第11話
ロベリアとの会話が終わってその場に座り込む。深く肩を落として、大きなため息をついた。
さっきは勢いに任せてとんでもない事を口走ってしまった。わざわざ話したに行ったのに、これでは逆効果だ。
なんでああも調子に乗れるんだろうか。嫌になる。
「……なにやってんのヒュウガ」
気づかないうちに目の前にいた人物から、声をかけられる。今は誰とも話したくないが、そんなワガママは言ってられない。
というより言えない。だってその相手が、
「げっ、カルミアお嬢様……」
「げって何、まるで私が怖い人みたいだね」
「いや……怖いです」
「この屋敷出るからって調子乗ってない?」
いつもの余裕そうな表情ではなく、普通に嫌そうな顔でこちらを見下げる。ぶっちゃけカルミアの言ったことは的を射てる。昨日セーネにタメ口で話しかけたし。
「ていうか本当にどうしたの。もしかして諦めようとしてる?それならぶん殴るけど」
「そんなわけないだろ。ただ失敗したなぁって」
「何を?」
「ロベリアとの会話」
「はぁ?」
眉間にシワを寄せ、口をあんぐりと開ける。いつもと違い、今日の彼女は表情から感情が読み取りやすい。作戦のことで少し緊張して、普段のように取り繕えないのだろう。
それを証明するかのように、普段の彼女が絶対言わない暴力的な言葉が飛んできた。
「それ、返答次第では本当に殴らないといけなくなるんだけど」
「違うって!あいつを傷つけることなんか言ってない。どちらかと言えばプラスの事を言ったんだ!」
「プラスのこと言って失敗って、もしかして作戦のことでも話した?」
その言葉を聞いた瞬間、背筋がゾクッとする。作戦を直接伝えたわけではないが、それでも似たようなものだ。ここはちゃんと白状しよう。
「実は……」
「もし私が本当にお嬢様を連れ去ったらどうしますか、とか?」
「……聞いていらしたんですね」
俺が勝手に行動してやらかした事なので、文句は言えない。黙って彼女の顔を見て、怒られる準備をする。
「別に説教のために来たわけじゃない。伝えないといけないことがあったから」
「えっと、この首飾りのことですよね?」
カルミアが話すことならこれに違いない。自らの首にかかっている白い宝石を自信満々に指差す。
だが彼女の表情は困ったかのように、
「いや違うけど。それに関しては何もわかってないし、適当に物乞いから貰ったやつだから」
「それ、どういう経緯なんすか」
彼女と物乞いが同じ風景にいるのを想像できない。階級を人一倍気にする彼女が、そんな存在と触れ合うのが信じられない。ヒマリならまだ分からなくもないのだが。
彼女の場合、奪ったのを貰ったと言っている可能性がある。そんな考えはすぐに見透かして、蔑んだ眼で反論してきた。
「別に奪ったわけじゃないよ。落とし物を届けた礼に貰ったんだ。信用できない?」
「いえ、出来ます……」
かなりの圧をかけながら、こちらを強く睨みつける。これも無神経に質問した自分の責任だ、素直に謝ろう。
「勘違いしてるんだろうけど、本気で差別意識を持ってるわけじゃないよ。世間体のためだよ、分かる?」
「はい、すいませんでした!」
頭を下げ、大きな声で謝罪した。だがカルミアはむしろ、さらにイライラしているように見える。大きな声が癪に障ったのだろうか。
「こんな話をしにきたわけじゃないんだけどね。いい加減話させてもらえるかな」
「はい、申し訳ございません」
「はいばっかだな君は……。要件だけど、お姉様がロベリアの監視は既に書き換えたって」
カルミアは打って変わってにこやかな表情でそう言う。だが俺はそれに疑念を抱いた。
「だからさっきのロベリアに言ったことも大丈夫、安心して」
それはおかしい。セーネは今日の夜に書き換えると言っていた。だが、既に書き換えてるとはどういうことだ。
「待ってください。セーネは今日の夜に実行すると言っていました。ですが今はまだ朝です。とても夜とは言えない」
「どういうこと?お姉様は今日の朝に書き換えるって言ってたけど……」
不穏な空気がその場に流れる。当然だ、これではセーネが嘘をついたことになる。こちらに不利益な嘘だ。
そのとき、嫌な考えが頭をよぎる。セーネが主人とグル。もしそうならこのことにも説明がつく。
でも昨日の彼女を思い出すと、とてもそうは思えない。しかし、そうでなくてはこの状況にはならないだろう。
もしかしたらセーネが言い間違えただけかもしれない。わずかな希望を持ち、話題を変えた。
「ていうか、セーネが言っていた監視者はどこにいるんですか。さっき話していた時に一切、見当たらなかったのですが」
「……初耳なんだけれど、それ」
俯きながらそう返される。セーネが嘘をついた。信じたくない現実が、強く頭に突き刺さる。
頭を抱えて、静かにため息をつく。カルミアも気持ちは同じようで、床を強く睨みつけ歯をギリギリと鳴らしていた。
不穏な空気は変わらず流れ、疑念が脳にこびりついた。




