第5音
ー「そこまで!各自速やかにペンを置いて待機!」
はっと気がつくとあっという間に1時間が経過していた。
言われるがままペンを置いて、自分が解いた用紙を見つめる。
正直に言う。まっっったく解けなかった。
いやだって元々やる気全然なかったから勉強なんてしてないし、したことない。
当日にやる気出るなんて思わないじゃん。
落ちた。これは絶対落ちた。もう見なくてもわかる。
真っ白に燃え尽きた俺の机から試験官が解答用紙を持っていった。
終わった。さよなら俺の青春…。
「続いて実技試験を行う!!会場を移動するため、荷物をまとめて第1試験場へ向かうように!!」
そう言って試験官は扉の外へと出て行ってしまった。
そして続々と席を立ち、ゾロゾロと受験者達が外へと出ていく。
慌てて荷物をまとめ、後ろを付いていった。
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敷地内を5分ほど歩いた先に辿り着いたのは、大きなドームのような会場だった。それはもう馬鹿でかいし、規模がおかしい。高校の会場じゃないだろこれ。東京ドームと同じくらいの広さじゃないのか。
「ただ今より、第2次試験の実技試験を行う!それぞれ自身の楽器を用意せよ!!ない場合は貸出となる!この中から好きな物を1つ選べ!!」
そう言って試験官はドームの中央の方へ歩いていった。
(楽器…?そういや父さんからロールピアノを持たされてたな。)
まさか使うことになるとは思ってなかったので驚いたが、とりあえずリュックの中を漁り、ロールピアノを手に取った。
『あら、ロールピアノ。素敵ですね、ピアノ、お好きなんですか?』
声の方を向くと、先程の隣の席の美少女、ユズリが俺に話しかけてきていた。
一瞬、ビックリして固まってしまった。我に返り、「いや、そんな。親になんか渡されて、それで…」としどろもどろ答えると、彼女はふふっと笑った。
『そんなに緊張なさらないで下さい。気軽にユズリ、とお呼びください。そう言えば貴方のお名前、聞いてませんでしたね。よければ教えてください。』
「ミヅキです。」
めっちゃ即答してしまった。いや何こいつ食い気味じゃんとか思われたら嫌だな。そんな事より彼女が俺の名前を知りたいなんか言ったから、もうすっごいテンション上がっちゃってそれどころじゃなかった。
彼女は…いやユズリは
『ミヅキさん、素敵なお名前ですね。先程はありがとうございました。貴方のおかげで助かりました。筆記試験はいかがでしたか?』
と食い気味に答えたことなどサラリと受け流し、次の会話に続けてくれていた。い、いい子…
その後も試験が始まるまで、2人でテストはどうだったかとかどんな試験なのかなとか色んな話をした。
ユズリにこの学校はどんな所なのか知ってるかと尋ねると、詳しいことはわからないです、秘密にされてきたので。とだけ言っていた。
とはいえ筆記試験は魔法に関する内容であるということは知っていたようで、俺が一切勉強せずに来たことを伝えるとちょっと複雑な表情をしていた。多分ミヅキさんだけですよ…とも言われた。それはだいぶ恥ずかしい。
楽しい時間も過ぎ、少しずつ周りの声が小さくなってきていることを察し、2人で黙って前を見た。
「これより第2次試験の実技試験を始める!」