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3 冷たい視線の効かない人ほど、視線が冷たいことがおおい

 翌日 午前8時半。 冒険者ギルド受付窓口。


 「おはようございます!」


 「どうも」


 景気よく朝の挨拶をして、職員のおばちゃんを向い入れたが、目は合わせてもらえなかった。


 (昨日聞いた話からするに、町の人の期待もあって、今ギルドで好き勝手やってるこの人らは俺が余計な改革を進めようとしないか警戒してる訳か、通りで初対面から皆態度がおかしいと思ったよ)


 あの後、アルコールが回りすぎたのか、気を失ってしまったペイジ。

 気が付いたら、自分のうちのベッドの上だった。。

 いっそ全部夢だったのかもしれないとも思ったが、横見ると部屋の壁にはピンクの何かで大きく書かれた文字。


 『いつも見ている』


 「マジかよ・・・・・・」

 

 (とりあえず、一人じゃ何もできない、まずは仲間作り。人脈(・・)の確保だ)


 このままじゃサキュバスの気まぐれで、いつ殺されるかもわからない。


 そしてペイジが動いた先は、受付窓口。

 受付はいつも同じおば様。細くて赤いフレームの眼鏡が特徴的な、灰色髪のマドさんだ。

 目が鋭く、口数も多くない。

 お客さんが相手であろうと露骨に必要以上の会話をしようとしないどころか、「役場の人間なので関係ありません」と面倒ごとを突っ返してしまうという、およそ窓口に似合いそうに無いお方だ。


 (この手の人に余計な会話をすると、即話を切られてしまう恐れがある。素早く要件を出して、会話を長引かせないのが定石)


 「こんにちはマドさん。うちに登録されてる冒険者名簿が見たいんですけどいいですか?」

 

 「ダメです。仕事中なので話しかけないでください」


 定石通じず。


 「なんで?」とか理由すら聞かれないとは、それを聞かれることで意図を説明するつもりだったが、想像を超えてガードが堅い。


 しかし、ここで諦めてしまっては話が進まない。

 ギルドではそこを利用する冒険者をまず登録し、それからクエストの紹介や、近隣のモンスター情報、パーティ情報の紹介などのサービスを提供している。

 特別な事情がない限り、ほぼ全ての冒険者はまずこの登録を済ますのが当たり前だ。

 その名簿が手に入れば、この町でギルドを利用している人達、要は協力してくれるだろう人達もわかる。

 

 (普通話しかけないでと言われて食い下がるのは悪手だけど、今回はまだ打つ手がある)


 ペイジが意識したのは後ろの視線、隠す様子もなくこっちを見てるのがひしひしと感じる。


 「実は新しくお世話になる冒険者の方々に、挨拶に行きたいんですよ。ちょっと時間がかかるかもしれないので、今日明日はあんまりここにいられないかもしれないんですが、見せてもらえませんか?」


 無視して動いていた手が少し止まる。

 マドさんが何か考えるように視線を逸らすと、後ろから声がかかった。


 「あらいいじゃない。ここにいても特に仕事も無いし、いって来てもらえばー?」


 声をかけてきたのは一番奥の席、赤と白のマーブル模様のパーマが特徴的なおば様、タージュさん。

 いつもは一番奥の席で一人町内誌を読んでいたり、私物のパズル雑誌と睨めっこしながらお菓子を食べている。

 一応業務の内訳では掃除や掲示物の取り換え、ギルド施設内の管理となっているようだが、ここ二日働いてるところはまだ見ていない。

 それでも他の二人が文句を言わないのは、諦めているのか他に何かあるのか。

 

 (ここに居なくなるといえば、絶対食いついてくると思ったよあなたみたいな人は!)


 ペイジは期待通りの反応に、顔がほころびそうになるのをぐっとこらえて笑顔を保った。

 それを聞くなりマドさんもあからさまなため息をついて、もう一人のおばさまを指さす。


 「そういうのは私じゃなくてコールさんに聞いて」


 「そうでしたか、ありがとうございます!お仕事の邪魔をしてすみませんでした!」


 返事も無くまた書き物に戻ってしまったマドさんだが、これでいい、愛想の悪い相手にこそ誠意をもって返し続ければ、必ず罪悪感が溜まる。

 

 (頻繁に顔を合わせる相手ならなおのことだ)


 この手の持久戦を大セントラルで散々やってきたペイジには、いける手ごたえを感じていた。


 思い通りの展開に満足しながら、中央の机に向き直る。

 そこでは、これまでの経緯を無言で見ていた、薄い黄色髪を後ろに束ねたおば様。

 電話番兼事務担当のコールさんがジト目でこっちを見ていた。

 おそらく睨んでるわけではなく、こういうのが普通の表情なんだろうとペイジは思っている。どちらかというと願っている。

 マド以上に口数が少なく、おそらく話すのが好きなタイプでは無いのだろうとペイジは思っている。

 その原因の一つが、とにかく全てが遅いこと。

 口調もとってもおっとりで、仕事も実にマイペースなんだが、会話のペースが噛み合わず、電話の相手が待ちきれずに怒って切ってしまうことが昨日でも4回あった。

 ただ一番の問題は別にある。


 「コールさん。冒険者名簿貸してもらえますか?」


 「・・・・・・はい?」


 この人は他人の話を全然聞いていない。


 やっと聞いた電話の内容を何となくで伝えて、昨日は討伐対象のモンスターを間違って掲載していた。

 クエストを達成した冒険者に報酬が出ず、本当の討伐対象も暴れる一方で、結局別の冒険者に討伐してもらったが、都市なら重大な責任問題になっている。新聞に載るほどの大事件だ。


 結局また一から説明しなおして、ようやく名簿を手に入れた。


 (めっちゃくちゃ疲れた・・・・・・。絶対変えてやるからなこのギルド・・・!特にあの3人!」)


 おば様方の冷ややかな視線に見送られながら、ペイジはこぶしを握り締めた。

 

 次から外回りのお仕事です。


 最初のネームドエネミー。

 

 恐ろしいですね。

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