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救世主?






ハルの専属カメラマンであるももちゃんこと百瀬健太郎は、フルネームを縮めて「ももたろう」と呼ばれることをひどく嫌う。

「ももたろう」という言葉が嫌いなのではなくて、その名で呼ばれること・・・・・・・・・・が嫌いなのだ。

だから彼のことを「ももたろう」と呼ぶ人がいたら、それが例えどこぞの国のお偉い様であろうと殴りかかられることは間違いない。

そして、殴りかかられた相手は即病院送りになると思われる。






たったひとり、ハルを除いては。






「ほらほら、どうしたももたろう。お前のそのショッボい蹴りとパンチ、さっきから全然俺に当たってないぞ?」


「てめーだけはぜってぇぶっ殺すッッ!!」






いやいや、ももちゃん。

ハルをぶっ殺してしまったらお仕事無くなっちゃいますよ?






「俺をぶっ殺す?俺に一発も当てられないくせにそれは無理だと思うぜ?」


「うっせぇぞクソヤローがァ!!今に当ててやるから安心しろぉぉぉぉぉぉッッ!!」






その後も散々、聞くに堪えない罵り言葉を叫びながらものすごい威力の蹴りとパンチを繰り出すももちゃん。

彼が男で、しかも空手の有段者だってことはわかってるけど………無駄に愛らしい外見をしている分、一体どこからこんなに荒々しいパワーが溢れてくるのかとついつい疑問に思ってしまう。





「俺がお前みたいな女もどきに一発当てられる…ましてやぶっ殺されることなんて有り得ないな」


「誰が女もどきだあああああああああああッッ!!!」






男なのに女の恰好をしていると性同一性障害かと思う人もいるかもしれないが、可憐な外見とは裏腹にももちゃんの中身はれっきとした男の人だ。

恋愛だって女の人とするし(その場合はたから見たら確実にGLに見えるだろうけど)、公共のトイレや温泉だってちゃんと男の人の方に入る(ももちゃんが入った瞬間の中にいた人たちの驚きようはハンパないそうだけど)、と以前ももちゃん本人から聞いた。

「じゃあ何で女の人みたいに振舞ってるの?」と聞いたところ、清々しい笑顔で「だってその方が似合うんだもん」と言われた。

……確かに。






「二人とも、もうそこらへんで止めにしていい加減スタジオに入らないと…」


「おい、女もどき。威勢がいい割には相変わらず一発も当たってないけど?」


「いつまでたっても仕事終わらないんだけど…」


「黙れこの腐れ外道がッ!!」


「……あのー、俺の話聞いてる?」






二人に懸命に声をかけるなぎちゃん。

ああ、何て痛々しい姿なんだろう。

確実に無視されてるよ。






「腐れ外道?何それ。超、心外な言葉なんですけど」


「何が心外だ。お前のためにあるような言葉じゃねーかッ!!」


「はあ?ふざけんなよ、へなちょこ女もどき」


「お前こそふざけんなよ、エセモデル」


「エセじゃねぇし。本物だし」


「仕事放り出してるくせに本物?ハッ、笑わせんじゃねーよ」






なぎちゃんの懸命の声かけも虚しく、一向に終わりの見えない二人の闘い。

いい加減、うんざりしてきた。

だいたいハルに無理やりここに引っ張ってこられてから一体どれくらい時間がたったのだろう。

撮影所はもう目と鼻の先なのに。

いつまでここでグズグズしてなきゃいけないわけ?

あたしは今すぐにでも家に帰りたいっていうのに。

………ああ、段々マジで腹立ってきた。






「チビ」


「クソ」


「バカ」


「アホ」


「ドジ」


「まぬけ」






超低レベルな悪口の言い合いになってきたところで、あたしの中の何かがブチッ、と音を立てて切れた。

もしかしなくとも切れたのは堪忍袋の緒だろう。






「いい加減にしろこのド阿呆どもがああああああああああッッ!!!」






あたしの怒鳴り声にピタリと二人の動きが止まる。

驚いたように見開かれたももちゃんとハル、それから隣に居るなぎちゃんの視線があたしに注がれる。

さっきまで二人の罵り合いで騒がしかった辺りが急に静かになる。






「あたしはね、早く家に帰りたいんだよ」






ももちゃんとハルの傍に歩み寄り、二人を順々に睨みつける。

今まで我慢してきた鬱憤を込めて。






「一分一秒でも早く家に帰りたいわけよ。わかる?」






あたしの問いかけに、ももちゃんは引きつった笑顔を浮かべながら「わ、わかるわ」と答えた。

ハルは最初何も言わなかったけど、もう一度あたしがキツく睨むとものすごく小さな声で「…わかる」と答えた。






「だったらさっさと仕事しろ」






今できうる最高の笑顔でそう告げると、ももちゃんとハルは後ずさるようにしてやっとこさ撮影所に向かい始めた。

ほんと手間のかかる人達だよ、まったく。






「やっぱり冬美は俺にとって……いや、会社にとっても救世主だな」






撮影所に向かう二人を見つめながら、なぎちゃんが感心したように呟く。

彼の顔にも少なからず疲労の影が伺える。

なぎちゃん、あんな手間のかかる人達と一緒に仕事しなきゃいけないなんてあなたって人はほんと苦労人なんだね……。






「救世主って……なぎちゃん事あるごとにあたしのことそう言うけど、それってどういう意味?」


「そのまんまの意味だよ」






いやいや、救世主って言葉の意味は分るけどなんであたしがそう呼ばれるのかわかんないんだって。

時たま謎なこと言うんだよね、なぎちゃん。






「ほら、冬美。俺達も行こう?」






なぎちゃんに促されて私もももちゃんとハルの後を追うように撮影所に向かう。

やっとこさハルの仕事開始ってわけだ。





――――てか、やっと始まりって……。





ここまですごく時間がかかった。

なのにまだ家に帰れないないこの状況を絶望と言わずして何と言うのだろう?






――――もう、色々と限界なんですけど。






ああ、お家が恋しい………。
















ここまで来るのに何だか無駄に長引かせちゃった感がある気がしますが……何はともあれ次話からようやくハルのお仕事開始です。



冬美がこの話の中でぼやいていたもう限界、という言葉は作者の心境を表した言葉だったりじゃなかったり…(←え?)



と、まあこんなダメな作者のお話をお気に入り登録してくださっている方々には本当に感謝しきれないほど感謝しております。

ダメ作者なりに何とか頑張っておりますので、どうぞこれからも『非凡な君、平凡なあたし』をよろしくお願いします。






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