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閑話 とあるお菓子職人視点

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

週間完結ランキング69位にランクイン記念として閑話あげさせて頂きます。

本当にありがとうございます。



私はハインツェルのお館様に仕えている大菓子職人のハンネと申します。


お城の料理人といえば食事を作るのがメインで、お菓子職人は基本的に厨房の端の一角で仕事しています。料理といえばやはりメインディッシュ、肉料理とか魚料理とかがメインになります。料理長がそれに心血注いでいますが、お菓子なんて、そのついでみたいなものです。特にハインツェルは武の名門。皆、下手したら食べ物は食べられたら良いという感じで、味には煩くはありません。特に甘いものはもう一つという方が多く、今までは本当についでという感じでした。


まあ、それだから、私みたいな若い者が任されることが可能だったんですが。



そんな厨房の端で、周りのコックたちに見下されながらも私は必死にデザートを作っていました。まあでも3分の一くらいが残されて返ってくるのですが。

昔は半分以上が残されていたから良くなったほうだと思います。



その時も必死に新作のケーキ作りに挑戦していました。


お館様の上の姫様が人参が嫌いだと言われるので、その食べず嫌いを治すために、人参のケーキを作っていました。


「その美味しそうなのは何?」

そんな時後ろから可愛い声が聞こえたんです。


どこかの侍女の子供なのでしょうか。そこには可愛らしい女の子が立っていました。でも何か、ちょっと衣服が汚れているんですが。


「これはケーキよ」

私が答えると、


「へえええ、でも、何で人参をおろしているの?」

「何でもお館様のお嬢様が人参が嫌いなそうで、ケーキの中に入れたら食べてもらえるかと思って」

「そうなんだ」

女の子はちょこまかとこちらによってきました。



そして、じーっと私が作るのを見ています。


「おい、エル。こんなところで何しているんだよ」

そこに今度はもう少し大きい男の子がやってきました。


この子もなんか煤で汚れています。どこかでかくれんぼうか何かしていたんでしょうか。あんまりそんな格好で厨房をウロウロしてほしくはないんですけど。



ただ、私はめったに褒められることがありませんので、厨房に人がいない休憩時間なので大目に見ることにしました。



「この人がケーキ、作っているの見ているの」

「えっ、お前本当に食いしん坊だな」

「だって、最近デザートとても美味しいじゃない。この人が作ってくれていると思うんだよね」

私はその子の話す声を聞いて、なんか変だなと思いました。私が作っているケーキは使用人の家族にまで回っているんでしょうか?

まあ、せっかく出来たんだから試食してみないと。私は先に焼き上がったキャロットケーキを食べてみました。


クリームチーズを乗せた、私の自信作です。


「うーん、美味しい」

私は喜んで言いました。甘さ控えめですが、本当に美味しいんです。


女の子が期待に満ちた目でこちらを見てきました。


「食べてみる?」


私は女の子に一切れケーキを切ってその口元に持っていきました。



女の子が喜んでパクリと食べてくれました。


「あれ、思ったほど甘くないんだ。でもこれ美味しい」

女の子が満面の笑みを浮かべて言ってくれました。その笑顔がとてもきれいでした。



「本当だ。これなら食べられるや」

一口食べさせた男の子も笑って言ってくれました。


「これなら、お姉様も食べると思うよ」

「お姉様?」

なんか女の子がとんでもないことを言った気がするんですけど。



「おい!、ハイネ、何でこんな薄汚れたガキを厨房に入れたんだ」

やってしまいました。休憩時間が終わったみたいで、料理長に見つかってしまったのです。



「す、すいません」

私が慌てて言うと、



「料理長、ゴメンなさい。勝手に入ってきて」

「げっ、姫様。こちらこそ申し訳ありません」

慌てて料理長が頭を下げました。


私は呆然としました。このかわいい女の子がお館様の姫様だったのだと知りました。毒見もせずにお菓子を味見させてしまいましたし、これが知れるとまずいかもしれないと、私はタラーーリと冷や汗をかきました。



「エルヴィーナ。あなたそんな格好でこんなところに逃げていたのね」

後ろから大声が聞こえました。振り向くと立派な衣装を身にまとわれた奥様が立っておられました。


「やばい。見つかった」

男の子と姫様は慌てて逃げようとして奥様に捕まっています。


何でもお館様の大事に強いる鎧をちゃんばらごっこをして壊してしまったんだとか。



べそをかきながら奥様に手を引かれていく姫様は何故か私に手を振ってくれていました。この姫様との出会いが私が更に一生懸命お菓子作りに精を出すきっかけになったのです。



姫様はそれからも何度も厨房に足を運んで頂いて私のお菓子の味見をして頂きました。


時にこの時の男の子と一緒に。


男の子は本当に姫様の面倒をよく見ていて、傍から見ていると微笑ましいものがありました。


でも、一時期から男の子がいなくなってどうしたのかと周りにそれとなく聞くと、実は姫様は王太子と婚約しており、それを知って男の子がショックのあまり帝国に帰ったのだと知りました。


私としてはとても残念でした。


厨房にいる時の二人の仲の良さに、てっきり将来的に一緒になられると思っていたからです。





でも、紆余曲折あって、ふたりはやっとご婚約されたみたいです。私は我が事のように喜びました。お二人の婚約前にフェルナンデス様から頼まれて、何度かお菓子も作らせて頂きました。それがお二人の仲を深める一助になっていたと信じています。




今、私はお二人のためにお花見団子と桜餅を作り上げました。


「ごめんね。朝早くから」

「いえ、滅相もございません」

わざわざ厨房まで取りに来られた姫様に私は作ったお菓子を袋詰してお渡ししました。


「姫様。今までありがとうございました」

私はオーバードルフ辺境伯に本日中に立たれる姫様にお別れを言いました。



「えっ、落ち着いたらあなたを呼ぶつもりなんだけど、ウンガーに言ったら大丈夫だって言ってたけど、聞いていないの?」

姫様が不思議そうに言われた。


「えっ、本当ですか。ウンガー様はよく味見に来られますが、そう言った事は何も」

私は不思議そうに答えました。確かにオーバードルフの領都に言ってみたいかみたいなことは昔聞かれた記憶がありますけど、後、つきあっている人はいるのかとか、身寄りはいるのか等も聞かれましたけど、オーバードルフで姫様にそのままお仕え出来るとは聞いていないのですが。



そう言ったことを簡単にお答えすると


「あのボケナス、人のことは棚に上げて」

姫様が一人でぷりぷり怒っておられます。


「まあ、そう言うことだから、よろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

私は急に前が見開かれたように感じました。

何も言われないので、姫様に同行できないと思っていたのです。




「エル。ここにいたのか」

そこにはお忍びの格好をしたフェルナンデス様が立っていらっしゃいました。



「じゃあ、ハイネ、またね」

私に手を振るとお二人は笑い合われて、手を繋いで歩き出されました。


本当にこのお二人は仲睦まじいです。


なんか昔のあの可愛かった子供達がここまで立派に大きくなられたのか、と私は感慨深く見守らせて頂きました。


このお二人の結婚式のデコレーションケーキも絶対に私が作らせてもらおうとこの時に決意したのです。





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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
私の

次回作品

の小説はこちら

『悪役令嬢に転生してしまいましたが、前世で出来なかった学園生活を満喫することに忙しいので何もしません』

https://ncode.syosetu.com/n3651hp/

「えっ、ゲームの世界の悪役令嬢に生まれ変わった?」
頭をぶつけた拍子に前世の記憶が戻ってきたフラン、
でも、ケームの中身をほとんど覚えていない!
公爵令嬢で第一王子の婚約者であるフランはゲームの中で聖女を虐めて、サマーパーティーで王子から婚約破棄されるらしい。
しかし、フランはそもそも前世は病弱で、学校にはほとんど通えていなかったので、女たらしの王子の事は諦めて青春を思いっきりエンジョイすることにしたのだった。

しかし、その途端に態度を180度変えて迫ってくる第一王子をうざいと思うフラン。
王子にまとわりつく聖女、
更にもともとアプローチしているが全く無視されている第二王子とシスコンの弟が絡んできて・・・・。
ハッピーエンド目指して書いていくので読んで頂けると幸いです。
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