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僕は異世界で元気です。  作者: 七色雨
使用人編
7/16

第6話

 護身術。ほとんどの使用人は主人を守るために押さえておくらしいが、俺は一切身につけていない。教えられたのは掃除と洗濯のやり方ぐらいだ。


 だから今本を読んで勉強しているのだが、この本が対象にしているのはあくまで成人男性。

 要するに13歳の自分の体格では、どう頑張っても不可能なものが多い。追手も確実に大人だろうし、体格差を埋めれる何かさえあればいいのだが。


 また本を閉じ、元の場所に戻す。あと何回これを繰り返すんだ。これ以上調べ続けていたところで、成果は上がりそうにない。何か別の方法を模索しなければ、時間が無駄に過ぎるだけだ。


「兄ちゃん、大丈夫?」


 知らぬ間に焦りが態度に出ていたようだ。アオイの声で焦燥から引き戻される。


「あぁ、大丈夫だ。心配いらない」

「ウソだ、絶対ウソ。何か困ってることあるでしょ。教えてよ!」


 確実に見透かされている。だが作戦のことを話すわけにはいかない。年齢を考えると、周りに言いふらす可能性が高いからだ。だがこのまま教えなかったら、ずっと聞いてくるだろう。それだけは避けたいので咄嗟にウソをついた。


「あー俺、騎士になりたいんだよ。皆を守りたいじゃん。だから必死に勉強してたんだけど、無理そうだなって。ほら俺ヒョロガリだし、頭悪いし」

「そんなことないよ!兄ちゃんはめちゃくちゃ優しいし、めちゃくちゃ面白いじゃん。だから絶対なれる!」


 それを言うアオイの目は真剣だ。真摯にこちらに向き合おうとする意志が感じられる。その目はとても6歳の子供とは思えないほど大人びていた。


「優しいだけじゃなれないんだよ、騎士には。頭が良くて、強い人にしかなれない。そういうものなんだ」

「じゃあ強くなって、頭もよくなればいいじゃん!兄ちゃんなら絶対出来る!」

「ありがとう、でも騎士以外にもなりたいものはたくさんあるから、別のやつになることにするよ」


 ウソをここまで真剣に信じてくれると、こちらもかなりの罪悪感がある。だがこれも仕方ないことなんだ。心のなかでそう言い聞かせ、嘘を重ねる。


「そっかぁ……でも俺、騎士になった兄ちゃん見てみたいな。きっとかっこいいだろうし」

「そうかぁ?あんな鎧着てたら、せっかくの俺の顔が隠れるだろ」

「ぶふっ!面白いこと言うなぁ」

「はぁ?どういう意味だぁ!?」

「あー!ごめんごめん。許して、許して」


 アオイは笑いながら許しを請う。こいつなりに俺を励まそうとしてくれたのだろう。嬉しくなったので、アオイの頭を撫でた。


「ちょっと、くすぐったいからやめてよ」

「悪い悪い。ついな」


 手を合わせて軽く謝る。アオイも本気で怒っていないので、表情もすぐ笑顔に戻った。するといきなり何かを閃いたような顔に変わる。


「……あっ、そうだ!兄ちゃん、冒険者になったらいいじゃん。何人かで旅をしながら、たくさんの道具を使って悪い魔物を倒す!俺はすごい向いてると思う」

「なんでだ?俺とかすぐ死ぬと思うぞ、弱いから」

「兄ちゃん勉強とか全くできないけど、道具の使い方とか上手いじゃん。掃除もすごく出来るし、洗濯もすごい早いから向いてると思う」

「あぁ、裏方ね。それなら確かに向いてるかも」


 アオイが俺のことを前に出るようなヤツではないと、そう思っている事実に少しショックを受ける。普段の俺を見ていたら当然か。


 ……道具か。そうだ、道具だ!道具があれば魔法を使うやつも、体格差もどうにか出来るかもしれない。道具と言ってもいろんなものがあるが、とりあえず方向性は決まった。

 よし、今から取り掛かろう。そう思ってふと時計を見ると、もう昼飯の時間になっていた。アオイもそれに気づいたようで、


「兄ちゃん、ちょっと待ってて。メシ取ってくるから」

「いや、俺が行くから。年下をパシらせるとかみっともないし」

「俺のことはいいから、兄ちゃんはここで本読んどいてよ!そうしないとダメなんだろ」

「あのなぁ、パシリとか人としてやっちゃいけない行為だぞ。だから……」


 そう言って立ち上がろうとした瞬間、本来ならありえないはずの質問が飛んでくる。


「兄ちゃんはロベリア姉ちゃんと逃げなきゃダメなんだろ?」

「あぁ、そうだ」

「だったら時間を無駄にしちゃダメだ。俺が行ってくるからちゃんと待っててよ」

「……わかったよ」


 返事を言う前に、アオイは部屋から飛び出していた。もう少し人の話聞けっての。

 そしてあまりにも自然な流れで、全く気がつかなかったことにやっと気づく。


 ロベリアのことバレてんじゃん。

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