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僕は異世界で元気です。  作者: 七色雨
使用人編
3/16

第2話

 雑巾がけが終わり、少し空き時間ができたので図書室へ向かう。書斎は2階の端、階段を登って左に行けばたどり着く。周りに誰もいないことを確認してから、階段に足をかけ跳び上がる。踊り場から次の段に足をかけようとした瞬間、前から話しかけられる。


「あら、ヒュウガじゃない。なんで使用人のあなたが2階に行こうとしているの」

「時間が出来たので書斎に行くんです」 


 目の前に立つのは次女、カルミア。歳は自分より一つ上の14歳。天色の髪をたなびかせ、小馬鹿にするような目でこちらを見る。普通ならムカつくのだろうが、妹と同じく美人なので、女好きの自分は少し見惚れる。


「へぇ、そうなのね。私もついていこうかしら?」


 上から来たってことは、下に用があるってことじゃねぇのか。意味わからねえなコイツ。

 この言葉をそのまま出すわけには行かないので、ある程度言葉を濁す。


「いえ、お嬢様を付き合わせるなんて恐れ多い……。上から来られたという事は、下の階に用があるのでしょう?そちらを優先してくださいませ」

「書斎に行きたくなったからこれでいいのよ。早く行きましょう」

「あぁ、はい」


 カルミアは手招きをする。

 じゃあなんで下の階に降りようとしてたんだよ。

 若干の気味の悪さを感じながらも、彼女の気分を損ねないためにその言葉を飲んだ。

 階段を登り、廊下を横に並んで歩く。


「久しぶりね、こうやって一緒にいるのは。最後にいたのは何年ぐらい前かな」


 まるで楽しいことがあったかのような口ぶりだが、実際に楽しかったのはアッチだけだ。自分はコイツの機嫌が悪くならないように必死で、一緒にいて楽しかったと思ったことは一度もない。

 せめてもの仕返しに返事はしておかなかった。


「着いたね、ヒュウガから入って」

「……はい」


 なんで自分からなのか。その意味がわからないが、とりあえず従う。書斎の扉の前に立ち、ドアノブに手をかけゆっくりと開く。


「あっ、ヒュウガ!……とお姉様……」


 自分が入ったと分かり椅子から立ち上がり、駆け寄ってきたが、カルミアがいると分かると表情が暗くなる。

 彼女が姉と仲が良さそうにしているところなど、一度も見たことがないので、そういうことなのだろう。手を合わせ謝罪の意を示すが、彼女の目線は姉の方に注がれていた。


「お姉様、なにか御用ですか」

「まあ、用がないと言えば嘘ね」


 普段の彼女からは考えられないほど冷徹な喋り方だ。そこまで姉との仲が悪かったのか。長い時間をともにしているはずなのに、その会話は他人に対するそれだ。少なくとも姉妹がするそれではない。


「ほら、お父様に連れて行って貰ったところで買った本よ。ロベリアはいい子だから感謝できるわよね?」

「……ありがとうございます」


 確実に感謝の意がない感謝の言葉が発せられる。わざわざお父様と言って来てマウントを取られ、かなり腹に据えかねるものがあっただろう。ロベリアの拳が強く握られ、わなわなと震えている。ていうか強く握り過ぎて爪が手のひらに刺さり、赤黒い血が出ていて痛々しい。


「うんうん、えらいえらい。それで、聞きたいことがあるんだけれどいいかしら」

「……何ですか」


 一触触発の空気の中、カルミアが話を振る。


「なんで使用人と仲良くしているのかしら。誰も相手にしてくれないからって、使用人に構ってもらっているの?その行為はフォレスター家の名に傷がつくわ。早くやめなさい」

「ち、ちがいます。ヒュウガは使用人だけど友達ですから……」

「使用人が友達ね。意味がわからないわ。使用人なんてただの道具でしょう。道具と仲良くする人間なんてこの世にいないわ」

「でもお姉様だってヒュウガと……!」

「何を勘違いしているのか知らないけど、私は楽しいからヒュウガとつるんでただけよ。あなたみたいに本気で友情感じてたわけじゃない」

「お嬢様、そろそろそのへんに……」


 さすがにこれは止めないとまずい。カルミアとロベリアの間に立ち、静止する。するとカルミアが不機嫌そうにこちらの顔を見た。


「あなた、ロベリアの味方をするの?それだと私を敵に回すことになるけど」

「別にそういうわけじゃ……」

「大丈夫なの?私を敵に回すという事はお父様も敵に回すって事なんだけれど……」


「お姉様!」


 ロベリアが叫ぶ。大声の衝撃で、少し沈黙の時間が流れる。


「私が悪かったですから。それでいいですのでお願いします、ヒュウガは許してあげてください」


 深々と頭を下げ、謝罪の意を示す。先程の感謝とは全く違う心からの謝罪だ。

 それを見たカルミアはバツが悪そうに


「あぁ、うん。本は渡せたから私は帰るわね。ちゃんと読みなさいよ」


 そう言い捨てて居心地の悪い空気を残し、自分の部屋の方向へと歩いていった。


 ロベリアは今にも泣き出しそうな顔で両手を強く握りしめて、震えていた。黙って駆け寄ると、彼女は自分の体に抱きついて涙を流した。


「ごめん……ヒュウガ……」

「全然大丈夫です、こちらこそもっと早くに止めに入ればよかったですね。申し訳ございませんでした」

「ヒュウガ……」


 抱きしめる力がさらに強くなり、涙の勢いが更に強くなる。俺はロベリアの背中をさすり、泣き止むまでそうしていた。

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