勇者の父になると言われました
溺愛している王太子
意識を失った最愛の妻をそっとベットに運ぶ。
「イリス………」
青ざめて痩せた顔。心労が酷く化粧の下には眠れていないのか隈もある。
「すまない。イリス……」
ショーンはイリスの手を握り謝罪する事しか出来なかった。
大丈夫だと言う言葉で手を出すのを躊躇っていたなんて言い訳だ。ここまで追い詰められていた妻を守れないで国を……民を守るなんてできるわけないだろうに。
「ありがとう。聖女ハルカ」
ハルカをイリスの傍に置くことで毒の中和は少しずつ行われていた。これでイリスの負担が軽くなるはずだ。
「いえ、確かに王太子妃さまの身体は大丈夫ですが、心の方と現状はまだ……」
聖女ハルカの言葉にそれは確かに言われるまで気づかなかった。
いつもそれに気付いてくれるのはイリスだった。そんなイリスに頼りきりで……。
「ああ。――任せろ」
これ以上野放しにするわけない。
すぐに部下に命じて、イリスに毒を盛っていた者たちを見つけ出すが、中途半端に手を出すとトカゲの尻尾きりになって元凶に逃げられるだろうと判断して内心一刻も早くとらえたいという想いで目の前にその毒を盛っていたモノが動いているのを見ていて不快感が沸き上がっているのを必死に耐え、一網打尽にするまで我慢している日々が辛かった。
そして、その間も。
「また、王太子妃さまに毒を盛っていました。すぐに交換しましたが」
聖女ハルカの言葉に奴らはこちらが気づいていないと思って堂々と動くのが腹が立った。
「殿下。どうしましたか……?」
いつの間にか目の前にイリスが現れる。ベットで休んでいたはずなのに。
今、イリスの体調を考えて公務を休ませている。それで陰口を叩く輩もいるが、そう言った輩の前で公務の隙間時間にイリスに会いに行くようにしてイリスとの仲はこじれていないように見せている。
イリスは公務に出られないことを申し訳なさそうにしているが陰口を聞くことない環境で少しずつ公務の時に見せる笑顔ではなく、あどけない私生活の時に見せる笑顔が戻っていた。
「険しい顔です。何か……」
こちらを案じているイリスの手がそっと眉間の皴をなぞるように触れる。
「なんでもないよ」
そっと触れたイリスの手を取り告げるが、すぐにそうやって遠慮していたからイリスも遠慮するようになったのかと思い至り。
「………国家反逆を行っている輩が居るのだけど、今動いたら下っ端を切り捨てて逃げられてしまいそうで、手を出せないのが腹立たしくてね」
「まあ、それは今は耐えるしかありませんね。――被害を最小限に抑えるしかできないのがもどかしいですね。確かに」
「ああ。しかも相手に悟られてはいけないので、こっちは騙されているふり、気付かないふりをしないといけないのでイリスを囮にしないといけないのが辛くて」
「………辛いですね。民を守りたいのに守れないのは」
イリスも悲しげに視線を下に向け、
「………………わたくしは本当に役に立たない妻ですね」
「イリス?」
「殿下が苦しんでおられるのに自分のことばかりで……」
ずっと公務を休んでいる状況下が許せないと自分を責めるイリスに向かって、
「仕方ない。それだけ敵は頭が回ると言うことだろう。――イリス。お前がすることは体調を早く治して奴らが動き出した時に実は治っていると言う状況で騙すことだけだ」
責任感のあるイリスなら自分の何も出来ない状況で勝手に自分を責めてしまう。それだと治るものも治らないと聖女ハルカに言われたので、イリスにきちんと役割を与える。
「はいっ!!」
すべきことを理解したイリスの笑顔は誇らしげで綺麗だった。
「いかんな……」
「殿下?」
「惚れ直した。手を出したいが、手を出したらイリスの体調を悪化させそうだ」
だから覚悟しておけと耳元で囁くとイリスは顔を赤らめて、
「…………………………………はい」
と小さく頷いた。
「殿下。ご公務も出来ない王太子妃では民も不安になります。なので聖女ハルカさまを側室に迎えては」
「いえっ!! 聖女ハルカさまはまだ未成年。繋ぎとして我が娘を!!」
一部の貴族たちがそんなことを言いながら自慢の娘を連れてくる。中には聖女ハルカを養女にしてもいいと言い出す輩も。
まあ、そうなるように仕向けたのだが。
「そのことだが……」
手を挙げて、合図をすると同時に動き出す部下たち。そして、兵士がその騒いでいた貴族を捕らえていく。
「でっ、殿下」
「愛する妻が毒を盛られていてね……。毒の出所を探っていたら貴方方に繋がっていたよ」
部下が大量の証拠を目の前に見せつける。
「――さて、申し開きはあるか?」
あっても聞かないが。
「っ!! 殿下にそんな娘が妃など相応しくない!! そう言われたんだっ!!」
「そっ、そうだ……」
自分たちはだから悪くないと言う態度で喚いている様を見て、
「その告げた者というのが……こいつのことか?」
神に仕える聖騎士で一番の腕を持つ者を教会に借りを作って貸してもらって捕らえた聖女の特製の鎖で拘束してあり、身動きはとれない。
「そ、そうですっ!! そいつが」
「ならばなお重罪だ。こいつは」
身体が溶けるようにその拘束された男は本来の姿である魔族のそれを見せつける。
「魔族をやすやすと懐に入れて、国家転覆。いや、世界を滅ぼすことに協力したのだからな。ああ、騙されたと言うのは聞かないぞ。魔族対策の守りは常にしてあるのを怠ったと言っているようなものだからな」
にっこりと笑うが、どうしてだろう怯えているようだ。もう用がないからと聖騎士に視線を送ると聖騎士はすぐに魔族を滅ぼしてくれる。
魔族を生かしておく理由などこいつらに見せつけるためだけだから。
「魔族が妻に毒を盛るように指示した時点で魔族にとって脅威な何かを持っているということだろうな。我が妻は」
妻の価値を教え込ませて、愚かな話をする者たちはこれで消え去るだろう。
「で……殿下……」
「ショーンでしょ。イリス」
「そう呼ばないとキス以上の事を皆の前でやろうか。と脅せば呼び方を改めると思いますよ!!」
聖女ハルカの言葉にそれは面白そうだと頷くとイリスが慌てたように、
「ショーンさまっ!!」
と呼び方を改める。それを残念に思いつつ、
「なに。イリス」
「あ、あの……わたくしは……離婚されるのでは……」
不安げに告げてくる様に本当に罪深いことをしたなとさっきの奴らの罪を増やしておこうと心に決めて、
「言っただろう。君と僕の関係を崩すことが魔族の目的だった。と」
だからそんな事言ったらお仕置きしないと。ああ、さっき聖女ハルカがいい事を教えてくれたし、それをお仕置きの内容に………。
「……そうなんですね。じゃあ、わたくしは勝手に嫉妬して。ショーン様を困らせていたんですね。すみませんでした」
そんな謝罪しなくてもいいのに謝罪して、よかったと笑う様に、
「イリス」
「きゃっ⁉」
イリスを横抱きに抱えて、
「生お姫様抱っこだ!! 眼福~♪」
と喜んでいる聖女ハルカに、
「イリスの体調は万全なんだな」
「大丈夫。毒の影響も消えているし」
その言葉に実は身体が弱っていたので無理をさせられなかった我慢を止めることにして、部下にすべて任せて、さっさと二人きりになったのだった。
そして、本当に毒の影響だったのだなと思われるぐらいに数か月後待ち望んだ子供が生まれるのを皮切りに、次々と子供が生まれた。
そして、その子供の誰かが勇者と言われていたが、今の段階では誰か分からない。だけど、神の加護で魔王を倒すまで不老不死の聖女ハルカの元にべったりとくっついている次男がおそらく……。
まあ、その時になるまで分からないでいよう。まだそんなことを知らないイリスのためにも魔族に狙われないためにも――。
実は、生まれた子供が勇者になる以外にも英雄の資質があって一緒に魔王を退治しに行く羽目になる。
そりゃ、生まれないように魔族が動くわけだ。