シーン9 報道
シーン9 報道
翌日の夕刊に是枝の記事が載った。
“大河原組・若頭、是枝晴彦さん水死
乗車する車が岸壁から海へと落下
事件、事故の両面から捜査“
各スポーツ紙等々、週刊誌諸々、Twitter、YouTubeが賑わう。
“大河原組、代行沈黙“
“赤松組と野中組の抗争の煽りか“
“5代目組長、未だ決まらず“
“新たなる抗争の火種か“
そんな中、高橋がかん子に紹介した記者の記事が載る週刊誌が発売された。
“大河原組、4代目代行の意思で5代目擁立“
“4代目代行の側近、遺書は無くと証言“
側近て誰の事だよ、全く。この手の記事に登場する関係者、元なんとか、側近、友人、ジャーナリストなんて者は存在しない。その殆どが相手に取材せず、裏ドリもなしに記者本人の妄想の丈が記してあるだけだ。そして際どい内容の記事を書くのは大概フリーランスの記者でいわば雇われだ。ヤバい状況になれば容易く首斬りでき、“持ち込みだったんで“と編集元は知らぬ存ぜぬを通せるからだ。そして記事は独走しだし、時が味方すれば興味津々のスキャンダルへと変貌する。公然とウィキペディアに書き込まれ、時代を経て真実と認識されるようになる。俺が取材を受けたと組内に信じる者はいないだろうが、聞こえが悪い。やっぱ、高橋は埋めさせてもらおうと染矢は思う。
人を辱めて私利私欲を肥やせば、因果応報の戒めるべきやに堕ちる。善行を積んで➕➖0にして輪廻転生しなければ負はついて来る。新たな人生に負は負を呼び込む。俺と妹の明子は前世でどんな罪深き悪行を犯したのだろう。母は、俺たちを産んだだけだった。俺たちは何も持っていなかった。俺は名を呼ばれた記憶すらない。明子の面倒を見るのは俺の役目で、幸運に恵まれて米櫃に米が残っていればどうやって知ったのか、炊いてマヨネーズをかけて食べた。それがご馳走だった。貴重な飯つぶをなるべく残しておきたくて、空腹を感じれば二人してマヨネーズを舐め、そのうちマヨネーズは無くなり、炊飯器の中で干からびた飯を茶碗についで水を注いでふやかして食べていた。そうやって俺たちは生き延びてた。誰も、明子と俺しかいない部屋で……、俺たちは生きていた。
俺たちは誰にも見えない透明人間の子供だったんだ。
なぜ、生まれたんだろう
どうして……、アイサレナカッタ?
なんで、明子だけ天国に行けたんだ?
俺はあの時、明子と死にたかった。