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特別SS③ アイヒベルク公爵誘拐!?事件

 春の陽気もそろそろ終わりを迎え、暑さも本格化する頃──。

 アイヒベルク邸のある日の朝は騒がしいラウラの声で始まった。


「シャルロッテ様ーーーーー!!!!!!!!」


 あまりに大きく、そして深刻な声色にシャルロッテもぱちりと目が覚めた。

 シャルロッテはすぐさまベッドから起き上がり、羽織を着てラウラを迎え入れた。


「どうしたの? ラウラ」

「シャルロッテ様、今朝方、庭の掃除をしていたらこんなものが……」


 ラウラから手渡されたメッセージカードを受け取ると、シャルロッテは内容を確認する。



『アイヒベルク公爵夫人へ


 あなたの旦那様は、私がいただきました

 もうあなたの元へ戻ることはないでしょう


             エルヴィンを愛する者より』



 メッセージを見たシャルロッテは事態の深刻さを理解し、一気に険しい表情へと変化させた。


「シャルロッテ様、エルヴィン様が……」


 「どこぞの女と浮気をしている」と続けようとしたラウラの言葉は、シャルロッテによって遮られた。


「ええ、これは緊急事態です。エルヴィン様が誘拐されてしまいました」

「……へ?」


 シャルロッテはクローゼットの中にある手頃なドレスにすぐに着替えると、髪をささっと結い上げる。

 そうしてあまり高さのない低い靴に履き替えると、ラウラに声をかけながら急ぎ足で玄関へと向かう。


「ラウラ、私はクリストフ様に相談しに行ってまいります。屋敷の留守は任せました!」

「え、え?」


 ラウラの返事も聞かずにシャルロッテは馬車に乗り込むと、王宮へと急いだ。


「シャルロッテ様!? これどうみても浮気の……」


 そんなラウラの引き留めの言葉は、シャルロッテにはもう届いていなかった。



 馬車の中ではシャルロッテの呟き声が響いている。


「エルヴィンさま、ご無事でいてください。今、助けに伺いますから」


 目をつぶって夫の無事を祈りながら、シャルロッテは王宮へと向かった──。




「クリストフ様っ!!!」


 王宮に着くなりまっすぐにクリストフの執務室へと向かったシャルロッテは、ノックをして部屋を開けた。


「シャルロッテ嬢!? 今、明らかにノックから扉を開ける速さが尋常じゃなかったよね!? え? 俺まだ返事してなかったけど……」


 そんなクリストフの言葉も聞き流しながら、さっとカーテシーで挨拶をした。


「申し訳ありません、急ぎのことでして。実はこんなカードがうちに届い……て……」


 シャルロッテが言葉を詰まらせたのにはわけがあった。

 なんとクリストフの隣に誘拐された(と思い込んでいる)エルヴィンの姿があったからだ。


「エルヴィン……さ、ま……?」

「おや、どうしたんだい、シャルロッテ」

「あ、あの……あなたはおばけですか?」


 唐突におばけ呼ばわりされたエルヴィンは思わず目を丸くする。


「なぜ、私がおばけなんだい?」

「え……その、エルヴィンさまが誘拐されたと……」

「誘拐?」

「はい。こちらのメッセージカードがうちに届きまして……」


 そう言いながらシャルロッテはエルヴィンにカードを見せた。

 そのカードを見た瞬間、彼の目はすっと細められる。

 二人のやり取りを聞いてまずいと思ったクリストフは、そっと足音を立てないようにエルヴィンの横から離れようとする……が、それは叶わなかった。

 クリストフの襟元をエルヴィンが掴んで言った。


「ほお、『私がいただきました』ね」

「え、エル……」


 従兄弟であり幼馴染でもあるエルヴィンの低い声色を聞き、クリストフは顔をひきつらせた。

 そうしてこの後自分がどんな目に合うのか想像しながら、クリストフは目を閉じた──。



 シャルロッテを少しからかってやろうと思いついたクリストフが、昨夜遅くにアイヒベルク邸の庭にメッセージカードを置いたのだ。

 てっきりラウラのようにエルヴィンの浮気を疑って、痴話喧嘩でも始めるのではないかと思っていた彼だったがあてが外れた。

 彼の敗因はシャルロッテの「純真さ」と「天然さ」を忘れていたことである。


 こうしてもう少しで公爵誘拐事件に発展しそうだったこの出来事で、クリストフはこってりとエルヴィンにお仕置きされた──。


SSのリクエストをいただきましたので、書かせていただきました!

誘拐と勘違いしてしまう可愛らしいシャルロッテと、自業自得でエルヴィンにこってりしぼられるクリストフのお話でした(笑)


好評だった短編の連載版も始めたのでよかったらそちらものぞいてみてくださると嬉しいです!

『子猫令嬢は婚約破棄されて、獅子となる』

https://ncode.syosetu.com/n9604iz/

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