1 「元気な声であいさつ」はどこでも使える撃ち得スキル
翌日早朝。
ペイジは朝食と日課の朝風呂を済ませ、髪を整え髭を剃る。
昔から若く見られがちな顔つきを生かすために、洗顔と髭剃りは欠かさない。今日は念入りに眉毛の手入れまでして出来はばっちりだ。二十歳と言っても通用するとペイジは確信した。
「初日のイメージは大事だからな、可能な限り出来る印象を与えて最高のスタートを切らせてもらおうか」
ペイジはこの町の冒険者ギルドの職員。
今日はその初出勤だ。
祖父が運営している冒険者ギルドだが、80を超える高齢であることと、丁度ペイジも大セントラルでの仕事を辞めたところだったので、そのままこっちを引き継ぐこととなった。
今日はギルドの職員達との顔合わせと、引継ぎ事項の確認。そして実質次のギルドの長としてのあいさつの予定だ。
事前に台本もきっちり考えてあるし、イメージもばっちり。
「他所から急に来た上司が感じ悪いと、今後に響くからな。まずは既存の職員との信頼関係の構築が第一。慣れてもらえるまでは姿勢は下から!この路線で行こう」
前職で培った人脈構築のノウハウで、すぐにギルドをまとめて、少しスローライフを満喫しよう。
そんな自信と期待を胸にペイジは家を出た。
小セントラル 冒険者ギルド
一階建ての平屋に、玄関の上に大きく象られた六角形のエンブレム。小セントラルのギルドマークだ。
玄関の前では軽装の冒険者が7人ほど、何か話しながら馬車に荷物を積んで居た。
「あれで・・・・・・、あってるよな?これから仕事か?あのーー!」
予想と違う、もっと如何にも事務職員という感じの人に出迎えられると思っていたペイジは、恐る恐るその集団に声をかけて歩み寄った。
冒険者たちはペイジに気付くと、怪訝な表情だったり興味なさげだったりとそれぞれなリアクションを見せる。
よく見れば、全員がそれなりに高齢だ。おそらく60後半かそれ以上がほとんどだろう。
すぐにそのうちの一人が手を止めて話しかけてきた。
「おう!どうしたんだい?ラインさんとこに何かようかい?」
ラインとはペイジの祖父の名前だ。
「そうです!実は僕そのラインの孫で、ペイジといいます!今後こちらのお仕事をお手伝いさせていただくことになりましたので、ご挨拶に伺いました!」
現場主義の冒険者には大きく聞き取りやすい声量ではっきりと話す。この場の冒険者達の視線に自分を売り込む為に、ペイジはすぐに営業モードに切り替えた。
スムーズな切り替え、目の前の初老の冒険者も悪い顔はしていない。つかみは悪くないぞとペイジは心の中で鼻を伸ばした。
「ああ、あんたが噂の孫か。都会で働けなかったからこっちに戻ってきたんだろ?」
(ん???)
初老の冒険者の顔が呆れ気味に変わり、ペイジの心の鼻も90度曲がった。
ペイジも表情こそ崩さなかったが、意外なリアクションに一瞬動きが止まる。
(おやおやおや?なんで初手からそんな印象もたれてんの?え?ラインのじいさん何言った?俺が来る前に俺のこと何か言ったのか?)
「仕事するのは勝手だけど、俺らには俺らのy」
「いやっ・・・!」
ペイジの逡巡を無視して続けようとする冒険者に反射的に声が出た。
経験からここで言わせてしまってはこの場の全員によくない印象を残す。
彼がとった行動は、
「・・・・・・そうなんですよね!ちょっと頑張ってみたんですけど、やっぱり都会の仕事っていうか人間関係?そういうのが性に合わなくてー!」
同意してしまうこと。
相手の言いたいことを先に全部こっちから言ってしまうことで、相手を刺激することなく、話の流れを奪い取ってしまう。
(初手の印象が悪かったのは気に入らないけど、まずは下から!これは最初っから決めていた基本路線!確証のない噂話なんて、今後目の前の俺自身の行動でどうにでも変わる!)
ペイジに苦笑しながら同意された初老の冒険者は、一瞬面くらった様に黙ると、すぐに笑顔を返してきた。
「まあ、そうだよな。こっちは田舎だからよ。そういうのねーから、みんな仲いいし仲良くやろうや!お前なんつったっけ?」
「ペイジです!」
「ペイジな。よろしくな!」
ペイジが手を差し出すと、初老の男性はその手を握りしっかりと握手を交わした。
(おめーは名乗らねーのかよ)
笑顔で握手を交わしながら、ペイジは一抹の不安を感じた。
(まさか残り全員こんな感じじゃないだろうな)
初出勤です。
会話が予想外のトラブル無しに、スムーズに終わった時って天才になった気分になれます。
相手もスムーズに終わったと思ってくれてるかは知りません。
後書きってこれでいいんでしょうか、僕の好きな作者さんは後書きで一杯遊んでたイメージなので、頑張ってリスペクトしたいです。