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~7 10年の月日が流れた~

 リゼックというのはブランド名で、人気の宝石ブランドだそうだ。そこで一番有名な宝飾品は指輪。主に婚約・結婚の際はリゼックで買いたいよね~と女性が名を上げる筆頭のブランドだとの事。

 そこに結婚指輪を婚約者とではなく、会社の同僚と買いに来ていることにエリックは頭を抱えた。当然店内に店員以外もいて、好機の目線が痛すぎる。

 だがユリナは全く意に介さず指輪を選んでいる。



「エリックはこうしたいとかあるの~?」


「お前に言いたくない」


「まぁそれもそっか。じゃあこの指輪でお願いします」



 あっさりと高価な結婚指輪を購入してくれるユリナに文句を言いたいが、これも何かの仕事の一環らしいので大人しく黙る。

 目的が分からないまま行動だけ言われたとおりにする事は苦痛だ、と思い知る。特に下手したら、リサに嫌われても文句も言えない。



「だめよぉ。顔は笑顔で」



 顔に出ていたのか、耳元でユリナに囁かれて飛びのく。

 その様子が微笑ましかったのか、周囲の夫人達の、ほほほ、と伸びやかな笑い声が聞こえるのがまた居心地を悪くさせる。



「かっわいい反応」


「お前っ……」



 ユリナにリゼックの紙袋を押し付けられる。そして小声で囁かれる。



「今日は、恋人のフリをきちんとして」



 任務だと言い聞かせ、エリックは頷く。

 何せリサを結婚後も騎士職でいられるようにする、という前払いを受け取った仕事なのだから、はい、以外の答えがない。

 リゼックで結婚指輪の代金を支払わされた後、ひたすらユリナの言うがままに市街地を一緒に練り歩いた。目的は言うつもりがないらしく、ひたすら恋人のような会話を強要してくる言葉だけだけされて、それに最低限のはい、うん、という肯定で返事を返す。

 ユリナにはそれでも良いらしく、夕方ごろになり、ふと一か所を見て、ニヤリと笑う。ユリナの視線の先を見れば、そこにはリサがいた。一番この光景を見られたくない人物だ。



「仕事よ。声、かけてね。内容はあたしがアシストするから」


「どうしてもか」


「任務の一部よ」



 天を仰ぎたくなったが任務だと言われればエリックは弱く、大人しく従うことにした。

 リサに向いて歩き、声をかける。本当に久しぶりに見たリサは、スラっとしていて且つ綺麗だった。リサなのは間違いがないのに、リサなのか疑いたくなる女性っぽさが感じられたのだ。



「……リサ?」


「こんばんは」



 返事はそっけなく、思わず悲しくなったが、何やら隣で慌てているかのような演技をしているユリナを見て、理由を察した。婚約者が別の女性を連れていて気分がいい訳はない。

 だが内容をアシストするとユリナが言った限り、ここでエリックがいきなり否定も出来ず、ユリナの動向を見るしか出来なかった。



「大丈夫? 震えてるわ。もう夜も更けてきて寒さも増してきたもの。暖かくしたほうがいいわ」



 リサは隣にいるユリナが何を企んでいるかも知らずにただの女性として見ているので、騎士職らしく気遣い、挙句にリサが自分が着ているショールを脱いでユリナに被せたのだ。

 婚約者が他の女性といるのだからエリックを責めてもいいのに、リサは女性の方を気遣い、少なからず少しショックを受けてしまう。そんな立場にないのにだ。



「あ、ありがとうございます」



 ユリナは可愛げな声で礼を言うが、寒ければ寒いとはっきりと物事を口にするタイプで、どちらかといえばリサの方が寒そうな格好に見えて仕方がなかった。



「そんなことしたらお前が寒いだろ」


「あら? 私はそんな柔な鍛え方してないわ。それより震えている女性を気遣えない男はダメね。何処かお茶の飲めるお店に入って温めてあげなさいな」



 騎士職として女性を気遣うのは当然なのかもしれないが、エリックはユリナを見放しても、リサを抱きしめたくて仕方がなかった。

 ふいにユリナに選ばれたとは言い、購入した結婚指輪の入っているリゼックの紙袋を持つ手に力が入る。



「あの、リサ様! 私はエリック様とは同僚なだけで、その、あの!」


「分かってますので大丈夫ですよ」



 分かってないだろ、と突っ込みたくなった。だが後ろからユリナに小突かれ、リサに見えぬよう紙を見せられる。そこには最近治安が悪いこととだけ書かれていて、エリックが見たと分かったのかすぐさまユリナは紙を引っこめる。

 こういうと事をされるとこれが任務の一つだと思い起こされるから嫌になるところだ。



「エリック様、ほら、こんな寒空。女性にはきついですわ。早く案内してあげてくださいませ。私は用がありますので、こちらで失礼しますね」



 任務も何も知らないリサはエリックとユリナに遠慮してなのか一礼して去ろうとするので、思わずエリックはリサの腕を引いた。もう反射的な行動だった。



「最近治安が良くないと聞いている。お前こそこんな時間に用とは何だ」



 本来ならば婚約者以外の女性を連れているエリックにこんな事を言う資格はないのかもしれないが、任務に私情も込めて言葉を発した。

 案の定、リサは顔を訝しめた。当然だろうと思う。



「ん? だから見回ってるんだけど。中々尻尾捕まらなくてさ。だから早くお嬢さん連れて行ってあげなさいな」


「こんな時間まで勤務時間か?」


「違うわよ。まぁ夜勤はあるから、今日は違う、が正しいけど」


「勤務時間外に見回りが用という事か?」


「そう。だってさぁ、正直被害者増えるばっかりなんだよね。いい加減決着つけないと騎士団の沽券にも関わるわ」


「じゃあ、お前も危ないじゃないか!」


「騎士に何言ってんの?」



 口喧嘩がしたい訳ではないが、話を聞く限り治安が悪いのは本当のようなので、少しヒートアップしてしまう。



「治安が良くないのが分かっていながら夜に女性を連れまわす男性のほうが感心しないわよ。早く送って差し上げなさい」



 リサの目線はユリナに移り、ユリナはウルウルとした気持ち悪い目線を送ってくる。

 本当はリサを寮に送り届けたくて仕方がないが、ユリナにすまなかった、と声をかけた。そうせざる負えない目線を感じとったのだ。

 そうすれば、リサは再度騎士として礼をし、危険ですので一緒にいてあげてくださいね、と言ってその場を一目散に去っていく。

 婚約者が薄着で、治安が悪い繁華街を歩くのを見送るのは、正直あり得ないとエリックでも分かる。隣でニヤニヤしているユリナを睨みつけたくなるほどだ。



「上出来。任務として終了でいいよ~」



 ユリナはショールを脱いで、エリックに手渡してくる。



「結局何だったんだ」


「知らなくていいことって言ったでしょ。リサ・ローランドの安全は守るから安心して。残党狩りも、もう終わるし」


「囮に使ったってっことか!」


「怒んないでよ。囮はあたしだし。ローランド家とリウェン家が破局かもって知れて、大きく動くところをスパッとやるから。エリックにも分かんないよ」


「リサは自分を囮にしてって言っていたが?」


「あぁ。婦女暴行事件がこの辺で最近勃発してるの。もちろん、これも任務に関係していて、裏でスパッと今日で片付け終えるわ」



 ぐーっと背伸びするユリナはにっこりと笑う。



「大丈夫。貴方のお姫様に近づけもしないわ」


「不思議だな。正体を知りもしないが、信じられるんだからな」


「でしょお。そこんとこは信頼関係でやってるんで安心して! 後はプロポーズ、頑張ってね」



 ショールとリゼックの紙袋を指さされ、また天を仰ぎたくなった。

 一番の仕事が残っているのだ。



「あたしは犯人をやってくるんで、エリックはプロポーズして成功させるのよ~」



 じゃねー、とユリナは元気に一人で繁華街へと走っていった。

 人がまばらにも関わらず、すぐに見失うのだから、ユリナには驚かされるばかりだ。


 だがエリックが追うのはユリナではない。

 騎士団の寮にリサは住んでいるので、足を騎士団の寮へと向けて、歩んだ。


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