第2音
温かい…ここは…どこだ…?
優しい声がする。
誰かに呼ばれたような気がしてふと目を覚ました。
「おはようミヅキ。」
知らない美しい女性が俺を抱き抱えていた。
(いや何!?怖ッ!)
身の危険を感じ、必死でバタバタと藻掻くが動けない。
なんなら声も呻き声しか出せない。
(どうなってるんだ?そもそも俺ミヅキじゃねぇし何??何なのこれ!??)
「こらこらミヅキ、暴れないの。危ないでしょ。」
(いや危ないでしょって今の状況が一番危ないわ!
いやマジここどこ?なんで俺抱っこされてんのねぇ!!?)
散々暴れて、何故か急に泣きたくなって赤ん坊の様に大泣きをしてしまった。中学三年にもなって恥ずかしい。声も出せず分かってもらえなくて悔しかった。
「ミヅキどうしたの?お母さんはここですよ〜泣かないで〜」
そういいながら俺をゆさゆさと揺らす。
泣き疲れて温かくて眠くなってきた…あっダメ寝そう…
意識が飛びかけた瞬間、女性が言った言葉が頭の中で巡る。
いや待ってさっきこの人なんて言った?
【お母さん】だって…!?
そんな馬鹿な。俺は死んであのクソみたいな親から解放されてそれで…
俺は…死んで…
スっと頭が冴える。
ふと自分は死んだということを思い出した。
ピアノが嫌で、家のベランダから飛び降りたのだ。
じゃあこれは一体なんだというのだ…?
この人は、俺のお母さん…?
俺は、もう一度人の子として新しい世界に生まれたのか?
だとしたら自分は赤ん坊で、この人に抱っこされてて、俺は『ミヅキ』になったのか…?
冷静に頭を働かせ、自分が今置かれている状況を上手く飲み込んだ。
夢ではない。何故かそれだけは最初からはっきりと理解出来た。身体を包み込む体温の温もりがそれを証明してくれていた。
そう、俺は生まれ変わったのだ。「ミヅキ」と名付けられ、この世にもう一度生を授かったのだ。
それと共に、重苦しい音と親や他人からのプレッシャーと過剰な期待、そんな世界から解放されたのだと理解した。
次こそは楽しく人生を謳歌したい、と強く思った。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
時は流れ、15歳になった俺は楽しい人生を謳歌していた。
どうやらこの世界は魔法が溢れていて、結構何をするにも魔法が基準となっている。
そして俺の住む街、メロジティクト学園王国都市は
15歳になると、国立メロジティクト学園への入学試験を受けなければいけない法律がある。日本で言う高校である。
なぜ受けなければならないのかは口外してはいけないらしく、暗黙の了解となっている。落ちても特に何かある訳でもなく、なんならみんな落ちるからーみたいな。それはもう受ける意味があるのかは分からないがとりあえず受けるといった感じだ。
俺の今の父であるアレンはなんとその国立メロジティクト学園の卒業生であり、国を護る水魔導師らしい。
街に出ると皆が父さんに跪き、頭を下げる。
しかし、俺の父さんはおおらかで優しく、謙虚な人だ。それでいてどっちかと言うとちょっとアホっぽい。よく皿を割って母さんに怒られてるし、バナナの皮に滑るし、感動系の劇を見ると隣でボロボロ泣いている。
でも、俺がなにかしようとしたら心から応援してくれて、魔法の腕も超一流の尊敬できる大好きな父さんだ。
そんな父さんが「学校は楽しいぞ」とか「ミヅキもきっと母さんみたいに優しい彼女が出来る」とか嬉しそうに語るもんだから、それはそれは期待して受験した。受かったらラッキーみたいな感覚で、特に何も勉強もしてないけど。
その学校が、とてつもなく恐ろしい学校だなんて知らなかったのだ。