表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/31

第2話 初めまして公爵様

 シャルロッテは妹に連れられ、自我が目覚めてからは初めてヴェーデル伯爵邸の本邸に足を踏み入れた。

 豪華なシャンデリアに真っ白い壁、絵画や骨董品の美術品の数々が廊下を彩る。


「お父様、お母様、入りますわよ」

「ああ」


 エミーリアはドアをノックしてヴェーデル伯爵と夫人がいる執務室へと入る。


(すごい豪華なお部屋……)


 シャルロッテは自分の住む世界と全く違う明るい世界に、そわそわとして落ち着かなかった。


「お父様、お母様! シャルロッテを連れてきましたわよ」

「ご苦労だったな」


 ヴェーデル伯爵は手紙を書いていた手を止めて、エミーリアのほうを見つめて言う。


「まあ、相変わらず汚い身なりだこと」


 夫人は手で顔を覆い、上半身を後ろに引いて、汚物を見るような目でシャルロッテに視線を送る。



「ヴェーデル伯爵、伯爵夫人。はじめまして、シャルロッテと申します」


 シャルロッテは、昔に家庭教師から教わったカーテシーをするが、うろ覚えの彼女はうまくできない。


「まあ、この子まともな挨拶もできやしないのね」


 ふん、というように夫人が蔑んだ目でシャルロッテを見る。

 そして、時間が惜しいとでもいうように「用件だけ伝える」とヴェーデル伯爵はシャルロッテに告げる。


「エルヴィン・アイヒベルク公爵からお前に婚約の話が来ておる。行ってくれるな?」

「それはもちろんですが、私が公爵様に嫁ぐなど……そのような大変ありがたいお話よろしいのでしょうか?」

「ああ、なんたって今日はお前の18歳の誕生日だからな。親としてできる限りの最後のプレゼントをしないと」


 ヴェーデル伯爵は「最後の」という部分を強調して言った。


「で、もう馬車の準備はしてある。まあ、ありがたいことに公爵様は何も持参せず身一つでいいと言ってくださっている。だからそのまま出ていいぞ」

「……かしこまりました」

「じゃあね~、お・ね・え・ちゃ・ん♪」


 エミーリアは手をひらひらとさせながら、楽しそうにシャルロッテに向かって手を振る。

 「ではもう出ていけ」と言うヴェーデル伯爵の言葉を聞き、シャルロッテはメイドに連れられて玄関へと向かった。




 シャルロッテのいなくなった執務室では、家族がけたけたと笑っていた。


「やりましたわね! お父様、お母様!!」

「ああ、ようやくあの忌々しいやつをこの家から追い出せたぞ」

「それにしても嫁ぎ先のお方のことを何も教えないなんて、ずいぶん可哀そうなことをするわね~」

「エミーリアも思ったわ! だって、嫁ぎ先ってあの『冷血公爵』なんでしょ?! 何されるかわかんなくて、エミーリアこわ~い」


 エミーリアが母親の腕に掴まって、わざとらしく大げさなリアクションをする。


「まあ、これでうちは安泰だ! アハハハ!!!」


 廊下に聞こえるほど家族の大きな笑い声が響き渡っていた──




 シャルロッテはメイドに促され、玄関につけていた馬車に乗り込む。

 彼女が乗ったことを確認すると、メイドは乱暴に閉めて御者に合図をした。


「うわっ!」


 馬車が動き出したと同時にシャルロッテは体勢を崩し、窓に頭をぶつける。

 ぶつけた箇所をさすりながら、ようやく席に着いた。


「これが馬車というものなのね、気をつけないと危ないわ」


 こうして、馬車はまっすぐにアイヒベルク公爵家へと向かった。




◇◆◇




 シャルロッテを乗せた馬車は夕方頃にアイヒベルク公爵家に着いた。


「馬車が止まったわ、着いたのかしら」


 窓の外を眺めようとしたところでドアが開く。


「うわっ!」


 またしても体勢を崩して今度は馬車から落っこちそうになるシャルロッテ。

 なんとか踏みとどまり、御者に促されて慌ただしく馬車の階段を下りる。


「ようこそお越しくださいました」


 身なりの整った執事が丁寧な所作でシャルロッテを迎える。


「こ、こんばんは……」


 咄嗟にカーテシーでお辞儀をすると、執事も手を胸の前に当てて笑顔でお辞儀をする。


「さあ。馬車での旅はお疲れでしょう。旦那様がお待ちです。こちらへどうぞ」

「ええ、ありがとうございます」



 シャルロッテは執事に案内されるがまま、周りをきょろきょろしながらアイヒベルク邸の中を進む。

 白を基調としたシンプルな長い廊下の奥に、両開きの豪華な扉が見えてくる。

 執事は扉を開けて中にいる人物にお辞儀をする。


「お連れしました、旦那様」


 本棚が高くそびえたつ前には、年季の入ったブラウンの執務机がある。

 執務机には艶やかな黒髪に、身なりの整った姿をした20代くらいの男性が座っていた。

 その男性は椅子から立ち上がると、ゆっくりとシャルロッテのほうに近づく。


(とても背が高いお方……)


 そして、シャルロッテのもとに到着すると黒髪の男性はシャルロッテの目を見て告げる。


「いらっしゃい、シャルロッテ。私はエルヴィン。今日からここが君の家だ」


 エルヴィンはダンスを誘うように優雅に手を差し伸べると、わずかに微笑んで言う。

 差し出された手をとっていいのかわからず、あたふたとするシャルロッテ。


(困りました……これは手をおけばよいのでしょうか)


 悩んだ末にシャルロッテはカーテシーでたどたどしく挨拶をする。

 その様子をとても愛おしそうに見つめると、エルヴィンは優しい声色で言葉を紡ぐ。


「ありがとう、シャルロッテ。18歳のお誕生日おめでとう。それから、私の妻になってくれますか?」



 シャルロッテは18歳の誕生日の夜、一人の男性の妻となった──

気に入っていただけたら、ブックマーク(ブクマ)をしていただけると励みになります。

評価☆☆☆☆☆など、いつも応援ありがとうございます。

評価などは完結の時に・・・など、ご自身のタイミングで大丈夫です!


また、他にもいくつか作品を書いているので、

お気に入り登録をしていただけると便利かと思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ