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僕は異世界で元気です。  作者: 七色雨
使用人編
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第8話

 あの後、アオイと一緒に家中の使えそうなものを探し、使えそうなものを自室に集めた。これで冒険者の道具を再現出来る。だが自分の部屋には鍵がない、主人側の人間に見られたらマズイので、アオイが扉にもたれかかり開かないようにする。これで自分たち以外はここに入る事は出来ない。物音を出さないよう注意しながら、短時間で完成させる。


 小麦粉で作った手榴弾やカイロを分解して炭と混ぜた閃光弾、主人のビール瓶を使った火炎瓶。

 屋敷にあるものだけで作ったにしては、かなりの再現度じゃないだろうか。得意げに鼻の下をこすった。扉の方を見ると、アオイも嬉しそうに仁王立ちしている。床に並ぶ道具は輝いているようにさえ見える。これぐらい作れば時間稼ぎにはかなり役立つだろう。


 床の作品たちをカバンの中に入れながら考える。閃光弾は威力には期待出来そうにない。初見殺しでしかないし、自分の足では距離も大して稼げれないだろう。

 ならば他と組み合わせるのが、一番いい使い方だ。手榴弾と同時に投げて、その後すぐに火炎瓶を投げる。完璧に思えるが、閃光弾が効かなかった場合作戦自体が破綻する。


 改めて考えると、そもそも自分が生きるのが前提なのが間違ってるのか。あくまでロベリアだけでも逃げれればいい。そうすればロベリアは……いや、違う。自分の馬鹿な考えを切り捨てる。


 ロベリアはまだ11歳で働いたこともなければ、魔法も使えない。そんな彼女が一人でなんの支えもなく、安全に生きていけるとは到底思えない。

 少なくとも自分がいれば少しは助けになれるだろう。かなり自意識過剰な気もするが、その考えを頭に強く刻み込む。


 カバンへの移し替えが終わり、ひとまず安心してゆっくりと息を吐く。アオイに手を振り、終わったという事を示す。それに気づいたアオイも肩の力を抜き、もたれかかったまま座り込んだ。笑顔でこちらにVサインしてきたので、こちらもVサインで返す。


 安心したアオイがこちらに駆け寄った瞬間、ドアが勢いよく開き壁にぶつかった。その衝撃に驚いた体がビクンと跳ねる。それの犯人はすぐに分かった。


「ご主人……様……」

「貴様と……出来損ないもいたのか。相も変わらず醜い者同士、連れ添ってるようだな」

「御主人様、私ごときに何か御用ですか」


 立ち上がり、姿勢を正して問いかける。その時にアオイに自分の後ろに隠れるよう目配せする。アオイにそれが伝わり、自分の後ろに小走りで隠れた。

 それを主人は心底見下した、つまらなさそうな目で一瞥する。そんなに不快なら最初から見るな。こちらも軽蔑した目で睨み返す。


 ズーク=フォレスター。フォレスター家の当主であり、ロベリアの父。丸々と太っただらしない腹と、ちょび髭が特徴的な中年。大体の人が思い浮かべる貴族のイメージにピッタリな見た目だ。


 穏やかそうな風貌であるが、その実態は自身の子であっても、不必要と判断すれば奴隷未満の扱いをする。性根の腐ったクズだ。この屋敷にいればつくづくそう思う。


 だが自分はこいつに従っていた。捨てられていた赤ん坊の自分を救った命の恩人だからだ。

 まあそれもセーネ曰く、忠実な部下が欲しいという理由でしかなかったらしい。どこまでも期待を裏切らない男だ。

 昔は本気で尊敬していたが、今でもある意味では尊敬しているかもしれない。


 ていうかこいつ何しに来たんだよ。使用人の部屋に当主自ら来るとか、前代未聞だぞ。まさか勘付かれたか。

 ならいっそのこと、アオイと一緒に火炎瓶を投げつけて殺せば……いや、そんなことすれば普通に逃げたときより、最悪な状況になる。

 殺人の罪で逃げるのと、駆け落ちで逃げるのとでは周りの反応も異なるだろう。


 今はとにかくロベリアのことを探られないように、言い逃れるしかない。緊張で唾を飲み込む。


「あぁ、もう一人の出来損ないの事だが」

「……ロベリアお嬢様がどうかなされましたか」

「あいつは嫁がせる事にした。一族の汚点でしかなかったから、あいつも本望だろう」

「なぜそれを私に伝えるのですか」


 歯を強く噛み締め、睨む。こんな事を伝えてきたのは、十中八九自分への嫌がらせだろう。


「あいつを明後日にはウッダー家へと送るから、別れの言葉でもかけて来い。変に未練を残して失礼でもあれば、関係が悪くなるからな」

「……分かりました。主人の命に従うのが私の務めですから」

「ふむ、それでいい」


 はぁ?明後日に送るってセーネの話が違うぞ。まさか予定を変えやがったのか。それなら作戦の前提も崩れてしまう。


「まあ、言うことはこれだけだ。くれぐれも変な気を起こすなよ。貴様程度の人間が何をしようと無意味だがな」

「そのことはしっかりと心得てます」

「ふん、どうかな」


 不機嫌そうに鼻を鳴らして部屋から出ていった。つまらねえのはこっちだ。そう思いながら立ち尽くしていると、アオイに服の裾を引っ張られる。


「なあ、兄ちゃん。これってセーネ姉ちゃんに話さないとまずいんじゃ……」

「あぁ、そうだな。かなりまずい状況だ」

「……なんで急に明後日に変わったんだろう。それもお見合いをすっ飛ばして……」

「……さあな」


 部屋には不穏な空気が漂っていた。

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