スターティング・オーバー(後編)
同級会の開始時刻になり、幹事が開始の挨拶を言い出す。純三は、それを聞き流しながら、頭では心温との思い出をたぐっている。
それは苦い記憶だ。
心温の転校の前日になり、皆でお別れ会をする事になった。当初は、純三もその会に参加するつもりでいた。しかしその前の日になり、翌日の会を想像すると、何故か悲しくなって会の最中に泣いてしまうかもと不安で、風邪を引いたと嘘をつき、お別れ会は欠席した。
その事が純三の心の隅にあって忘れられない。今にして思えば、あれが俺の初恋だったのか、そんなふうに思いながら、楽しそうに話している心温を、気にせずにはいられなかった。
始まって三十分くらい経った頃、幹事の男が立ち上がり純三の本を手で掲げて、
「え~皆さん、こっち見て下さい。この本、さっき純三君から預かりました。希望者の人に貰って欲しいそうです。誰かどうですか」と周りを見渡し、隣に座る人に本を差し出す。
同級生達は、何それ、その本がなんだって、純三がどうした、口々に言いながら作品集を手に取り、次に渡していく。
純三は立ち上がって、
「僕が書いた本です。一冊しかありませんが、誰か貰って下さい」そう言い軽く頭を下げる。そのうちに、
「私、貰って良いですか」クラスのムードメイカー的な女性が手を上げる。
どうぞどうぞ、ありがとうございます。と純三は笑顔を見せた。
やれやれ本がはけて良かった、と残っていたビールを一気に飲み干し、ちょっと安堵していると、
「純三君の本、私も欲しいな」
そう言って隣に座る女性がいる。
そこに心温がいて、ほんのり赤い顔をしていた。それも可愛いなと純三は思いながら、
「ありがとう。だけど今日は一冊しか持ってきてないんだ。うちにはあるけど」
「じゃあ、送ってくれないかな。――どこかに紙ないかしら」心温は辺りを見て、これでいいわ、と言い箸
袋に郵便番号を書き始め、次に札幌市と書いた。それを見ていた純三は、
「いま北海道に住んでんのか、心温さん」
「ええ、うちの旦那の故郷が札幌なの。定年退職したので地元に戻って、私もついて行ったのよ」
「それでは、こっちまでなかなか来られないね」
翌日、純三は心温に本を送った。数日後、心温からお礼のラインが来た。そこには本のお礼と感想が書いてあった。そして純三が小説を書いているとは意外だった。一つのことを長く続けているのは素敵なことなので頑張って欲しい。応援している。と続けられていた。
純三は、感想のお礼と北海道には行ったことがないので、いつか行ってみたいとラインした。
しばらくして、北海道に来て下さい。奥さんも一緒にどうぞ。案内しますよ。と心温からのライン書き込みがあった。
純三は、それを繰り返し読みながら、ジョン・レノンの「スターティング・オーバー」を無意識に口笛で吹いている自分に気づいて、笑顔になった。
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