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僕は異世界で元気です。  作者: 七色雨
使用人編
4/16

第3話

 5分ぐらい経ち、泣き止んだロベリアは先程姉から受け取った本を開き、ページをすごいスピードでめくる。切り替えるの早いな。普通ならもう少し引きずるものだが。

 彼女はこれでしっかりと読めているらしい。こういうの速読って言うんだっけ。


「ふうん、お姉様のわりには、まあまあ面白いの選んできたね」

「どんな話なんですか?」

「まあ話というより資料に近いわね。急に戸籍のない人物が大量発生した事件の記録よ。」

「へえ、面白そうですね。読んでみていいですか?」

「全然いいよ。ていうかそれより、洗濯は大丈夫なの?」

「あっ!忘れてた……すぐ行ってきます!」


 急いで階段を駆け下り、洗濯物を干しに行く。

 その後、書斎に戻れたのは仕事が終わって、1時間経った21時だった。


 ロベリアに本を貸してもらおうと、書斎の扉を開けるとロベリア以外の先客がいた。


「あれ、ヒュウガ?どうしてここにいるんだい。ここの掃除は君の仕事ではないだろう?」

「ヒマリお嬢様……今回は私用であります」


 ヒマリ、三女で自分と同じ13歳。黒髪を肩まで伸ばして、髪と同じ色のワンピースを着飾っている。顔は例外なく美人。さっき話した内容は4年前に、自分が間違えて書斎の掃除に来たことをからかっているのだ。


「ふぅん……。まあ学をつけといて損はないからね」

「はい、ありがとうございます!」

「いや、私に敬語は使わなくていいって、いつも言っているだろう……」


 彼女は、プライドが高い人が多い貴族にしては珍しく、使用人の立場は自分と対等だと考えている。それと……


「あの、ヒュウガ……」

「どうなされました?」

「ロベリアの事なんだが……、いつも仲良くしてくれてありがとう。あの子、家族のことが苦手みたいでね。君がいてくれて本当に助かっている。本当にありがとう」


 彼女はロベリアの事を心から大事に思っている。だから俺に会うたびに礼を言う。


「いえ、そんな。僕はただ一緒に話してるだけで、とても助けになっているとは……」

「そんなことないさ。あの子はいつも君と一緒にいる時間が一番楽しいって、そう教えてくれたよ」

「えぇ、いやそうなんですね。えぇ」


 もとより思いやりの気持ちが強い人だ。父親の態度には納得がいかないだろう。家族が苦手と言う時に少し目が鋭くなった。

 それと反対にロベリアのことを聞いた俺は、人に見せれないほどニヤケまくっていた。


「そうだ、礼と言ってはなんだが、君に明日から一週間休みをくれるか父上と掛け合ってみるよ。たぶん大丈夫だと思うから楽しみにしておいて」

「本当ですか!ありがとうございます」


 俺は頭を深く下げ、感謝の意を示す。

 本当によくできた人だ。

 この家ははっきり言って選民思想が強い教育をされている。とてもこの考えに行き着けるとは思えない。一体どんな経緯で、辿り着いたんだろうか。

 経緯を聞こうと思ったが、やめておいた。使用人ごときがそこまで干渉するのはマナー違反だ。


「おっと、ロベリアに用があったんだろう。それならこれだろう、預かっておいたよ」


 ヒマリは朝にロベリアが読んでいた本を差し出してくる。ちゃんと表紙がこちらの向きになるようにしていて、小さな気遣いが身に染みる。


「ありがとうございます」


 感謝の言葉を伝え、丁寧に両手で受け取る。集中できる自室で読むことにしよう。


「それでは僕はこれで、失礼しました」

「あぁ、おやすみ。ロベリアのこと大事にしてあげてね」


 黙ってうなずき、扉を閉めた。廊下を引き返し、階段に向かう。今度はカルミアの時みたいにならないよう、人がいないか警戒する。


 ゆっくりと足音を殺し、気配を消して階段を一歩ずつ降りる。人の気配を探りながら慎重に一歩、一歩。


 なんとか誰ともすれ違わずに階段を降りれた。あとはそのまま左にまっすぐ進めば、自室にたどり着く。だが、それを遮るイレギュラーが発生した。

 明かりに照らされた淡いピンクの髪を見て、その正体を一瞬で察する。


「セーネ……どうして俺の部屋の前に……」


 セーネ。四人姉妹の長女で17歳。夜の灯りに照らされるセミロングの髪を弄り、飾り付けの少ない黒のドレスを着て、退屈そうに立っている。自分の中では一番苦手な相手だ。


 だがいつまでも、こうして隠れているわけにはいかない。意を決して彼女の方に歩く。それに気づいたセーネは視線をこちらに飛ばし、口を開いた。


「ヒュウガ、またロベリアと一緒に遊んでいたらしいわね」

「いえ、遊んでいたといえば語弊があると言いますか、なんというか……」

「そんな話、どうでもいい。私は貴方に伝えなければならない事があるのよ。」


 自分から話振ってきたくせに、急に話題を変えてくる。こういうところが本当に苦手だ。


「ロベリア、結婚するから」

「はぁ?」


 いつもなら止めれる言葉も、止めれなくなるほどの衝撃が体を走った。

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