ソード13 輪の神将(6)
折り紙に神々カニ噛み仮眠。
ガラガニーなど六神将には、数知れず存在する上級戦士が挑んできた。
それは、やはり「組織のため」。
上級戦士が所属する組織はまちまちなのだが、なぜだかヤツらが決まって言うのが所属意識。つまり組織を支えるために粉骨砕身するというのが信条らしいのだ。
「邪悪、か。キミは噂など先入観を抜きにして、余ども六神将を悪だって思うかい?」
「さあな。だが、俺は弱いが噂だけで判断するような半端ではない」
「へえ」
「かと言って組織のためでもない。俺は上級戦士じゃあないからな」
ガラガニーはそこで目をカッ、と見開いたように見えた。俺の言葉に何を思ったかは分からない。
「セン、とか言ったか。キミって人間には実に因果が絡むね」
「何のことだ」
「余が遊んでやるほど実力を持ちながらも子どもを斬り殺す。それに、リミテッドだろ。しかもリミテッドの割には強いのに下級戦士に甘んじている」
「甘んじてなどいない」
「あっ、そう。余がリミテッドと遊ぶなんて、今までに二度しかなかったんだけどな」
ガラガニーはそう吐き捨てると、ざっと7メートルほど一気にバックステップした。
「一万分の一の『輪の神将』。この力に屈することを、その身をして学ぶがよい」
「戯れ神とて容赦せぬ。今までより更にだ」
俺は剣を構えた。
この青銅の剣は、とある理由で絶対に砕けない特別な剣だ。本当の名を『悲青銅メガンス』という。
理由とは、この青銅が剣として加工されたときに絶対に壊れない魔法が施されたというだけだ。
だから名前を持つ代物にしては、切れ味は青銅の剣そのもの。砕けないというだけで、俺にとってはただの剣だ。
「もう幾つか秘伝を教えたかったよ。蹴り技と剣技を組み合わせる楽しさとかね」
「百烈の心得には感謝する」
「なんなんだよ。悪だろうと好き嫌いなしかよ」
「始めよう、神将ガラガニー。俺にとっては命がけの戦いを……」
「ああ、いいよ。時間までなら付き合おう」
しばらく静寂が続いた。
一万分の一の実力の神になら俺の剣は通じると思えたのは、その静寂のためだ。
俺は一切容赦なしの心で、キリリと攻撃を繰り出す気合いを全身に行き渡らせた。
「右手に炎、左手に氷。名もなき戯れ技だ。さあ、キミから攻めてこい」
「行くぞ神よ!」
俺は壁の水流を剣に乗せた。
もちろん、風と同じくレッサー・ウォーターを乗せた剣でないと水は乗らない。
「とりゃあ」
「来たか、セン!」
丸くかがみながら突進し、隙なく相手の懐に飛び込んでいった。
待ちぼうけでは相手の思うツボ。魔法を投げられようが、ここは誘いに乗ってでも接近が正解だ。
「おおおおおおお」
「ぬぬぬ、ぬぬぬぬぬ」
他でもないガラガニーから教わった、剣を止めない心。
それを今、俺は実践していた。
突き、引ききらず突き出す。
俺の腕がまるでガトリングにでもなったかのように、剣は気合いがこもりドンドンと繰り出していける。
「『百水剣』。オララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!」
「炎と氷、どっちを望んでだァ」
ガラガニーの炎は水の魔力を水ごと蒸発させ、氷は水の魔力を水ごと凍てつかせた。
どちらかだけなら、俺には対抗策があった。
炎だけなら、炎の魔力にして逆に乗せる炎として利用してやればよい。氷だけなら、気にしなければ氷の剣でよい。
しかし両方というのは魔法を乗せた剣と相性が良くない。
「ちっ」
俺は息切れや魔力切れを起こす前に、引き際とばかりに後ずさった。
ガラガニーのようにバックステップしたかったが通路が狭く、思うほど機敏には動けなかった。
「ふうっ!」
吐く息と共に今度は土の壁を削りながら剣に乗せた。今度はレッサー・ストーン剣を高めたのだ。
「『土石点線打』」
俺は土や石が入り交じったモノをガラガニーに打ち放った。
パラパラと、ひとつひとつはまばらでショボい荒い小塊だ。だが、それぞれに流し込まれた土の魔力は一筋縄ではない。
あたかも極小の大砲のように、捉えた相手に土石の恐ろしさを味わわせることになる。
「ぬっ。お、げええええええ!?」
ガラガニーの左下腹部あたりに命中した土石粒は、魔力を元に再構成されていく。
それこそ、相手を封じるべく土石は敵の体に広がり動けなくしていくのだ。
「本当にいいのか。一万分の一などとほざいていて」
「くそっ。くそっ、くそくそ、クソが!」
ガラガニーはイライラしながら、少しずつ風の魔力で土を剥がしていく。
剥がす手段は神なら持つだろうが、見ていて少し滑稽なほど地味な作業だ。
「上級戦士なら、神だろうと油断するヤツにはためらわない」
「うんうん、それどころじゃないよ。くそっ」
「俺は下級戦士だ。油断していまいが妥協しない」
「じゃあ大して違わないねえ!」
「心構えだ。天と地ほどの差だ」
「大して違わないなあ、ますます!」
「そうだったか……」
俺は組織のためには戦わない。
かと言って自分のためでもない。
シトラスのためでもない。
ただ平和な世界で暮らしたい。悪を討ちたいなどという大それた動機でなく、望むのはただ、平和だ。
「クソ、ちょっと必殺技だ。『ウルギ・カーディ・アロワーグレフ』!」
ガラガニーは川のごとき水の流れを放った。
しかし、ただの水ではなさそうなのは色だ。
明るく緑色に輝く水。――光の反射に由来する錯覚でなければ、普通の攻撃ではなかった。
「くわらああーーーーーー」
俺は壁を走った。
風剣の補助を使うが、俺はそこまでやれる。
そこまでするのは、水を避けるためだ。
「ドバー」
「何ィ」
ガラガニーの「ドバー」という掛け声で、水鉄砲が俺に迫った。
緑色の川から、俺を目指して水の線流が発生したのだ。
「コナクソだ」
俺は剣で水鉄砲を防いだ。
だが、足元にも来ていた水鉄砲を防ぎきれず俺は落下した。
「あぱっ、……」
浅いはずなのに、急に脱力感が来て俺は動けなくなった。
「ウルギ、つまり水氷神力の奥義だ。この水に触れると、反射神経がおかしくなり身動きに支障が生じる」
「……くは……」
「愉快、愉快。ただし一万分の一の、今の余だからだぞ。本来は中枢神経まで侵しキミは即死だ」
「……」
俺はあっぷあっぷと呼吸に苦しんだ。
良くない兆候だった。――呼吸が阻害され、怪物の力が解放されてしまいそうだった。
「う、ヴ……ぐヴるるるルぎ」
「いいんだぞ。一万分の一に抑えた、このガラガニーとて本体そのもの。怪物の力とやらで余を壊すがいい」
「ギ……ギェ……」
俺の頭部が膨張を始めた。
まず頭部が膨れ、全身がくまなく隆起して体じゅうが一回り大きくなる。
そして、全身が怒りで青ざめると怪物は完成してしまう。
しかし、その時だった。
『セン。怪物の汝に身を委ねるな』
「……?」
『セン。我は常に汝と共にある』
どこからか声が聞こえた。
よく覚えていた。俺が、とある日に目を覚ます前に聞こえた声だ。
(「セン。今こそ目覚めよ、セン!」)
あれはシトラスの声ではなかった、ということだ。
よく似ているが、ここにシトラスはいない。
それにアイツは俺を「汝」と呼ばないはずだった。
「うっ。……」
呻きつつだが俺は、すっくと立ち上がることが出来た。
聞こえた不思議な声が力をくれたのか、緑の川はもう俺から自由を奪えないようになっていた。
「……俺は千火 四季雄。そして俺はセン・フォーシーズンの意識に入り、融合したのか」
「何をごちゃごちゃ言ってる?」
「元の世界に帰らないと」
俺――四季雄なのかセンなのか、わけが分からない、この俺――は、粗悪魔法の使い方を思い出した。
粗悪魔法というのは、千火 四季雄が考えた空想魔術だ。




