BLと詐欺なあの人
「なぎ兄、俺のこと嫌いなの?」
「そ、そんなことあるわけないだろっ!」
「じゃあ、好き?」
「え、だから、その、す、好きと言うか…」
ハルの「納豆みたいにネーバ(以下略)」が発動してからかれこれ数十分。
似たり寄ったりの押し問答が続けられるだけで、今だ進展の無いこの状況。
待たされているこっちの身にもなってほしいんですけどね、お二人さん。
「俺はさ、なぎ兄のこと好きだよ?」
「はっ、春斗!?」
てか、よくよく考えてみればハルとなぎちゃんの会話ってかなりきわどいよね。
ハルの「納豆みたいにネーバ(以下略)」を知らない人が聞いたらBLだと思っちゃうんじゃないの、これ?
「でもさ、なぎ兄は俺のこと好きって言ってくれないじゃん?それって……俺のこと嫌いってことなんじゃないの?」
「いやっ、だからそうじゃないってッ!」
ハルはもちろんのこと、なぎちゃんもなかなかの美形だからなー。
あたしってばBLものなんて読んだことないからどういうのがいいとかいまいちよくわからないけど、案外この二人だったらいい線いくんじゃないの?
この状況を撮影したらいい値で売れそうだもん。
「じゃあ、俺のこと好き?」
「だ、だから…」
なんか言い寄る方と言い寄られる方、どっちにも役名みたいな呼び名ががあったような気がするんだけど……何だっけ?
BL好きの友達に昔、力説されたんだけど興味なかったから記憶が曖昧なんだよね。
何か喉まで出かかってる言葉が出ないって感じ。
気持ち悪いったらありゃしない。
「そんなにうろたえないでよ、なぎ兄。まるで俺が責めてるみたいで、気分が悪くなる」
「お前が変なこと言うからだろっ!」
責めてるみたい…?
責める、セメル、せめる……攻める!
ああ、そうだ!
『攻め』だよ!
言い寄る方は確か『攻め』って言うんだ!
うおー、これでひとつ問題解決。
少しスッキリ。
だけど問題はもうひとつ残ってる。
言い寄られる方は何だったっけ?
「変なこと…?なぎ兄が俺のこと嫌ってないか確かめるのが変な事だって言うの?そんな風に思ってたんだ…」
「なっ、おい、どうしてそこでそんなへこむんだよ!俺はそういう嫌な意味で言ったんじゃ…ああ、もう!俺の言葉の意味、ちゃんと受け取ってくれよ!」
受け取ってくれよ?
……あー、思い出した!
言い寄られる方は『受け』だ!
そうそう、そうだよ!
これで問題はすべて解決。
超スッキリだな、こりゃ。
「なぎ兄の言葉、俺はちゃんと受け取ってるつもりだけど?」
「いや、絶対にちゃんと受け取ってないね!」
「なぎ兄こそ俺の言葉ちゃんと受け止めて、答えてよ」
「は?」
「だから、さっきから何度も聞いてんじゃん。俺のこと好き?って」
「な、何でまたその話に戻るんだよっ!」
うーん、性格的にはハルが『攻め』でなぎちゃんが『受け』って感じ?
ビジュアル的にもたぶんそうだろうなー。
若干とは言えハルの方が背が高いし。
なぎちゃんはどっちかって言うと可愛い系って感じだしね。
うんうん、これけっこう理想のカップルってやつなんじゃないの?
「戻ってないよ。さっきからこの話をしてる。なぎ兄が答えてくれなきゃいつまでも終わらせないから」
「お前、冗談言ってる場合じゃ―――――」
「こんなとこで何をしてるのかな~皆さん?」
なぎちゃんの言葉を遮るようにして聞こえてきた可愛らしい声に、脳内で『なぎちゃん×ハル』というBLものを出そうと本気で計画を立てていたあたしの意識が呼び戻される。
鈴を転がしたようなその愛らしい声が聴こえてきた方を見ると、なぎちゃんとハルの間に今までいなかった人物が立っていた。
「あ、ももちゃん。お久しぶり」
「『あ、ももちゃん。お久しぶり』じゃないわよ冬美!春斗を連れてきたんならさっさとスタジオの中に入ってきなさいよ!」
いつの間にやらなぎちゃんとハルの間に立ち、会って早々可愛らしい声で文句を言ってきたのは、ハルの専属カメラマンであるももちゃんだった。
いつも若干潤み気味の大きな瞳とぷっくりとした桃色の唇が特徴的な、どう見ても十代…下手すりゃあたしより年下にしか見えないももちゃんは今年なんと三十路らしい。
腰まで伸びたふわふわのミルクティー色の髪もシミひとつ見当たらない真っ白な肌も艶やかに輝いていて、何処にも三十路という年齢の片鱗も見当たらないというのに。
会う度に詐欺だと思うのは、仕方がないと思う。
「入ろうとしたけどハルのあのめんどくさい癖が発動しちゃったんだもん」
「またあ?」
「うん。しかも今回のターゲットはなぎちゃんでさ、終わりが見えなかった」
「渚がターゲット…。そりゃ、終わりが見えないわ。なんたってかなりの純情ボーイだもんね。でもそれだったらあんたが止めれば良かったじゃないの」
「ヤダよっ!巻き込まれたくないもん」
「巻き込まれる前に引きずってスタジオにぶち込めばいいじゃない」
「いや、あたしももちゃんほどエネルギッシュじゃないから」
「相変わらずひ弱ね~。そんなんじゃ世の中渡っていけないわよ……って、ちょっと待ちなさいそこの二人」
こそこそとこの場から逃げようとしていたなぎちゃんとハルを、ももちゃんが笑顔で呼びとめる。
愛らしい顔いっぱいに広がったその笑顔はとっても可愛いのだけど、ものすごく迫力がある。
何故だか般若の顔を思い出してしまうほどに。
「あんた達、仕事があるってこと忘れてないわよね?」
ももちゃんの言葉になぎちゃんは引きつったような笑みを浮かべ、ハルはそっぽを向いている。
なぎちゃんが怒ってた時も思ったけど、ほんと反省の欠片もないよね、ハル。
いっそすがすがしいほどだよ。
「いや、あの、そのですね……」
「何よ。言いたいことあるならはっきりと意味の通る文章にしなさい、渚」
「…相変わらず耳に響く声だな。キャンキャン叫んで、犬みたい」
「ばっ、お前なんてこと言ってんだよ春斗ッ!!」
現在、笑顔のももちゃんの背後から不穏な空気が駄々漏れ状態になっております。
これは普通に考えて相当まずい。
だって考えてもみてくださいよ?
いつもは聞き流せるような嫌味だって、機嫌が悪い時に聞いたら相当頭にくるもんですよね?
しかもその嫌味を吐いた奴が機嫌を悪くさせている諸悪の根源だとしたら怒りはさらに倍増するってのが相場ってもんじゃないですかね?
「…春斗、今なんて言った?」
「相変わらず耳に響く声だな。キャンキャン叫んで、犬みたい」
淀みなく繰り返された嫌味。
挑発するかのように形の良い唇は綺麗に弧を描いて、笑みを浮かべている。
ああ、ほんとこの男はどうしようもないヤツだよ。
人を振り回すのが大好きなんだから。
「誰のせいでキャンキャン叫んでんだと思ってんだこのクソ餓鬼ィィィィィッッ!!!」
さっきまで愛らしかった声が一変して低い地響きのような低音ボイスが炸裂する。
殺気と共にものすごい勢いの蹴りがハルめがけて繰り出される。
普通の人なら避けることはできないだろう。
けど、ハルは普通じゃない。
色んな意味でアイツは非凡なのだ。
ひょい、とももちゃんの蹴りをかわしニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
「はっ、ショッボい蹴り。そんなんじゃ俺には当たらないぜ、ももたろうくん?」
「てめぇ、その名前で呼ぶなっつってんだろッ!!!」
「ももちゃん、ちょっと落ち着いて…」
私の呼びかけも虚しく、ももちゃんはハルに次々と蹴りやらパンチやらを繰り出している。
アレを喰らったらたぶん病院送りになるだろう。
なんたってももちゃんは空手の有段者だ。
有段者は一般人に本気で手を出しちゃいけないって言うけど……そんなこと今の状態のももちゃんに言っても無駄だろう。
ヘラヘラ笑いながらかわしてるとこを見るとハルは病院送りになんてならないだろうし、この二人の喧嘩はいつものことなのでほっとくにかぎる。
いっそ一回マジで病院送りにでもなった方がハルも反省するんじゃなかろうか、何て気持ちが沸かないでもないけど。
「あーあ、健太郎モードになっちゃったら暫く止まらないよね、あれ」
「そうだな…」
取り残された私となぎちゃんは黙って二人の喧嘩(というかももちゃんの一方的な攻撃)を見つめる。
そうすることしか私たちにはできないのだ。
あの中に飛び込んでいくなんて、死にに行くようなものだ。
「にしても、いつ見ても健太郎はすごいね」
「ものすごい変わりようだもんな」
美人(いや、外見的に美少女?)なももちゃんの本名は百瀬健太郎。
女のあたしより可愛い顔をして、女のあたしよりスラリと細い体をしていて、女のあたしより愛らしい声を出せるけれど。
それでも、ももちゃんは立派な男の人なのである。
「ほんと、詐欺だわ…」
ねえ、ももちゃん。
あなたが本気でぶちのめそうとしている相手がモデルだってこと、ちゃんとわかってますか?
万が一にでも病院送りにでもしたらよけいに仕事が遅れてしまうんですけど…。
「うらあああああああああああッ!!死ねッ春斗ォォッ!!」
あー、ほんといつになったらあたしは家に帰れるんでしょうか?
だいぶお久しぶりの更新です。
お気に入り登録をしてくださっている方々、長々とお待たせしてすいませんでした(>_<)
次はもっと早く更新できるように頑張ります。
今回はまた新たな登場人物が出てきましたが……何だかストーリーが全然進んでないですね(ーー;)
更新が遅いうえにストーリー進行も遅いなんて…本当にダメ作者ですねorz
ほんとにすいません。
ちなみに今回BLのネタが入ってましたが、作者はBLについて詳しく知らないので全部聞きかじりの情報です。(といってもそんなに書いてませんが)
何か間違っていることがあったらごめんなさい。
お気に入り登録をしてくださっている方々、本当にありがとうございます。
評価や感想などもいただけるととても嬉しいです!