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第6音

「あー、あーすみません。ここからは私オバナが担当します。えー、実技試験についての説明をしますね。普通にあなた達の楽器の腕前を見ます。一人ずつです。以上です。」


それだけ言って気だるげな男性の声は途切れた。

再び会場がザワつき出す。「それだけ?」や「なんの実技…?」など様々な声が聞こえてくる。実際、俺も困惑していた。



弾くのか?ピアノを?

それだけでいいのか?







途端、やる気がふつふつと湧いてきた。

今まで忌み嫌ってきたはずのピアノが、今は最強の武器に感じた。

ピアノだけなら誰にも負けない自信がある。

ピアノをやり過ぎて、人生を投げ捨てたくらいだ。学科はボロボロで一時はもうダメだと諦めたが、


これならいける。



そう、ユズリと一緒に学校に通えるチャンスがやってきたのだ。



ユズリは

『うーん…正直自信ないですね…私、勉強は得意ですが、これはあんまりなので…』


そう言って「御守りなんです」と恥ずかしそうに細いフルートのような横笛を見せてくれた。



名前が彫ってあるし、中々に古い。恐らく昔から大事に使ってきたのだろう。


ユズリの演奏とか正直めっちゃ聴きたい。ので自分より前にユズリの名前が呼ばれることを祈った。





「それでは今から試験を開始しますね。じゃあ受験番号1番から順番に前へ。」



呼ばれた1番の人はバイオリンのようなものを持って不安そうに前へ立った。




「好きな曲でどうぞ。始め。」



1番の人は「はい」と答えてバイオリンを構え、弓を弦に触れさせた。そしてゆっくり弾いてー…





「はい、やめ。お疲れさん、帰っていいよ。」





えっ…!?まだほんの数秒しか弾いていないぞ!?


1番の人は小さく「は、はい。ありがとうございました…」と震えるような声でお辞儀(じぎ)をし、会場を去っていった。


そんな…こんな数秒で何を選別しているんだ…!?


しかし先程の人は俺から見れば確かにド素人だった。

立ち方、姿勢、弓の持ち方、弦の抑え方、角度、全てがまだ数回、それか初めて触ったようだった。



だがこれに魔法になんの関係があるのだ。ますます分からなくなってきたぞ…




「次、受験番号2番の方前へ。」



もう2番目以降は絶望である。みんな震え上がってしまっていた。


オバナという教官はだるそうな声で次々呼んでは「もういいよ、お疲れ様。帰っていいよ。」と言っていく。もはや流れ作業だった。祈り出す人や、泣き出す人もいた。

そうだユズリは…



ユズリは真っ青な顔をして小刻みに震えていた。


「ユズリ、大丈夫か!?」


慌てて声をかけると涙目になりながら



『すみません。ここまで厳しい審査とは思ってなくて…その…怖くて…』


そう言って笑うような素振(そぶ)りを見せた。



ユズリだって怖いのだ。俺が不安になってどうする。




「大丈夫。絶対大丈夫。落ち着いて深呼吸するんだ。

番号が呼ばれても焦っちゃダメだ。ユズリ、無になるんだ。集中すれば周りなんて見えない。目を閉じれば何も見えない。一緒に頑張ろう」



思いつくだけ励ましの言葉をユズリにかけた。するとユズリは少し顔色が戻り、震えも治まってきていた。



『ありがとうございます。集中して、頑張ります。』



そう言ってユズリは強張(こわば)りながらもニっと笑って112番と書かれた紙を握りしめ、

「次、112番の方前へどうぞ」


と呼ばれた声に答えて前へ歩いていった。

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