゲームに挑んでもらいます」
女は、くすくすと笑う。
「心配しなくても、そんなに難しいゲームではありません。運と運の勝負。お互いを信頼すれば、無事――ゲームをクリアすることができます」
――ただ。
と。
女は言う。
「これは、お互いに信頼しないと、成立しないゲームです。どちらかが裏切れば、それは死に直結します。ですが、裏切り行為を責める気は――ありません。むしろ、受け取る報酬を倍にすることを約束しましょう」
女はニヤリと笑う。
「まだ、ゲームのルールを説明してなかったですね。今からやっていただくゲームは『ロシアン・ルーレット』です。何かピンときましたか? そうです――拳銃を頭に突き付けて頭を撃ち抜く、一度はテレビや映画とかで見たことがあるんじゃないですか? 簡単な男気を試すゲームという認識でもだいじょうぶです」
バン――!
と。
女は指を銃の形にして、自分の頭を撃ち抜く真似をする。
「報酬は一発撃つことに10万とします。お互いに、希望の弾を込めます。弾は6発――何発込めてもだいじょうぶです。入れた弾は、交代に相手の頭に向けて撃ちます。運がよければ、二人とも生き残れる計算になるのですが」
ここで、女は言葉を切った。
そして、
「最初に――信頼と言いましたが。このゲームは、事前に何発目に弾を込めたのか、相手に教えても構わないルールになっています。それがお互いを信頼すると言うことです。もちろん、虚偽の申告をしていただいてもかまいません。それでもし――運悪く相手が死ぬようなことがあっても、さっき言ったように、こちらはあなた方を責めることはありません。相手が不慮の《事故》で死んでしまった場合、ゲームはそこで終了――それまでに獲得した賞金とは別にボーナスとして1000万を支払わせていただきます。そして、獲得賞金も2倍に――」
女は、ハッとしたように両手で口元を覆った。
「これは――もう裏切るしかないですね! メリットしかありませんもの! 聞けば、お二人方は、経済面にかなり苦労されているそうじゃないですか?」
「だいじょうぶ、ここでの出来事はすべて――他言無用です。安心して、お互いを信用してゲームを楽しんでくださいね。それでは――張り切って行ってみよう!」
そんな、場違いな合図と共にゲームが始まった。
信頼――とは言うが。
このゲームは、そんな単純な話じゃない。
そもそも、今あったばかりの《名前》も知らない《人》を信頼できるのかと言う話しだ。
どういう性格なのかもわからない。
もしかしたら、人を平気で殺す。
やばい性格の持ち主の可能性だってある。
それにだ。
さっき言われた通り、俺は経済面に問題を抱えている。
会社を企業したはいいが、不況に煽られ、倒産してしまった。手元に残ったのは莫大な借金――返せる見込みはない。
いや待てよ、と思う。
よくよく考えてみれば、これは渡りに船だ。
勝てば――人生をやり直せることができるかもしれない。
そうだ。
勝てばいい。
それに、お互いに生き残れる道もある。
協力――そうだ。
協力だ!
まずは相手を知るとことから始めるか。